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    ラジオデアドラの第一話から第三話まではここです。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13857111
    第四話
    https://poipiku.com/1455236/6698868.html

    第五話
    https://poipiku.com/1455236/6864178.html

    第六話
    https://poipiku.com/1455236/7416118.html

    第七話
    https://poipiku.com/1455236/7568147.html

    第八話
    https://poipiku.com/1455236/7615538.html

    ラジオデアドラ第九話 まともな仕事についていないリスナーばかりの番組で扱うには壮大すぎるというレオニーの意見をマリアンヌはきちんと受け止めてくれた。ヒルダの人を見る目は素晴らしい。

    「深夜放送と言えば怖い話だ!今日も引き続き調べたら怖かった話について話そう。図書館に置いてあるもの、例えば本や新聞の縮刷判や雑誌のバックナンバーで確かめられるもの限定だぞ」

     マリアンヌの人を見る目も素晴らしい、となるようにレオニーも精一杯話さねばならない。絶対に手のひらに収まるようにしてみせる、と言う宣言通り手のひらに収まるような企画になっている。人間はどう科学技術と付き合っていくべきか、危険な秘密結社にどう対抗するかという雲を掴むような話にすると殆どの者が語るべき言葉を持たない。

    「火力発電所と駐輪場のたとえを知っていますか?」
    「その言いぶりだとなんだか聖典みたいだな」

     台本の趣旨を説明するのに必要なのかマリアンヌはレオニーが聞いたことのない例えを口にした。町内に火力発電所を作るから何か聞きたいことがあれば遠慮なく、と言われても想像がつかないが駐輪場なら屋根なのか何台収容なのかなど皆細かく具体的なことを質問できる。火力発電所について質問したかったら火力発電所について具体的なことを知らねばならない。
     小さな話から始めて具体的にヒルダやベレトが何をしたのかリスナーにも想像がつくようになったら何を突き止めたのかを番組でも取り上げていく。

    「この企画が始まるまで他の番組やアナウンサーあてにあのおかしな魔法陣が描かれた手紙は継続して届いていた」

     ガラス越しにスタジオを眺めながらベレトはそう言った。マイクを挟んでレオニーとマリアンヌが座っている。レオニーが口籠もり目の前のマリアンヌがさらさらとノートに何かを書き付けていた。ペンを握る手はインクのしみだらけで昨日ヒルダが塗ってやったマニキュアは既にところどころ剥げている。

    「あ、マリアンヌちゃんがきちんと対処したから!」

     ヒルダは目を丸くした。専門知識のあるマリアンヌがきちんと被害を報告し事態を深刻に捉えた上層部がラファエルとベレトを雇ったせいで犯人たちの目論見は失敗している。何としても成果を得たいと考え継続していたのだろう。ベレトは自分の顔の前でVサインを作った。お前のことを見ているぞ、と挑発するジェスチャーだ。

    「これをされただけで相手は動きを止めた」

     ヒルダもマリアンヌも薄々気付いているがとにかく被害は広範囲にわたり個人や同好の士によるささやかな集団の規模を超えている。軍、消防、警察のような組織が新たに作られつつあるのだ。

    「ひと睨みでひいてくれてよかった」
    「刑法に違反してるからな」

     ベレトとマリアンヌが盛り上がっていたのでヒルダも異端者狩りについて本を読んでみた。当時のフォドラは病禍に苦しみ不安に覆われていた。何とかしたいという切なる思いがさらなる暗黒を呼び寄せていく。ヒルダたちが生きる現代も貧困問題や環境問題などさまざまな問題を抱えている。それらを解決するために小火騒ぎや火事を起こして回るという手段には全く賛成できない。
     ガラスの向こうではレオニーが葉書を読み上げマリアンヌが笑っている。ヒルダはマイクに拾われないように静かに笑う彼女が好きだ。このままではアガルタの民のように女神に滅ぼされてしまう、と焦る人々は最新技術で救われる人の顔を見ようとしない。ヒルダはそこに憤慨している。
     ラジオという全く新しいメディアがなければマリアンヌは軍をやめた後まだ孤独にダイナーで働き続けていただろう。だがヒルダが関わっていた番組に宛てて彼女は葉書を出した。放送は唯一中継が可能なメディアだが当時の番組を介したマリアンヌとヒルダのやりとりは文通に等しい。ヒルダは顔も知らないうちに彼女の独特な観察眼やわかりやすい文章に惚れ込んでいた。今回の調べ物の素養はマリアンヌを探すときに培ったのだろう。

    「先端技術を禁止する法律を作られたらどうしようかな」

     答えが返ってくることを期待せずヒルダは呟いた。新聞の一面は近頃宗教警察のことばかり伝えてくる。賛否はかろうじて否の方が多いが今後は分からない。不規則で享楽的で周囲からの理解を諦めた暮らしを送る番組のリスナーたちはもちろん嫌がっている。

    「何度でもそれはおかしいと言い続けるんだ。愛おしいと思うものがあるなら尚のこと言い続けるしかない」

     ベレトは声荒げず静かに、しかし聞き取りやすく話す。そして基本無表情なのだが珍しく柔らかい笑顔を浮かべながらヒルダの問いに答えた。意外性が全くない、とレオニーに指摘されたこともある通り学生時代のヒルダは勉強があまり好きではなかった。しかしベレトのような教師と出会っていたら少しは真面目に勉強したかもしれない。
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    MAIKING「説明できない」
    紅花ルートで戦死した記憶があるクロードと青獅子ルートで戦死した記憶があるローレンツの話です。
    2.振り出し・下
     士官学校の朝は早い。日の出と同時に起きて身支度をし訓練をする者たちがいるからだ。金鹿の学級ではラファエル、青獅子の学級ではフェリクス、黒鷲の学級ではカスパルが皆勤賞だろうか。ローレンツも朝食前に身体を動かすようにしているがその3人のように日の出と同時には起きない。

     ローレンツは桶に汲んでおいた水で顔を洗い口を濯いだ。早く他の学生たちに紛れて外の様子を見にいかねばならない。前日の自分がきちんと用意していたのであろう制服を身につけるとローレンツは扉を開けた。私服の外套に身を包んだシルヴァンが訓練服姿のフェリクスに必死で取り繕っている所に出くわす。

    「おはよう、フェリクスくん。朝から何を揉めているのだ?」
    「煩くしてすまなかった。単にこいつに呆れていただけだ」

     そう言うと親指で赤毛の幼馴染を指差しながらフェリクスは舌打ちをした。シルヴァンは朝帰りをディミトリや先生に言わないで欲しいと頼んでいたのだろう。

    「情熱的な夜を過ごしたのかね」

     呆れたようにローレンツが言うとシルヴァンは照れ臭そうに笑った。

    「愚かすぎる。今日は初めての野営訓練だろう」

     フェリ 2066

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    MAIKING「説明できない」
    青ロレ赤クロの話です。
    6.初戦・下

     クロードから自分たちを襲った盗賊の討伐が今節の課題だと告げられた皆は初陣だと言って沸き立っていた。金鹿の学級は騎士を目指す平民が目立つ学級で入学以前に領主の嫡子として盗賊討伐を体験している者はクロードとローレンツしかいないらしい。クロードはローレンツの印象よりはるかに慎重で毎日先行したセイロス騎士団がどの方面へ展開していったのか細かく記録をつけ皆に知らせていた。セイロス騎士団に追い込んでもらえるとはいえどこで戦うのかが気になっていたらしい。

     出撃当日、支度を整え大広間で待つ皆のところへベレトがやってきた時にはローレンツたちはどこで戦うのか既に分かっていた。

    「騎士団が敵を追い詰めたそうだね。場所はザナド……赤き谷と呼ばれている」

     そう言えばクロードはザナドが候補に上がって以来やたら彼の地についた異名の由来を気にしていた。赤土の土地なのか赤い花でも咲き乱れているのか。土地の異名や古名にはかつてそこで何があったのかが表されていることが多い。土地の環境によっては毒消しが必要になる場合もある。だが先行した騎士団によると特殊な条件は何もない、とのことだった。初陣の者た 2081

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    14.誘拐・下
     ローレンツとクロードの記憶通り事態は進行した。一つ付け加えるならばクロードがセテスにちょっかいを出したことだろうか。見当違いだと分かっていることを敢えてセテスに聞いたら先方が何故か安心した、とクロードから聞いてローレンツは眉を顰めた。やはりセイロス教会は何かを隠している。五年前から問題視していたクロードが正しかった。だがそれは大乱を起こす理由になり得るのだろうか。クロードは元から英雄の遺産と白きものについて探っていたがそれに加えてエーデルガルトが檄文で言及していた教会の暗部についても調べ始めた。

    「先に掴んで暴露してしまえば檄文自体無効になるかと思ったがそんな都合の良い案件は見当たらなかった。敢えて言うならダスカーがらみか?」
    「だがあれも機能不全に陥った王国の要請がなければ騎士団が担当することはなかっただろう」

     エーデルガルトが見つけたと称するセイロス教会がフォドラの全てを牛耳っている証拠とセイロス教会の秘密は同一なのだろうか、それとも違うのだろうか。探さねばならないものが増えてクロードは大変そうだ。大変そう、と言えばベレトも大変そうだ。彼は修道院内を丹念に探 2099

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    17.惨劇・上
     南方教会を完全に無力化されてしまったことや西方教会対策やダスカーの幕引きでの手腕には疑わしいところがあったがルミール村においてまず疫学的な検査から実施されたことからもわかる通りセイロス騎士団は手練れの者たちの集まりだ。ベレトの父ジェラルドまで駆り出されている異変においてクロードやローレンツのような部外者が介入しても迷惑がられるだけだろう。

     クロードにしてもローレンツにしても記憶通りに進んでほしくない出来事は数多ある。ロナート卿の叛乱もコナン塔事件も起きない方がよかったしこの後の大乱も起きて欲しくない。だがこのルミール村の惨劇は起きてほしくなかった案件の筆頭にあげられる。他の案件の当事者には陰謀によって誘導されていたとはいえ意志があった。嵌められていたかもしれないが思惑や打算があった。だがルミール村の者たちは違う。一方的に理性や正気を奪われ実験の対象とされた。そこには稚拙な思惑や打算すら存在しない。事件を起こした側は村人など放っておけばまた増えると考えたらしいが二人にとって直接見聞していないにも関わらず最も後味が悪い事件と言える。
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