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    そのうちクロロレになります。ェュ前提なのでご注意ください。紅花ルート

    有情たちの夜.10「幕間1_3」 ヒューベルトはデアドラの軍港近くにある館へと足を運んだ。デアドラの街中にあるリーガン邸も接収したが、クロードによってどんな罠が仕掛けられているか分からない建物を本部として使うわけにいかない。それに移動距離の短さがありがたかった。
     すぐ拠点としているガルグ=マクへ戻り、今度は王国へ北上する手筈となっている。だが同盟軍の武装解除とクロードの尋問に続けてベルグリーズ伯への引き継ぎも終えたため、ヒューベルトは体力の限界を迎えつつあった。主への報告を終えたら、出発までの数刻で構わないから身体を横たえて瞼を閉じたい。そう考えていたのだが黒鷲遊撃軍の将たちはリンハルトとベレスを除いてとにかく声が大きかった。
    「え、ええー!クロードさんがきたですってぇー!!あ、危ない目には合いませんでしたか?!」
    「冷静になりたまえ!先生がそばにいたのだぞ?」
     そして人間という生き物は瞼を閉じることができても耳を閉じることはできない。仮の執務室から扉越しに聞こえた話し声、というか騒ぎのせいでヒューベルトの眠気は一気に吹き飛んだ。命を助けてやったというのにクロードは最後の最後に場を引っ掻き回したらしい。
    「クロード、破れたあと敵だらけの中、潜り込む、すごいです!」
     慌てて扉を叩いて開けると落ち着きのない、気が置けない仲間たちにヒューベルトの主君エーデルガルトが囲まれている。かつてはお互い以外、何者をも信用できず声をひそめていたというのに今はこの賑やかさだ。
     孤高だったはずの若き女帝は卓に肘をつき顔を覆っている。誰にも───ヒューベルトにすら言わずに済ませようとしたこと、が黒鷲遊撃軍の者たちに発覚してばつが悪いのだろう。賑やかな空間を作り出したベレスはただ一人、表情も変えずに口を閉じている。
    「二人とも心配しなくていいぜ!俺はまだ戦えるから安心して背中預けてくれよな!」
    「あら、ヒューくんが来たわ。これで安心ね、エーデルちゃん」
    「リシテアには挨拶したのかな。ヒューベルト、経過観察ついでに確かめておこうか?」
     リンハルトの提案に是、という前に当事者たちの口から事情を聞かねばならない。
    「エーデルガルト様、ご説明を」
    「私は、大事にしたくなくて……私と師で対処できると判断したの。クロードは本当に挨拶しに寄っただけで……でも師は秘密が嫌いだから……」
     彼女の素性についてヒューベルトは幾度となく主君と語り合った。謎は抱えているが秘密はない。父親からもレアからも思わせぶりなことだけ言われ続け、ずっと疎外されたような気持ちでいたのだろう。
    「貴殿は秘密がお嫌いですか」
     ベレスは無言で頷いた。闇に蠢くものたちは彼女の存在に戸惑っている。クロードが指摘した弓と矢と射手の法則に当てはまらないからだ。
    「ですが今後は箝口令が出た件については守っていただきます。今回の件は痛み分けといたしましょう」
     ヒューベルトも彼女の存在には戸惑っている。これまで主君と自分しかいなかった閉じた世界に入り込み、あろうことか開閉が自在な扉まで付けたからだ。世界が可変であれと心底願っていたのにその通りである、と示されると尻込みしてしまうのは何故だろうか。
    「私も秘密は好きではない。だからクロードが侵入した件について私たちに知らせたのは正しかったと思う。そもそも大事にするかどうかは……」
     その扉からヒューベルトの世界に飛び込んできたフェルディナントが自説を滔々と述べている。ガルグ=マクにいた頃は空虚だと感じた彼の言葉はこの五年間でその重みを増した。他人からもたらされる喜びは想像以上に人生に彩りを添えてくれる。
    「警備を強化させます。エーデルガルト様、決してお一人には……」
    「ヒューベルト!君もだ!私は君を決して一人にしない!」
     皆、言っていることがてんでばらばらで本当に騒々しい。今はそんなことを感じるべきではないのに一喝して皆を黙らせたくなるほど───ヒューベルトは幸せだった。



     エドマンド港を出た船が西に向けて小麦を積んでいることは今も三年前も変わらない。変わったのはその小麦を受け取る相手だ。クロードが敗北するまではフラルダリウス家だったが今は帝国軍が受け取っている。クロードの勝敗とは関係なくエドマンド辺境伯の懐は豊かになっていく。その手腕を恐ろしいと見るか頼もしいと見るかは人によって意見が異なるだろう。
     〝クロード〟が生きている限り反帝国派は打ち負かされたとしても何度でも集うことができる。今は親帝国派とされる同盟の諸侯たちも考えを改めるかもしれない。あの時、エーデルガルトには強い葛藤があったはずだ。念押しはしたものの彼女の胸中から疑念が去ることはない。
     「盟主殿が五体満足とは実に驚いたな。首級を確かめにデアドラへ赴く手間が省けたようだ」
     帝国の者たちに知られれば叛意あり、と見做されるだろうに辺境伯はエドマンド港に辿り着いたクロードと直接接触していた。この度胸が彼に富と成功をもたらすのだろう。彼に見込まれて養女となったマリアンヌはまず操船技術を叩き込まれたのだと聞いている。残念ながら引っ込み思案な彼女が帆を操る姿を目にする機会はなかった。
    「時間節約の手伝いが出来て俺としても光栄だよ。なんだかグロスタール伯と同じくらい忙しそうだ」
    「おや、グロスタール伯は盟主殿とお会いになったのですか?」
     国外に行くなら、と言う理由でお目溢ししてもらった立場で遠回り出来るわけがない。クロードにとって挨拶せねばならない者と挨拶したい者は残念ながら重ならなかった。ローレンツのことを考えると心が痛む。
     直線距離だけで言えばデアドラからパルミラに戻るには海路が一番早いが、それにはいくつか問題があった。第一に今はデアドラ港が使えない。
    「残念ながらエドギアに寄る時間がなくてね」
     第二にフォドラとパルミラは国交を結んでいない。クロードが嫡子として祖父に招かれた際もスレンを経由してデアドラに入っている。東方の着香茶はフォドラでも人気だがスレンを経由して輸入されているのだ。
    「お互い、用件は手短に済ませた方が良さそうだ」
     そう言ってエドマンド辺境伯が手のひらを差し出したのでクロードは耳飾りを外した。ある角度で持って光にかざすとパルミラ王家の定紋が浮かび上がる。ヒューベルトもこの耳飾りを改めたはずだ。この耳飾りを作れる職人は技術の流出を防ぐため王都近くの離島に監禁されている。パルミラの内外に広く知られた話だが、外の世界と付き合いがないフォドラの平民たちには知る由もない。
     王族の耳飾りについてマリアンヌの義父が知っているのはスレンとの取り引きがあり、パルミラの海賊船から航路を守っているからだ。平和であれば苦労話を詳しく聞く機会があったかもしれない。だがクロードたちにそんな暇はなかった。
    「白い紙の上で確かめたほうがわかりやすいぜ」
     晴れているので太陽光が一番明るい。クロードの助言を聞き入れたエドマンド辺境伯が白い紙を手に光源を求めて窓に近寄った。検分している時の表情を見られたくないのか偶然なのか彼はクロードに背中を向けている。マリアンヌは養女という話だが、細身で長身なエドマンド辺境伯の後ろ姿は少し彼女と似ていた。薄くとも血縁関係自体はあるらしい。
    「一番早いスレン行きの船は明朝に出航します」
     クロードが手のひらを差し出すとエドマンド辺境伯がそっと耳飾りをのせた。知る人が見ればこの小さな物体にパルミラ王国の国力が注ぎ込まれている、とわかる。
    「殿下に査証をお渡ししたいのですが名義はどうなさいますか?」
     エドマンド辺境伯の口調があからさまに変わったことが何故か残念だった。適当に決めた偽名だし名前は単なる記号に過ぎない。それでも失ってしまうとなると何故かやたらと惜しく感じた。
     クロードはクロード=フォン=リーガンであることが気に入っていたらしい。だがそのためにレスターの民全てを巻き込み、同盟領の全てを戦場にすることはできなかった。今後、クロードはエーデルガルトとは真逆の理由で悪夢を見ることになるだろう。
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    MAIKING「説明できない」
    赤クロ青ロレの話です。
    15.鷲獅子戦・上
     フレンが金鹿の学級に入った。クロードにとっては謎を探る機会が増えたことになる。彼女は教室の片隅に座ってにこにこと授業を聞いてはいるが盗賊と戦闘した際の身のこなしから察するに只者ではない。兄であるセテスから槍の手解きを受けたと話しているがそういう次元は超えていた。

    「鷲獅子戦にはフレンも出撃してもらう」

     やたら大きな紙を持ったベレトが箱を乗せた教壇でそう告げると教室は歓声に包まれた。これで別働隊にも回復役をつけられることになる。治療の手間を気にせず攻撃に回せるのは本当にありがたい。今まで金鹿の学級には回復役がマリアンヌしかいなかった。負担が減ったマリアンヌの様子をクロードが横目で伺うと後れ毛を必死で編み目に押し込んでいる。安心した拍子に髪の毛を思いっきり掻き上げて編み込みを崩してしまったらしい。彼女もまたクロードと同じく秘密を抱える者だ。二重の意味で仲間が増えたことになる。五年前のクロードは周りの学生に興味は持たず大きな謎だけに目を向けていたからマリアンヌのことも流していた。どこに世界の謎を解く手がかりがあるか分かりはしないのに勿体ない。
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