「僕とお付き合いしてください→いやです」「断る? ですって……?」
この世で愛してやまない片割れから、絶対にOKがもらえると思っていたジェイドにとってその返事は晴天の霹靂だった。好きですフロイド僕と付き合ってくださいいやですお断りしマス、までの流れがあまりにもスムーズ過ぎた。
「うん、もうオレ飽きたから」
フロイドはさらりとつれないことを言ってのける。
「あ、飽きた……? フロイドが飽きてしまわないように精一杯のことをしているつもりなのですが」
ジェイドのこめかみを冷や汗が伝う。そんなジェイドに、フロイドは困ったような顔をして見せた。
「ちがうって。ジェイドのことじゃない」
「じゃあ一体なにに?」
「……いつもジェイドは、熱中してるときは楽しそうだけど、飽きたらつまんなそうな顔になって興味も好意も全部失くすよね。いつかオレのことも飽きて、捨てたゴミと同じように見える日がくるんじゃねぇかなって思ってんの。ジェイドがオレのこと好きだって気づいてからずっと、ぐるぐる頭ん中がそのことばっか。もう、そういうこと、うだうだ考えんのに飽きたの」
フロイドは、この話しはもうおしまい、と言わんばかりにひらひらと気だるげに手を振った。
「今はジェイドにとってのゴールはオレだけど、いつか飽きたらオレは通過点になる。だったら一生絶対ゴールさせたくないなって思って。番になったら、ゴールしちゃうじゃん。だから、お付き合いはお断りしマス」
ジェイドはぽかんとした。
「なんですかそれ。……フロイドが僕に飽きる可能性だって充分すぎるほどあるでしょう。普段から二言目には飽きただの、退屈だのと言って、僕よりもずっと、飽きるまでの期間が短いじゃないですか」
「オレは、苦労して手に入れたものは最後まで手放さないもん。それに、これまで一度もジェイドに飽きたことねーし。これでもし番になったら、リスクを背負うのはオレだけだって言ってんの。それがヤなの」
「つまり、フロイドは僕のことが嫌いだから断ったわけではないんですね」
「そう」
「貴方から僕を嫌いになることはないし、飽きることもないと」
「そうだよ。でも逆はあるかも、なんて、不公平じゃん」
きっぱりと言い切られて、ジェイドは悩んでしまった。なんだかこれではもう、ジェイドの方が逆に告白されているようなものである。互いに愛の告白をしあっているようなこの状況で、フロイドを諦めろ、という方が無理だった。フロイドをなんとしても頷かせたい。けれど、一筋縄では行きそうにない。
ジェイドはあることを思いついて、にっこりと笑む。そんな彼をフロイドは薄気味悪そうに見つめる。きっぱりと振ってやったのに、目の前の男はどうしてこんなに上機嫌なのだろう。
「分かりました。それでは、これから僕は一方的に貴方のことを番だと思って生活することにします。フロイドは兄弟のままでいたいというのなら、無理強いはしません」
「はぁ……? なにそれ。どういうこと?」
「僕は貴方に好きだと言い続けますし、デートの誘いもします。抱きしめたり、手を繋いだり、キスもします。もちろん、嫌な時はどうぞ断ってください。僕が一方的に恋人として振る舞う、というだけですから」
「そんなことして、なんの意味があんの。オレが断り続けたら、ジェイドはなんもできないんでしょ。そんなことする意味ある?」
「だって、そうすればフロイドは傷つかないでしょう。愛を囁く僕のことはどうぞお構いなく。そうすれば、番気分なのは僕だけで、正式な番ではないのですから、フロイドにリスクなんて生じません。フロイドが応えなければ、僕の日頃の行いが悪い、というまでのことです。死ぬまできっと、僕は貴方を恋い慕うでしょうけれど」
「……っ、ジェイドにそういう態度とられて、無視できるほどオレは薄情者じゃねーんだけど……」
「おや、では僕の告白を受け入れてくださいますか?」
「それはヤダってば。あ、こら、さりげなく抱きついてくんなって!」
「愛しい人。両思いだと分かっているのに、みすみす逃すほど僕の想いは軽くありませんよ」
「うん。そうだね、今だけは、ね。ジェイドの好きは重くて軽いから」
ふと、フロイドが視線を落とした。
「僕の山やきのこに向ける好きの気持ちと、フロイドに対する好きの気持ちは全く別のものだと、本当に分からない?」
ジェイドも真剣な眼差しで食い下がる。
「……ジェイドの口がうまいのなんて、オレ、死ぬほどよく知ってる」
「そのよく回る口、塞いでみますか?」
「その手には乗らないから。オレがジェイドに気持ち全部持ってかれてから、ぽいって置いてかれるリスクの話をしてんの!」
ジェイドの腕の中で、フロイドはきゃんきゃんと喚いた。抱きつくな、とは言われたけれど引き剥がされたりはしないのをいいことに、ジェイドはずっとフロイドを抱きしめたままだった。
「まだ起きていないことをそこまで恐がるなんて貴方らしくもない」
「ジェイドは特別だから。特別過ぎるから、これ以上近づきたくねぇの。分かってよ」
大好きな相手にそんなことを言われて、距離を詰めない愚か者がいるだろうか。ジェイドはフロイドの頬にちゅ、と軽い音を立ててすぐに唇を離した。フロイドは非難の眼差しでジェイドをみる。
「話聞いてた?」
「ええ、もちろん。さて、許可を得ずに貴方にキスしてしまいました。罰をいただけますか?」
「別に……罰とかいーけどさ……。も、離れろって、ん、んんーー!」
「……お咎めはなし、なんですね。それでは、また、貴方にキスしたくなってしまいますよ」
「もぉ、してる癖にどの口が、は、あっ……!」
「僕としては、恋人の貴方に対してごく当然の好意を示す行為をしているだけです」
「恋人じゃねーし! っ……耳んとこで喋んなってば、ぁ!」
ジェイドに顎を固定されて、至近距離で囁かれる。フロイドは、拒みきれない。拒まないなら、ジェイドは踏み入っていくだけだ。あたたかい片割れの一番近くまで、深く深く。
「ずっと僕に追いかけていてほしい、なんて随分熱烈な愛の告白だ」
「オレ、んなこと、言ってねーから!」
「僕はこれからも恋人として振る舞います。僕は本気ですからね。……流されたままでいると、貴方しまいには僕に抱かれてしまいますよ」
低い声でそんなことを言うものだから、フロイドは目を見開く。
「え、ジェイドって、オレのこと抱けんの?」
今度はジェイドがきょとんとする番だった。
「当然でしょう? そういう行為込みで、貴方を愛している、と告白したんですから」
フロイドは何かを深く考え込むような顔つきになった。その目はどこか遠い宇宙を見ている。
「…………たしかに、アクセサリーやマンホールやキノコや山とはセックスできねーよなぁ」
フロイドは先ほどまでのしおらしい様子はどこへやら、途端に、にやりと不敵に笑った。彼はどうやら妙な納得を得たようだった。先ほど彼に、きのこや山に向ける好きの気持ちとこの好意は違う、と言ったけれど、別に性欲の話とは関係がないのに、なんだか話が変な方向にいきはじめた気がしてジェイドは焦った。
「フロイド? 別に僕はセックスがしたくて貴方に好きだと言ってるわけでは……」
「あーうんうん。そーゆーコトにしといてあげる。ジェイドも健全な男子高校生だもんね」
「ねぇ、ちょっと、本当に分かってます……?!」
「いーよー。ジェイドぉ、オレ達番になろっか」
ここにきてあっさりOKが出るとは、ジェイドにとって予想外だった。
「あ、ありがとうございます?」
ジェイドは思わず反射的に礼を言う。フロイドはにっこりと笑った。
「そうと決まれば、たーくさん、えっちしようねぇ」
「え? あ、はい……。よろしくお願いします。どうぞお手柔らかに……?」
困惑するジェイドに、くすくすとフロイドが笑う。絶対なんだかフロイドにまっすぐ自分の好意が伝わっていないような気がしたが、フロイドの気が変わらないうちに既成事実を作ってしまえるのはジェイドにとってもありがたかった。
そうして二人は雪崩れ込むようにベッドに沈む。
満足するセックスをしている限り、ジェイドは自分から離れていかない。そう結論づけたフロイドは、このあと大層えっちな番としてジェイドを困らせたり喜ばせたり狂わせたりするのだが、恋人同士になってから長い年月が経ち、最終的に、あれ、もしかして、そういうことじゃなくて、ジェイドって本気でオレが好きなの?と穏やかなワカラセが発生するのはまだまだ先の話である。
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「僕が告白してから、かなり経ちましたけど……。ようやく分かったんですか?」
「うん。ジェイドが山に飽きて、地図に飽きて、暗渠に飽きて、切手集めに飽きて、ご当地キーホルダーに飽きて、電車に飽きて、写真に飽きて、他の全部に飽きても、オレとの関係変わらなかったね」
「フロイドは僕のゴールではなくて、並走者ですから。通過地点になんてなりえないんです。貴方が僕の隣を走っていることに意味があるんですから。
フロイドこそ、よくぞ僕に飽きずに一緒にいてくれてますよね」
「ジェイドと居るの本当飽きないんだよね。自分でも不思議なくらいに。これだけ長いこと飽きてないなら、きっと100年経っても飽きないよ」
フロイドはにっこり笑うと、年月を重ねても尚、愛おしい彼の番の骨張った指に自分の指を絡めるのだった。
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誕生日&D100周年おめでとうございます!!ツイステにも本家にも何年もずっと狂わされてる。本当に素敵なコンテンツ……❤️
これからもずっと双子には仲良く楽しく人生を楽しんでほしいです……!お読みくださりありがとうございました!