離婚して再婚するやつ(仮)19 朝の光が石畳を照らし冷え切った街を温めている。街はすっかり目を覚まし道路には通勤、通学用の車が連なっていた。ローレンツの勤務校では毎朝、当番の教員が子供を乗せた保護者の車を誘導している。誘導したところで渋滞は解消できないのだがそうしないとスクールバスが敷地内に入れない。
サングラスをかけたローレンツが車道の真ん中に立ってオレンジの誘導灯を振っていると運転席の窓が開いた。仕事に遅刻するかも、と焦る保護者になんとか納得してもらわねばならない。
「おはようございます。スクールバスを通すまでもう少しここでお待ちください」
「いやそれはわかってるわよ!それより先生!その指輪どうしたの?!遂にいい人できたの?」
スクールバスのクラクションが鳴ったので同じ人物とまた結婚することにした、とは言わずローレンツは黙って頷いた。しばらくは騒がしいだろうがこれで良い。指輪なしの三年間は結構大変だったのだ。
保護者との会食は規則で禁止されていると言ってもなりふりを構わないタイプの保護者は連絡先をワイヤレス通信で渡そうとする。拒絶のつもりで夫と離婚した、と告げても都合の良い妄想を繰り広げるので聞いているだけで消耗してしまう。
濁流のように押し寄せる保護者の車をローレンツが右に左にと捌いているとバイクが車を縫うようにして近づいてきた。フルフェイスのヘルメットをかぶっているので顔が見えない。気の荒い保護者がクラクションを鳴らしてもお構いなしに路肩に寄せて停車した。警察用車両であることを示す青と白の格子柄のカラーリング、白いヘルメットに蛍光イエローの警察官用ライダーズジャケット、というだけではまだ知らんぷりをするしかない。再びそっぽを向いてローレンツが誘導灯を振っていると痺れを切らしたのか警笛が短く鳴った。
「仕事中では?」
制帽に珍しく髪がおさまっているのはヘルメットを先程まで被っていたからだろう。腕を大きく振るのに邪魔なのかライダーズジャケットを脱いでいる。
「手伝うよ。通学路の安全確保も俺の仕事だからな」
誘導灯を手に得意顔をしている彼が交通課へ移動になったのはつい最近のことだ。非常に危なっかしい。
「……車に気を付けてくれたまえ」
「それはこっちの台詞だよ!」
だがローレンツに合わせて働き方を変えてくれたのだ。