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    takami180

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    長編曦澄13
    兄上、自覚に至る(捏造妖怪を含みます)

    #曦澄

     姑蘇の秋は深まるのが早い。
     清談会から半月も経てば、もう色づいた葉が地面に積もる。
     藍曦臣は寒室から灰色の空を見上げた。
     彼の弟が言っていた通り、今年は寒くなるのが早かった。今にも雪が降りだしそうな空模様である。
     藍曦臣の手には文があった。十日も前に送られてきた江澄からの文である。
     まだ、返事を書けていない。
     以前は書きたいことがいくらでもあった。毎日、友に伝えたくなる発見があった。
     それが今や、書きたいことといえばひとつしかない。
     ――会いたい。
     顔が見たい。声が聞きたい。朔月に飛び乗ってしまいたくなる衝動が襲う。
     もしこの欲求をかなえたら、自分は次に何を願うだろう。
     彼が寒室に泊ったときを思い出す。あの朝、たしかに髪に触れたいと思った。そうして前髪に触れたのだ。
     許されるならば、額にも、まぶたにも、頬にも触れてみたい。
     もはや認めざるを得ないところまで来ていた。
     断じて、彼が言っていたような義弟の代わりではない。だが、友でもない。あり得ない。
     ため息が落ちる。
     何故、という疑念が渦を巻く。己の感情さえままならない未熟を、どのようにして他人に押し付けるつもりなのか。
     藍曦臣ははっきりと自分自身に落胆していた。姑蘇の双璧、沢蕪君と世人は言う。しかしながら、皮を剥げば一人の前にうろたえる意気地のない男にすぎない。
    「返事を、書かなければ」
     机に向かい、筆をとる。
     まずは紅葉を見に行けそうにない、という謝罪に答えよう。
     ——気にしないでください、今度は私が雲夢に参りましょう。冬が来る前に……
     冬、蓮花塢の冬はまだ先だ。それまで、彼には会わないようにしたほうがいい。また失態をくり返さないように。
     絶対に友であることは手放したくないのだ。
     藍曦臣は料紙に筆先を落とした。
     ——ご都合の良いときをお知らせください。
     江澄は多忙である。忙しさにかまけて、忘れてくれるかもしれない。藍曦臣も暇ではない。都合を合わせるのが難しいこともある。
     藍曦臣は書き上げた文を師弟に託した。天気の崩れやすい季節である。雨が続けば蓮花塢に着くまで五日以上もかかることがある。
     寒室に戻る途中、藍忘機と魏無羨に出くわした。彼らは今晩、夜狩に出るという。
    「雨か、雪になるかもしれないからね。気をつけて行っておいで」
    「はい」
     弟は素直に頷いた。ところが、魏無羨は口をへの字に曲げていた。
    「沢蕪君、なんかさ、またやつれた?」
    「そうでしょうか」
    「なあ、藍湛もそう思うよな」
    「少し、お元気がないように思います」
     二対の瞳がじっと藍曦臣の顔を見る。いつも彼らはするどい。弟は口に出さないだけで気づいているし、魏無羨は必要と判ずれば口に出すことを厭わない。
     藍曦臣はうなずいた。
    「少し、疲れたのかもしれません」
     閉関を解いた後、猶予なく政務に戻り、それも慣れないうちに清談会があった。そのせいだと思ってほしい。
    「今日はもうお休みになられては」
    「ありがとう。そうさせてもらおうかな」
     藍曦臣は弟に笑顔を向けて、では、と拱手した。その背を追いかけて、魏無羨の声が飛んでくる。
    「あんまり無理しないほうがいいですよ」
     それはどういう意味なのか。彼の言葉に裏を読んでしまうのは杞憂にすぎない。
     藍曦臣は会釈だけを返し、寒室へと足を向けた。
     庭に咲く竜胆の花は、その数を減らしている。
     その晩は、凍えるような雨が降った。
     
     翌朝、藍忘機だけが戻ってきた。藍曦臣と藍啓仁を前にして、彼は妖を捕らえ損ねたという。
    「猿のような妖異でした。西に逃げたので、今は魏嬰が先に追っています」
    「猿か、よくない兆しでなければよいが」
     藍曦臣は災害をもたらすという猿妖を思い出した。姑蘇は今まさに例年にない寒さに襲われている。
    「忘機、その猿は早々に捕らえなければならない。山に入れば恵を流し、川に入れば水を暴す」
    「猾猿か!」
     藍啓仁が膝を打った。これは一大事である。
    「各世家に知らせを走らせよ。人を集めなければ」
    「私は魏嬰を追います」
    「頼むよ」
     雲深不知処はにわかに慌ただしくなった。
     西へ、と藍忘機は言った。
     山がある。そして、雲夢がある。
     できれば姑蘇の内で捕らえたい。
     藍曦臣は筆を取った。まずは川北に点在する世家へ。それから、西の江家へ。
     災禍を知らせるとともに助力を願う。
     猾猿とはそれほどの妖異である。
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     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
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    お野菜AU:出会い 藍渙が初めてその踊りを見たのは彼が九つの年だ。叔父に連れられ蓮茎の国である雲夢へと訪れた時だった。ちょうど暑くなり始め、雲夢自慢の蓮池に緑の立葉が増え始めた五月の終わり頃だ。蓮茎の植え付けがひと段落し、今年の豊作を願って雲夢の幼い公主と公子が蓮花湖の真ん中に作られた四角い舞台の上で踊る。南瓜の国である姑蘇でも豊作を願うが、舞ではなくて楽であったため、知見を広げるためにも、と藍渙は叔父に連れてこられた。
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    SPUR ME尻叩きその②

    江澄が所属しているのは映画観賞同好会(好きな時に好きな映画を見て好きな時に感想を言い合う)です
    肝試しに行ったら憧れの先輩とお清めセックスをすることになった話②時刻は21:00。大学のキャンパスのある市街地から車で約30分の郊外。参加メンバーのSUVでやってきたその廃墟は、遠目に見た瞬間から「ヤバイ」の一言に尽きた。
    そこはかつてそれなりに繁盛していたが、数年前に突然廃業した元病院なのだという。建物の外観は、壁が崩れているとか蔦が生い茂っているとか、そこまで激しく朽ちている訳ではなく、むしろつい最近まで使用されていたもののように見えるのだが、纏う雰囲気が尋常ではなく「ヤバイ」。人の出入りもなくなって久しいというが、やけに生々しい空気が建物にまとわりついているようで、それがなんとも言えない不気味さを醸し出している。江晩吟は声にこそ出さなかったが、その類まれなる美貌の顔面を、「うげぇ」という正直な感情を抑えることなく思いっきりしかめていたのだが、どうやらこの場の空気の異常さを感じているのは江晩吟と、件の同級生だけであるようだ。ほかのメンバーは、「思ったよりもきれいじゃん」だの、「ちょっと雰囲気足りなかったかなー?」だの、「やだ―虫たくさん飛んでる~」だの、まったく周囲の空気の異様さには気が付いていないようだった。
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