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    ラジオデアドラの第一話から第三話まではここです。
    https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13857111
    第四話
    https://poipiku.com/1455236/6698868.html

    第五話
    https://poipiku.com/1455236/6864178.html

    第六話
    https://poipiku.com/1455236/7416118.html

    第七話
    https://poipiku.com/1455236/7568147.html

    第八話
    https://poipiku.com/1455236/7615538.html

    第九話
    https://poipiku.com/IllustDetailPcV.jsp?ID=1455236&TD=7615542

    ラジオデアドラ第十話 マリアンヌのアパートや机を燃やした男はラファエルに羽交い締めにされながらも炎で浄化しなかったら世界が滅ぼされてしまう、と熱弁していた。緑の瞳は熱に浮かされていて激怒するレオニーとヒルダの姿が脳内で像を結んでいるかどうかは怪しい。
     ベレトに依頼された通り録音機材を回していたので一部始終の音声が録れている。最新型のマイクは机を漁る音や呪文を詠唱する声、それを阻止するため殴りかかるラファエルの叫び声を拾った筈だ。
     日頃はこの時間帯に見かけない他の階で働く者たちも騒ぎを聞きつけてやってきたので本番一時間前だというのに人だかりが出来ている。残念ながらテープを一本使い切ってしまったのでこの先のやり取りは音声に残せない。ベレトが取り上げた社員証はマリアンヌが確認したところ残念ながら本物だった。営業部門で働いていたらしい。
     通報を受けやってきた警察に男を引き渡す際ベレトは火事を起こせば世界が救われるなんて有り得ないだろう、と語りかけていた。いつもは表情に乏しい彼が珍しくうんざりとした表情を浮かべていたので強くマリアンヌの印象に残っている。
     男が狙っていたのは皆で調べた嫌がらせの小火や火事の記録をまとめて作った資料だ。公的機関へ訴えられる前に手を打とうとしたらしいが独断専行なのか命じられてのことなのかは分からない。
     餌にしたので仕方ないことだがマリアンヌの机が焦げている。煙や臭いを取るため大きく窓が開けられ入ってきた風のせいで水色の髪が乱れていた。

    「イメージの問題だろうな……取り敢えずお高い録音機材が燃えなくて良かったと思おう」

     内密の話をするため野次馬たちを追い払ったレオニーが呆然としているマリアンヌの肩を軽く叩いた。レオニーは番組を続けていくうちに混沌とした場面に慣れたらしい。
     もしかしたら局内にいる危険人物を誘き出せるかもしれないとヒルダがベレトに提案した時マリアンヌは一連の放火事件の被害者として賛成できないと反対した。ヒルダの机や私物が燃えてしまうなど耐え難い。調査結果を集計し綺麗にまとめたのはヒルダでそれは彼女の机に入っていたのだが隙をついて資料を隠滅しようとした男は何故かマリアンヌの机を燃やした。

    「なあマリアンヌさん、その机もう使い物にならないだろうからオデが下に運んでやるよ!」
    「調書を取られるだろうから俺が下書きしておこうか」
    「マリアンヌちゃん、下の方の引き出しに入ってるものなら無事なんじゃない?」

     黙っていればしっかり者に見えるマリアンヌが呆然としている姿はヒルダにもレオニーにも見慣れた光景だ。脳内だけが猛烈に動いている時もあれば本当に何も考えていない時もある。裏方として番組を支える構成作家の生活を支えるディレクターと本来支えられるだけの筈だった番組パーソナリティは無事だった引き出しの中から大量の書き付けと糊のチューブを七本、消しゴムを八個そして半年ほど前に失くしたと言って再発行してもらっていた黒魔法使用許可証を見つけ出した。士官学校を卒業し何年か軍務に就いていれば普通なら整理整頓の達人になる。厳しい訓練を経ても尚矯正されなかった散らかし癖はマリアンヌの強烈な個性なのだ。

    「犯人、私とヒルダさんのことを何重にも間違えたんですね……」

     放送中、レオニーはヒルダにもよく言及する。かなり際どい企画の度に私が責任取るからやってみようの一言で押し切られた、とこぼすので知名度自体は高い。それとこれまでの番組でつけられた怠け者のヒルダ、という二つ名が印象に残っていたせいで混沌としたマリアンヌの机をヒルダの机だと思ったのだ。レオニーのせいでマリアンヌは再び被害に遭った、と言えなくもない。

    「ああ、なんてことでしょう……ヒルダさん!恐ろしくありませんでしたか?」

     マリアンヌは片付けのため軍手をしていたヒルダの手を煤がつくことも気にせず白い手で取り握りしめている。レオニーは初めてマリアンヌが正面から誰かの顔を見つめている姿を目にした。彼女は常に伏し目がちに過ごし正面から誰かの顔を見るとしてもそれはヒルダだけだ。

    「大丈夫だよ、資料も録音機材も燃えなかったし後で偉い人たちからたーくさん叱られるだろうけど今は大丈夫!」
    「それにしてもヒルダさんと私を間違えるなんて……耐えがたいです……!」

     問題はそこではないのだがヒルダが何故マリアンヌを見つけ出さねばと思ったのかレオニーにも分かるような気がした。他の者が彼女の美徳に気付く前に唾をつけておかねば掻っ攫われてしまう。もたもたしているうちに小鳥の雛のようなマリアンヌの前に自分以外の誰かが現れてしまったら。彼女がそいつの顔を真っ直ぐに見ることがヒルダには耐え難かったのだ。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    3.遭遇・上
     三学級合同の野営訓練が始まった。全ての学生は必ず野営に使う天幕や毛布など資材を運ぶ班、食糧や武器等を運ぶ班、歩兵の班のどれかに入りまずは一人も脱落することなく全員が目的地まで指定された時間帯に到達することを目指す。担当する荷の種類によって進軍速度が変わっていくので編成次第では取り残される班が出てくる。

    「隊列が前後に伸びすぎないように注意しないといけないのか……」
    「レオニーさん、僕たちのこと置いていかないでくださいね」

     ラファエルと共に天幕を運ぶイグナーツ、ローレンツと共に武器を運ぶレオニーはクロードの見立てが甘かったせいでミルディンで戦死している。まだ髪を伸ばしていないレオニー、まだ髪が少し長めなイグナーツの幼気な姿を見てクロードの心は勝手に傷んだ。

    「もう一度皆に言っておくが一番乗りを競う訓練じゃあないからな」

     出発前クロードは念を押したが記憶通りそれぞれの班は持ち運ばねばならない荷の大きさが理由で進軍速度の違いが生じてしまった。身軽な歩兵がかなり先の地点まで到達し大荷物を抱える資材班との距離は開きつつある。

    「ヒルダさん、早すぎる!」
    「えー、でも 2073

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    MAIKING「説明できない」
    赤クロと青ロレの話です。
    4.遭遇・下
     犠牲者を一人も出すことなく野営訓練を終えて修道院に戻ることが出来た。ローレンツのほぼ記憶通りではあるが異なる点がある。ベレトが金鹿の学級の担任になったのだ。正式に採用された彼は既に士官学校から学生の資料を貰っている。だがグロンダーズで行われる模擬戦を控えたベレトはここ数日、放課後になると学級の皆に話を聞くため修道院の敷地内を走り回っていた。

     ローレンツはあの時、模造剣を配ろうとしたのは何故なのかとベレトに問われたが予め野盗達に襲われているのを知っていたから、とは言えない。言えば狂人扱いされるだろう。

    「歩兵の足が早すぎたからだ。補給部隊が本体と分断されたら敵に襲われやすくなる」

     食糧がなければ兵たちは戦えない。敵軍を撤退させるため戦端を開く前に物資の集積所を襲って物資を奪ったり焼き払ってしまうのは定石のひとつだ。ローレンツの言葉聞いたベレトは首を縦に振った。

    「それで足止めして予備の武器を渡したのか。装備をどうするかは本当に難しいんだ。あの場合は結果として合っていたな。良い判断をした」
    「ありがとう先生。そう言ってもらえると霧が晴れたような気分になるよ」

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