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    江澄ににゃあと言わせたかった現代AUです。
    小さい金凌もでます。藍曦臣はふわふわの筋肉がしっかり付いていると思っています。
    これを書いていたらタイトルの曲が頭を離れなくなりました。

    #曦澄

    The Waltzing Cat「子供向けのコンサートをやるから金凌とおいで」

    チケットを2枚握らせられたのでやってきた地元のコンサートホール。幼稚園は2ヶ月の夏休み。金凌をかりると姉夫婦に告げると、二人は諸手を挙げて喜んだ。久々の自由な時間を満喫するといい。江澄自身にも有給消化の理由が出来た。

    「そのコンサート大人気なのよ。特にお母さんたちに。」

    姉の言葉に「子供たちにではなく?」と聞こうと思ったが、なんとなくその理由は予想は出来る。






    「じうじう!見て!ほゎんほゎん!」

    金凌は真ん丸の目をキラキラさせステージ上の藍曦臣を指さす。渙渙と言いたいらしい。江澄とよく一緒にいる人物は覚えている。

    「阿凌、お利口で座っているんだぞ、立ったら後ろのお友達が見えないからな。それからアリさんのお声だ。」

    叔父が唇に人差し指を当てるのを真似る。

    「それじゃあ次はThe Waltzing Catという猫ちゃんの曲です。」

    このコンサートはどうやら指揮者がMCをするらしい。藍曦臣はタクトとマイクを手に客席の方の指揮も執る。

    「らららら、らら〜♪のメロディーが聴こえたら皆で一緒に、にゃお〜♪って言う。できそうかな?おや、自信がある?うんうん、それじゃあ練習してみましょう。」

    コンサートマスターがそのメロディーを奏でると、客席からはにゃおと控えめな声。それでも褒めてくれるのが彼たる所以だ。

    「上手だね。それじゃあ次は女性の保護者の方々だけで。せーの、らららら、らら〜♪」

    「にゃおー……。」

    「ふふふ、恥ずかしがり屋な猫ちゃんですね。もっと声を出していいですよ。」

    悲鳴でも聞こえそうな雰囲気だ。女性人気はこのせいで間違いない。会場も江澄の胸中もザワザワとしている。
    登壇した際あちこちで藍曦臣の名前を呼ぶ黄色い声が聞こえていた。場所をわきまえたボリュームではあったが。
    真白の燕尾服は豊満と言ってしまってもいい美しい体躯を隠しきれておらず、羞花閉月の面はまさに天に恵まれた造りだった。柔和な表情と、如何にも良家の出といった所作と語り口が、そこに隙を演出している。

    「じゃあ次は小さなお客さまですよ。はい、らららら、らら〜♪」

    「「「にゃお〜♪!!!」」」

    大きなホールに元気に響く子供たちの声。金凌もぱやぱやと柔らかな茶色の髪の毛を跳ねさせながら、身を乗り出して猫の真似をする。甥のあまりの可愛さに動画を撮りたくなるが、残念ながら撮影禁止だ。叔父は拳を握りしめた。感情が忙しい。

    「わあ、素晴らしい!この曲は何度もやったけど、今日が私の人生で最も素敵な出来になりそうですね。」

    『渙渙』の賛辞に金凌も誇らしげにしている。

    「それじゃあ最後に男性の保護者の方々。」

    え、男はいいだろうと思っていると藍曦臣の双眸は完全にこちらを捉えている。熱っぽく、強請るようで、江澄が抵抗出来なくなるあの視線。金凌は金凌で「じうじうのばん!」とばかりに期待に目を輝かせている。
    やるかやらないかなんて選択肢は無い。不穏な雰囲気を纏う藍曦臣に逆らうのは後が怖い。なんでやってくれなかったの、寂しかった云々言われながら激しく責められることは目に見えている。それに金凌の気の強い眼に水の膜が張るのも見たくない。
    江澄の意思に関係なく頬に血液が集まる。不機嫌そうに眉を寄せる、気持ちを誤魔化す時の癖が出た。
    指揮者がコンサートマスターに合図を送るとメロディーが流れた。らららら、らら〜♪
    迷っている暇は無い。なんでこんなことを俺が!という気持ちは自分自身でどうにかこうにか蓋をして。折り合いをつけて。最適な決断を下す。

    「にゃお。」

    一生のうちで自分が口にするなど思いもよらなかった言葉に江澄はのたうち回りたかったが、天香国色のその人は一瞬静止したかと思うと、直ぐに満開の艶やかな微笑みを咲かせた。甥も「じうじうじょうずだねぇ!」と満足気だ。

    「よく出来ました。それでは曲を始めます。時々振り返って皆さんがちゃんと猫ちゃんになれるか見ていますからね、楽しみましょう。」

    そう言って背を向けると、空気が変わる。
    藍曦臣を見つめる人々がワルツを奏で始める。何度も練習したメロディーが流れ、その度に子供たちの声に混ざり江澄も鳴かされた。ヴァイオリンも子猫になり、可愛らしい鳴き声を聞かせてくれる。呼吸は揃い、集団なのに1匹の大きな生き物のようだ。曲中の子猫は飛び跳ね走り回る。
    指揮者は濃い蜂蜜色の視線を細めて投げてよこしながらも会場を操り続ける。巨大な空間を掌握する背中は白く広く。そこにいる演者も客席も全ての人間が、藍曦臣の一挙手一投足に注目していた。気が付けば誰もが彼の色に染まりきる。

    「かっこいいな……。」

    無意識にこぼれ落ちる。

    「うん!」

    華美に修飾する言葉などなくていい。
    子供たちの歓声と大人たちの喝采を遠くに聞きながら、江澄もまた湧き上がる感情を抑えきれなかった。







    興奮の冷めない金凌を送り届け、姉家族と夕食を共にし家へ帰ると、程なくして藍曦臣も帰ってきた。

    「お帰り。暑かったろう。」

    「ただいま、来てくれてありがとう。」

    平服に着替えているが、あの空間の余韻で別人のように感じる。でも別人のようではあるがいつもの藍曦臣だ。

    「俺たちも楽しませてもらった。金凌も帰ってから何度も猫のやつが面白かったと。」

    「私も。今後The Waltzing Catをする時はいつも今日のことを思い出すよ。」

    にこにこと微笑んで手を洗いながらの台詞が、何となくまだ舞台の上にいる人のようで江澄は不満だった。

    「家でもまだ世辞を言うのか。」

    声色に機微を感じ取った音楽家は、ちょっとだけ驚いた顔で不機嫌な愛しい人を抱きとめる。

    「怒らないで、阿澄。私がなぜあの曲を演ったか分かる?」

    なぜそんなことを聞くのか分からない。考えていると、

    「下心だよ。」

    と耳元に解答をくれた。

    「あの女性に人気で高名な『藍曦臣』が、どういう下心だ?」

    口角を上げ、今日もたくさんの人を虜にした男の顎を摘む。自分もまだ興奮しているのかもしれない。
    無意識な人たらしが少しだけ憎らしい。自分は甥に懐かれるのがせいぜいなのに。この人は俺のものなのに。
    藍曦臣は理不尽に無体を働かれてもされるがまま。それは紳士然としている訳では無く、楽しんでいるのだと江澄は知っているのか。

    「貴方が、その……にゃおと言うところを聞きたくて……。」

    自分より体格のいい白皙の麗人はいつの間にか壁際まで追い詰められて可憐に頬を染めた。

    「で、どうだった?」

    江澄はその顔を見ると意地悪をしたくなる。
    が、可愛い顔をしてたとか、恥ずかしがる顔に最高にそそられたとか、あのまま舞台をおりて貴方をどうにかしたかった等と並べたてられればこちらも返り討ちにされた気分だ。
    おまけに犬歯を指でなぞられ、

    「猫の牙みたいで愛らしい……。」

    と言われると、とんだ人間に仕掛けてしまったと後悔するけれどもう遅い。予定とは違うおかしい雰囲気になる。
    藍曦臣は大抵この手のことはこうなることを、そろそろ理解したらいいのにと思ったが、言えば滅茶苦茶に怒るのだろう。しかし怒らせたい気もする……。

    「も、もういい、分かった。」

    江澄が体を引くと、藍曦臣がついてくる。
    この切り替えの速さは曲が始まる時に似ている。緊張と静寂。今まさにタクトを握っているのは自分ではなくこの男だと脳内で警鐘が鳴る。主導権を握った者は追い討ちをかける。

    「本当に分かった?2人だけでもう一度演ろうか?どうだったか全部伝えられたか……、自信が無いな。」

    形勢逆転が確実になると一気に攻めに転じる。反対側の壁まで追い詰め、猫を捕まえた。江澄は背筋に走る感覚に震えた。
    これが名高き藍曦臣だ。
    世間の印象はさて置き、ふにゃふにゃと眉を下げるその人にはギラギラとした下心がある。
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     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
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     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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