ラッキードッグの秘密の恋人ラッキードッグの秘密の恋人
『ラッキードッグ・ジャンカルロには秘密の恋人がいる』
その噂がデイバンの片隅でうまれ、街中を駆け巡ったのは、彼の三十歳の誕生日から幾日も経たない、肌寒い季節のことだ。
イタリア系の移民を中心として発展してきたデイバンは、古くから彼らを庇護してきた非合法組織が実権を握っている。コーサ・ノストラ、CR:5――その頂点に立つ男、それがジャンカルロだった。
彼は見事な統率力で街を治め、この寒風吹き荒ぶ不況の嵐の中でもデイバンの経済を持ちこたえさせた。しかも彼は、ヤクザ者の粗暴さなど微塵も見せない、鮮やかな金髪と端正な秀貌を持つ、人当たりの良い青年だった。
その男が、三十歳のまさに男盛りを迎える。
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