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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    続長編曦澄4
    あなたと口付けを交わしたい

    #曦澄

     さわやかな朝に似合わない、沈鬱なため息がもれる。
     客坊に向かう江澄の足取りは重い。
     どんな顔をして藍曦臣に会えばいいのかわからない。だが、今日姑蘇へ帰る客人を放っておくことはできない。
     さらには厄介なことに、自分は藍曦臣に触れられたいと思っている。手を握られたように、口付けられたように、またあの温もりを感じたい。
    「何なさってるんですか、宗主」
     声をかけられて我に返った。いつのまにか足を止めていた。食事を片付けに行っていた師弟が、訝しげにこちらを見ている。
    「沢蕪君、お待ちですよ」
    「ああ、わかっている」
     江澄は再び歩きはじめた。
     客坊に着くと、藍曦臣はすでに外出の支度を終えていた。
    「おはようございます」
    「おはようございます、江澄」
    「もうお帰りになるのか」
    「ええ」
    「門までお送りしよう」
     江澄は踵を返した。よかった、いつも通りに話せている。
     ところが、「待ってください」と引き止められた。振り返る前に腕を取られる。
    「江澄、ひとつお願いが」
     腰をかがめて、思い詰めたような表情で藍曦臣は言う。江澄はごくりと唾を飲んだ。
    「なんだろうか」
    「また、しばらくあなたに会えなくなります」
    「そうだな」
     雲夢と姑蘇とは遠い。ここ数ヶ月で何度も顔を合わせていたことのほうが珍しいのである。
     胸に、すっと痛みが差し込む。
    「江澄、抱きしめてもよろしいですか」
    「え」
    「あなたを覚えていたい」
     ひたむきな視線だった。江澄はうなずいた。
     そろり、と藍曦臣の腕が背中に回る。力を込めたら壊れるとでも思っているような、そんな手つきだった。
     藍曦臣は十も数えないうちに体を離した。
     江澄は白い衣の脇をつかんだ。
     やってからしまったと思ったが、取り返せるものではない。昨晩、忠告されたことを忘れたわけではなかった。つい、体が動いてしまった。
    「すまない」
    「いえ……」
     すぐに手を離したが、今度は藍曦臣が離さなかった。
     藍曦臣の手のひらが頬に添えられる。
     心臓が跳ねた。
     この後、何が起こるか知っている。
     知っていて、江澄は目を閉じた。
     唇にあたたかいものが触れた。一度離れて、次は強く押し付けられた。
    「あなたの気持ちをお聞きしたい」
     藍曦臣の視線が江澄を射貫く。
     江澄は困った。触れ合うのは嫌ではない。むしろ求めている節がある。だが、これが同じ気持ちなのかはわからないままだ。
     もしかすると、自分は藍曦臣を利用しているだけかもしれない。好意を寄せてくれているから、自分の欲しいものと引き換えに応じているだけなのかもしれない。
     まったく不誠実……、ずるい態度だ。
     ふいに力強く抱きしめられた。
    「急ぎましたね、忘れてください」
     しかし、この体温を手放したくないと思うなら、答えるしかないのだろう。
     江澄は離れていこうとする藍曦臣の背中に腕を回した。
    「同じだ。あなたと」
     さきほどよりも強く、息が苦しくなるほどに抱きしめられる。
    「江澄……!」
     言ってしまった。あざむいてしまった。
     江澄の脳裏に金光瑶の笑顔が浮かんだ。
    (騙されて傷ついた人に、俺は同じことをしている)
     一瞬にして後悔した。なんということをしたのだ。
    「曦臣、あの」
    「江澄」
     両方の頬を両手で包まれて、江澄は言葉に詰まる。
    (言えない、無理だ)
     近づいてくる顔を拒否できず、江澄は再び唇を受け入れた。
     今までで一番長く、離れがたい口付けだった。
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     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
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