離婚して再婚するやつ(仮)5 紛争当時、子供だった世代が親となり子供たちを育てている。あの頃は毎日のように同盟派と復帰派の衝突があり、保護者たちは心に深い傷を負いながら育った。ローレンツは川向こうからきたあんたに何がわかると胸ぐらを掴まれる度、彼らの来し方に思いを馳せる。変えてやることは出来ない。
だが、辛うじて行く末だけはまだ確定していない。どんなに無力感に蝕まれていようとそれを思い出してもらわねば子供たちが巻き込まれてしまう。先ほど補導された児童との面談を終えたローレンツはスクールカウンセラーのアネットへの申し送り、という名目で先ほど使っていた面談室に舞い戻り紅茶片手に愚痴をこぼしていた。
「七年生の生徒から言われるならともかく……」
「自分が五年生だった時のこと思い出してみなよ。先生の結婚話とか大好きだったじゃない」
離婚率も高いこの地区では離婚話の方が子供たちにとっては身近なのかもしれない。クロードの指輪が守ってくれなくなってからローレンツは一部の保護者への対応に苦労するようになった。定収入のある男性というだけで魅力的に映るらしい。
「確かにアネットさんの言う通りだ」
何だか苦しい、居心地が悪い、腹立たしい、そう感じるのは何故なのか考えて言葉にしなさい、とローレンツは指導していた。その過程で苦し紛れに子供の口から出てきた言葉は毎度心を抉る。
じゃあ何で先生は話も聞かずに旦那を家から追い出したの?───そう問われた時は話を聞こうとしたが残念ながら相手にしてもらえなかったのだよ、といつも正直に打ち明けている。反応はさまざまだが今回は上手くいった。
己の心に渦巻く不安や怒り、それに衝動をコントロール出来るように導いてやらねばこの地区の子供たちは安全に過ごせない。その為ならローレンツは喜んで己の失敗を曝け出す。
「でもね、本当のことを言うとクロードとのこと、私もいまだに残念なの。お似合いだったから」
「期待に添えなくて申し訳ない」
自分は結局クロードに信頼されなかったのだ、という苦々しい思いは生涯ローレンツに付きまとうだろう。今の自分がクロードのために出来ることがあるとしたらたった一つしかない。教え子たちの可能性を信じ、加害者にも被害者にもならないよう指導して治安の回復に協力することだけだ。