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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    長編曦澄15
    おや、再び兄上の様子が……

    #曦澄

     あの猿は猾猿という怪異である。
     現れた土地に災禍をもたらす。
     姑蘇の、あまりに早く訪れた冬の気配は、疑いなくこの猾猿のせいである。
     猾猿は気象を操る。江澄を襲った倒木も、雨で地面がゆるんだところに風が吹きつけた結果だった。
    「何故、それを先に言わん」
    「あんな状況で説明できるわけないだろ」
     魏無羨はぐびりと茶を飲み干した。
     昨夜、江澄は左肩を負傷した。魏無羨と藍忘機は、すぐに江澄を宿へと運んだ。手当は受けたが、想定よりも怪我の程度は重かった。
     今は首に布巾を回して腕を吊っている。倒木をもろに受けた肩は腫れ上がり、左腕はほとんど動かない。
     そして今、ようやく昨日の怪異について説明を受けた。ちょっとした邪祟などではなかった。藍家が近隣の世家に招集をかけるような大怪異である。
    「今日には沢蕪君もここに来るよ。俺が引いたのは禁錮陣だけだ。あの怪を封じ込めるには大きな陣がいるから、人を集めてくる」
     話をしているうちに藍忘機も戻ってきた。彼は江澄が宿に置きっぱなしにした荷物を回収しに行っていた。
    「なあ、藍湛。江家にも連絡は出したんだろ?」
    「兄上が出されていた」
    「入れ違いになったか」
    「だいたい、なんで江澄が姑蘇にいるんだよ」
     江澄は答えられない。連絡もなしに雲深不知処に向かっていたのだ。藍曦臣に会うために。
     何をどう言い訳をすればいいのかも思いつかない。
    「お前には関係ない」
    「ふうん」
     魏無羨はそれ以上追求することはなかった。
     ともあれ、江澄は今は動けぬ身である。安静にするほかはない。
     昼過ぎに宿の階下が騒がしくなった。藍曦臣が仙師を連れて到着したらしい。
     彼は魏無羨と藍忘機と共に房室に上がってくると、椅子に座る江澄を見つけて目を見張る。そして、次にはさーっと青ざめた。
    「江宗主、それは、その怪我は」
    「昨晩、猾猿とかいう奴とやり合った」
     江澄は目を合わせられず、そっぽを向いたまま答えた。
     会いたい、と思っていたはずの人なのに、どうしてか気まずい。
    「何故、そのようなことを」
    「魏無羨から何も聞いていないのか?」
    「あなたが待っているから、とだけ」
     藍曦臣は呆然としていた。江澄は舌を打った。魏無羨は、江澄が関係ないと言ったのを根に持っているらしい。
     文句を言おうと顔を向けると、さっきまでいたはずの二人は姿がなく、藍曦臣だけが残されていた。
    「その、昨晩はたまたま、この町にいて、魏無羨に出くわしたんだ。奴が陣を張るというので手伝った。それだけだ」
     藍曦臣はゆっくりと近づいてきて、江澄の左肩に触れた。
    「痛みはありますか」
    「多少はあるが」
    「薬があります。用意させましょう」
    「ありがたい」
     だが、藍曦臣の手は離れていかず、江澄は首を傾げた。
    「おい、どうした……」
     ふわりと今度は右肩に手が置かれた。
    「よかった」
     異様に強張った声だった。藍曦臣の目には涙が浮かんでいる。
     江澄は唖然とした。
    「猾猿の力は人が抗えるものではありません。怪我で済んでよかった。本当に」
    「そ、そうか」
    「私は、知らぬところであなたを失いかけていたのですね」
     ぐ、と右肩に置かれた手に力がこもった。
     藍曦臣に何が起きたのかは理解できないが、ともかくどうやら自分はまだ彼の友であるらしい。
     江澄はほっと息を吐いた。当初の目的はこれで果たせた。
     その江澄の背中に藍曦臣の腕が回る。
     軽く抱きしめられた。
     すぐに離れていったが、今のはなんだ。
     目を丸くする江澄をよそに、藍曦臣はやけに真剣な顔でのぞき込んだ。
    「晩吟、あまり無茶はしないでください」
    「え、いや、それは状況次第だ」
     無理をしなければならない場面は、今までだって何度もあった。彼もよく知っているはずだ。
     ところで、さっきのはなんだ。
     藍曦臣は困り顔のまま、「そうですね」と微笑む。
     江澄は「そうだ」と答える。
     さっきのは、いったいなんだったんだ。
     聞きたいと思うのに、口から言葉が出てこない。
     藍曦臣はすぐにいつもの表情を取り戻していて、江澄は口をつぐんだ。
     藪をつつくような真似はしたくなかった。
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     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    兄上、頑丈(いったん終わり)
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    「とりあえず、水を」
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    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
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     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
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     夏の夜だ。寒いわけではない。
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    Qにはいつだって夢が詰まってる。
     誰だ。この人に酒を飲ませたのは。
     ……俺だな。
     今まさに自分の身に降りかかっている惨状に溜め息を吐いて、江澄は手にある酒杯を煽った。いっそ自分も酒精に理性を奪われてしまっていれば楽になれただろうに、真後ろに酔っ払いがいる状態では、酔うに酔えない。むしろ酔いもさめた。
     卓の上に散乱した酒壷と元は酒杯だったものの残骸を見つめて眉間にしわを寄せた。途端、後ろから伸びて来た指が、ぐりぐりと眉間の皺を伸ばそうと押してくる。
     痛い。この馬鹿力め。
     怒鳴る気すら失せて、煩わし気に手を払うと、くすくすと楽し気な笑い声が聞こえてくる。
    「おい、藍渙。そろそろ放してくれ」
     椅子に座り、膝の上に自分を乗せて後ろから抱きかかえている藍曦臣に無駄だと分かりながらも声をかけた。顎でも乗せたのか、ずっしりと肩が重くなる。
    「なぜだい? こんなに楽しいのに」
    「そうか。あなたは楽しいか。それはよかった。だが、放しても楽しいと思うぞ」
     俺は楽しくない、という言葉は辛うじて飲み込んだ。
     藍曦臣は酒精を飛ばして水のようにして飲むことができる、と魏無羨から聞いていたため、藍曦臣が珍しく茶ではなく、江澄の酒壷 3901

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    DONEお野菜AU。
    雲夢はれんこんの国だけど、江澄はお芋を育てる力が強くてそれがコンプレックスでっていう設定。
    お野菜AU:出会い 藍渙が初めてその踊りを見たのは彼が九つの年だ。叔父に連れられ蓮茎の国である雲夢へと訪れた時だった。ちょうど暑くなり始め、雲夢自慢の蓮池に緑の立葉が増え始めた五月の終わり頃だ。蓮茎の植え付けがひと段落し、今年の豊作を願って雲夢の幼い公主と公子が蓮花湖の真ん中に作られた四角い舞台の上で踊る。南瓜の国である姑蘇でも豊作を願うが、舞ではなくて楽であったため、知見を広げるためにも、と藍渙は叔父に連れてこられた。
     舞台の上で軽快な音楽に合わせて自分とさほど年の変わらない江公主と弟と同じ年か一つか二つ下に見える江公子がヒラリヒラリと舞う姿に目を奪われた。特に幼い藍渙の心を奪ったのは公主ではなく公子だった。
     江公主は蓮茎の葉や花を現した衣を着て、江公子は甘藷の葉や花を金糸で刺繍された紫の衣を着ていた。蓮茎の国では代々江家の子は蓮茎を司るが、なぜか江公子は蓮茎を育てる力よりも甘藷を育てる力が強いと聞く。故に、甘藷を模した衣なのだろう。その紫の衣は江公子によく似合っていた。床すれすれの長さで背中で蝶結びにされた黄色い帯は小さく跳ねるのにあわせてふわりふわりと可憐に揺れる。胸元を彩る赤い帯もやはり蝶のようで、甘藷の花の蜜を求めにやってきた蝶にも見えた。紫色をした甘藷の花は実を結ぶことが出来なくなった際に咲くというから、藍渙は実物をまだ見たことないが、きっと公子のように可憐なのだろうと幼心に思った。
    2006