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    yuno

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    yuno

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    現代AU曦澄+紫蜘蛛さま。街角で偶然出会った曦澄と虞夫人がお茶をする話です。虞夫人の前夫完全拒否話とも言います。フーミン絶許が書きたかっただけです。

    #曦澄

    【現AU曦澄】再会「阿澄……?」
    「母上……?」

    交差点ですれ違いざまに目を見開いた。
    視線の先にはよく似た顔があった。浮かべている表情までまったく同じ、驚愕の色をしている。
    思わず足を止めたのも、双方同じ。
    「……」
    「……」
    よく似た二人。誰もが血縁者と思うだろう二人は、けれど、今生においては血の繋がりはなかった。
    親子であったのは遠い前世でのこと。

    ***

    ここじゃなんだから。どこか近くの喫茶店にでも。
    藍曦臣に促され、いつまでもこんなところで突っ立っていても通りの邪魔だろうと、場所を移した。

    「阿澄、なのね」
    「はい。母上もお元気そうで何よりです」

    近くにあった喫茶店に入り、ぎこちなく再会の挨拶を交わす。現世の名を明かしつつ、互いに馴染みのないそれよりも、前世の名で呼び合うことに同意する。
    それでこちらはと隣に視線を向ける虞紫鳶に、藍曦臣は控えめに微笑みながらも自分の名を告げた。

    「そう。貴方が次の藍氏の宗主に」
    「ええ。温氏の襲撃に遭い、父は命を落としました。その後、嫡男の私が宗主に立たせていただきました」

    虞紫鳶が前世で命がけで子どもたちを守り、蓮花塢にて散った後の世のこと。遠い目をする彼女を、江澄はなんとも言えぬ心持ちで見つめる。

    「それで、今も二人の縁は続いているの? 不思議なものね」

    私ともこうして巡り合うなんて。苦笑する虞紫鳶に、そうですねと藍曦臣も相槌をうつ。

    「お互い若くして宗主に立った者同士、気でも合ったのかしら」
    「まあ……そんな感じです」

    前世と、そして現世での二人の間柄をどう説明すべきか迷い、江澄は視線を彷徨わせた。常の歯切れの良さは鳴りを潜め、濁しがちな言葉に、藍曦臣も曖昧な笑みを浮かべる。
    だが、虞紫鳶は勘づいたのか、気に入らないと言うようにコツコツと指先でテーブルを叩いた。

    「おやめなさい、いい加減な取り繕いを私は好まないわ。貴方も知っているでしょう」
    「……はい。すみません」

    恐縮するように身を縮こまらせる江澄に思わずくすりと笑ってしまい、藍曦臣は双方から睨まれることになった。

    ***

    その後、二人の関係を打ち明けさせられ、どこか居た堪れないふうの江澄だったが、意を決したように、母上と口を開いた。

    「あの、今生で私と親子関係にないのは、やはり……」

    だが、どうしても最後まで言い切れず、言葉を濁してしまう。
    現世に生まれ変わった江澄の母親は虞紫鳶ではなかった。父親も違う。江楓眠の生まれ変わりではない。
    姉も、魏無羨も、江澄の家族としては生まれ変わっていなかった。
    再び運命の出会いを果たした藍曦臣は叔父も弟も前世と全く同じだったのに、江澄の家族関係はすっかり変わってしまっていた。家族はみな前世とは何に関わりもない人たちで、自分だけがぽつんと生まれ落ちたような、そんな気分だった。

    「そうね。私は同じ関係をやり直したくはなかったの」

    虞紫鳶が手元のティーカップをなぞりながら、ぽつりと零した。

    「……そうですか」
    「誤解しないで。貴方の母親になりたくなかったわけではないのよ」
    「え……」

    ぽかんとする江澄に、虞紫鳶は、言葉足らずは良くないわねとため息をついた。

    「貴方と厭離と、もう一度親子をやり直せたらと思うことはあったわ。次はもう少し癇癪を抑えてね」
    「母上……」
    「でもね。私はどうしてもあいつと夫婦をやり直すのは嫌だったのよ」

    心底嫌そうに虞紫鳶はその美しい顔を歪ませた。

    「母上……?」
    「あいつだけは、あいつだけはもうまっぴらごめんだわ。せっかく生まれ直せたのよ。あんな結婚生活、二度と繰り返したくないわ」
    「ええと……」

    思い出すのも腹が立つのか、忌々しさを顔中に張り付かせて虞紫鳶が悪態をつく。江澄と藍曦臣はなんと言ったら良いのか返す言葉に迷い、互いに顔を見合わせた。

    困惑する二人に気づいたのか、ああ、ごめんなさいねと虞紫鳶は咳払いした。仕切り直すように紅茶に口をつける。

    「まあ、つまり。私は貴方たちと違って、生まれ変わっても再びあの男とめぐり逢いたいとはこれっぽっちも思わなかったわけ。むしろ絶対に会いたくないわ。もう二度と関わり合いたくないの」
    「そ、そうなんですか……」

    藍曦臣が苦笑いする。江夫妻の不仲は聞き及んでいたものの、ここまで拒まれるほどだったのかと認識を新たにした思いだった。

    「夫婦を繰り返さないとなれば、生まれてくる子も異ならざるを得なかったんでしょうね。だから、貴方も厭離もそれぞれ別の家庭に生まれたんじゃないかしら。残念だわ」

    あの男抜きでならやり直してもよかったのに。ふんと鼻を鳴らす虞紫鳶に、江澄は自分が拒否されていたわけではなかったのかとホッとした。

    「では、父上にはお会いしてないんですか?」
    「……」

    問いかける江澄に、不機嫌そうに虞紫鳶はそっぽを向いた。
    その様子に、江澄は再び藍曦臣を顔を見合わせる。

    「もしかして、今生でお会いしたことがお有りですか?」
    「……ええ」

    昔のことだけれどね。苦虫を噛み潰したような顔で虞紫鳶が嫌々頷く。美人がそんな顔をすると結構な凄味があった。
    前世や今生で、江澄によって見慣れた表情ではあったものの、生き写しと言われた元の顔で見るのはまた別の迫力がある。藍曦臣は内心でこっそり冷や汗をかいた。

    「その、父上はなんて……?」
    「……やり直せないかって言ってきたわね」

    もちろんその場で断ったけれど。心底忌々しそうな虞紫鳶に、江澄は聞いたことを後悔した。
    この話を掘り下げても怒りを買うだけだ。やめよう、なにか違う話題を。そう思ったのだが、思い出してしまったのだろう。虞紫鳶は吐き出し切ることにしたらしい。

    「その口ぶりからすると、貴方はまだあいつには会っていないのね? 忠告するわ。やめておきなさい」
    「え……?」
    「もちろん、貴方がどうしても会いたいというのならどうしようもないけれど。でも、言っておくけど、あの男、まったく変わってないわよ。自己中心の無神経なまま。話にならないままよ」

    死んでも治らなかったみたいね。吐き捨てるように言う虞紫鳶に、江澄としてはどう返したらいいのかわからない。

    「ええと……」
    「私とあの男が上手く行ってなかったのは、貴方もよくわかっているでしょう?」
    「ええ、まあ……」

    そうですねと言葉を濁す。江澄は決まり悪げに珈琲を口に含んだ。藍曦臣は先程から口を挟むのをやめて静かに見守る態勢だ。
    まあ、よその家庭のことだものなと江澄もため息をつく。藍曦臣も話題に入ってきづらいだろう。

    「あいつはね、とにかく自己中心的なのよ。自分が良かれと思ったことを周りにも押し付けるの。それで理解されなかったり、同意されなかったり、自分の思うような反応や結果が得られないと相手のせいにしてこれみよがしに落胆して見せるわけ。自分はなんにも悪くない、自分の期待を裏切る周りが悪いってね」

    貴方も覚えがあるでしょう? 問われ、身に覚えしかない江澄は反応に困った。素直に頷いて良いものだろうか。

    「まあ、私もね、良い母親とは言えなかったわ。苛立ちを随分貴方にぶつけてしまったもの。悪かったと思っているの。私の気性は生まれ変わってもあまり変わらなかったし、親子をやり直さなくて良かったのかもしれないわね」

    のびのび子供時代を過ごせるほうが貴方にとっても良かったでしょう。ため息をつかれ、江澄はハッとして首を横に振った。

    「いいえ、母上が躾けてくださったことがどれだけ私を助けてくれたか。母上の誇り高い信念は私の支えでもありました。厳しさも意味のあることだったと感謝しています」
    「そう? なら良いけれど……」

    でも、やっぱり私は厳しすぎたわね。今だったらやり過ぎの鬼母だと非難囂々だわと虞紫鳶が苦笑する。彼女なりの照れ隠しだと藍曦臣は思った。この人たちはやはり親子だ。とてもよく似ている。

    「とにかくよ。私にあの男を父親としてどうなのと非難する資格はないかもしれないけれど、夫にするのはお断りだと全力で拒否させてもらうわ。これは経験者だからこその意見よ」
    「は、はあ……」

    大真面目な顔の虞紫鳶に、江澄は勢いに押されて頷いた。

    「あんなないがしろにされる扱い、もう二度とごめんだわ。最後のほうだけ良いことをしたからって、それまでがチャラになると思ったら大違いよ。それはそれ、これはこれよ。とにかく絶対お断り」
    「そうですか……」
    「私はね、今の夫と幸せに暮らしてるの。たとえ友人関係だろうと、あの男の入る余地はないの。だというのに、あいつ……!」

    話しているうちに怒りがぶり返してきたのか、虞紫鳶の肩がわなわなと震えだした。

    「自己中のまま、まったくこれっぽっちも変わっちゃいなかったわ! 自分がやり直したいと言えばやり直せると思いこんでいたのよ。私が断ったらあいつなんて言ったと思う? どうして? よ! どうしても何も、嫌だからに決まっているでしょうが!」
    「は、はい……」
    「それで一から十まで説明すれば理解するのならまだいいわ。でもね、言ったところであいつは理解する気がないの! そもそもまともに聞いてすらいないのよ。でも、今度こそいい夫婦になれると思うんだ、ですって? 何の根拠があって?! 前世でも今でも私の不満に向き合いもしないくせに、理解もしないで改善されるわけがないでしょうが!」

    自分がそう思えばそうなると思いこんでいるのよ、馬鹿じゃないの! テーブルの上を叩かんばかりに憤っている虞紫鳶に、落ち着いて落ち着いてと、江澄と藍曦臣は必死に宥め賺す羽目になった。何だどうしたと怪訝そうにチラチラ見てくる周囲の視線が痛い。
    ヒートアップした自覚があるのか、虞紫鳶は再びこほんと咳払いをしてソファに座り直した。紅茶のお代わりをオーダーする。
    ご馳走するから貴方達もどうぞと促されて、江澄と藍曦臣もそれぞれに飲み物のお代わりを注文した。ついでにケーキも頼み、仕切り直すように甘いものを口にする。

    「母上が既にご結婚されているなら、それ以上言ってくることはないと思いますが……」
    「そうね。あのままだとストーカーになりそうだったから、すぐに今の夫と入籍したの。結婚指輪を見せつけてやったわ」
    「そうなんですね……」

    それはまた気の強いことだ。変わっていない気っ風につい笑みが浮かぶ。懐かしく思えて口元がほころんだ。視線を上げれば彼女もまた微笑んでいた。

    「今の夫はいい人よ。ちゃんと話し合いができるもの」
    「それは良かった」
    「次は私たちの家にも遊びに来て。夫を紹介するから」
    「ありがとうございます」

    自分たちの関係をなんて説明するのだろう。前世で親子関係でした? 旦那さんは目を白黒させるかもしれない。想像するとおかしかった。

    「阿澄、貴方も今、幸せなんでしょう? 前世でも恋仲だった人と今生でも巡り会えたのだもの」
    「はい」
    「なら、そのまま自分の幸せのために生きなさい。他人の満足に付き合わされちゃだめよ」

    自分の大事な人を大事になさい。
    真剣な目で言い聞かせてくる虞紫鳶に、ああ、この人はやはり自分の母上だと江澄は思った。
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    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
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     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
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     江澄は眉間にしわを寄せた。
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    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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