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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    結局、昨晩は次兄に連れられて自宅へ戻った。 ちいさく駄々をこねれば、しのぶ兄さんが一緒に寝てくれた。カナヲは甘えん坊ですね。それでいい。しのぶ兄さんと、一緒に居られるのであれば。
     翌朝、僕が目覚めたら、兄さんの姿は既に無かった。階下で朝食の気配がする。ぱたぱたと階段を下れば、カナエ兄さんとしのぶ兄さんが、揃って朝食を用意していた。
    「おはよう、カナヲ。よく眠れた?」
    「カナヲ、顔を洗ってきなさい」
    「はい」
     二人からの言葉へ、同じ返答をした。勝手知ったる何とやらで(そもそもここは僕の生家だ)洗面所へ赴く。白色のフェイスタオルが一枚用意されている。これを使えということなのだろう。二人の愛用している洗顔フォームを拝借し、掌で泡立てる。細かな白い泡をもちもちにして、顔の皮膚に押し付ける。数回そうして、泡を洗い流した。
    (……、これは?)
     洗面台の排水溝に、何か、引っかかっている。半透明の、ちいさな皮。きらきらした、網目模様の、円形の……?
     排水溝からそれを引き出したカナヲは、フェイスタオルで円状のそれを拭った。ところどころに、黒色の斑点が出ている。
    「カナヲ、焼けましたよ」
    「! は、はい!」
     キッチンからの声に思わず返事をし、カナヲは足早にリビングへと向かった。半透明のちいさな皮は、寝間着代わりのジャージのポケットに入れた。

    ◆◆◆

     朝のことを終え、カナヲはしのぶに声をかけた。昨晩の出来事は何だったのか。腑に落ちないからである。水面からこちらを覗いたあの人影。兄から流れた煙草の匂い。ぬめった指先、滴る水。
    「カナヲ?」
    「しのぶ、にいさん。その、昨晩は茶室で何を」
    「……? ああ、そのことですか」
     ふ、と笑んで、次兄は昨晩の事を訥々と語り始めた。その前に、茶を一つ。ふわふわにあわ立った抹茶をいただき、カナヲは心を落ち着けた。
     ――あんな時間に、茶室で何を?
     ――片付けです。茶釜が崩れていましたので。

     ――宇髄から預かったものは何だったのか。
     ――蝋燭です。ほら。引き戸の滑りを良くするために、よく使うでしょう?

     ――大池にいたものは何か。
    「池から、ヒトが顔を出していた?」
     ぱちぱちと数度瞬いて、次兄は柔らかく笑った。細められた目は、淡い紫色。どこか虚ろで、光のない瞳に、昨晩の水面が見えた。
     ぱちゃん。
     水面が揺れる。波が立つ。渦になる。カナヲは抗わずに頷いた。
     ゆっくりと考えるようなそぶりをみせた次兄の前髪が揺れる。髪の一本一本が、なぜか克明にばらけて見えた。すだれのような髪のはざまから、どろりとしたものがあふれている。
    「……気のせい・・・・ですよ、カナヲ」
     次兄の雰囲気に気圧されるまま、カナヲは頷いた。

    ◆◆◆

    「何か、来る」
     ちいさな唇で、女がつぶやいた。水の滴る黒髪が、きれいな裸体に張り付いている。月明りの照らす裸体は、蠱惑的で美しい。まろやかな素肌のところどころに、魚のウロコがみてとれる。
    「聞こえるんですか、冨岡さん」
    「ああ」
     小さく、ひそやかな会話。冨岡と呼ばれた女は、大池に爪先をつけた。
     月明かりが爪先と水面を照らす。二つの足先を揃えて水につければ、そこから波紋が広がった。
     不規則な波紋が、女の足を飲み込んでゆく。
     白い素肌が、水に溶ける。闇に溶ける。

     波立つ皮膚、黒化する肌。
     一分ほどで、女の下肢はひとつになり、黒く染まった。

    ――とぷん。

     音もなく女は消える。深夜一時。カナヲが襖を開くまで、あと数秒の刻であった。

    ◆◆◆

     その日、カナヲは記憶通りにロウソクと線香を買った。菜園でナスときゅうりを収穫する。カナエはとってきたミソハギを束ねている。
     盆が近い。向こう側から、たくさんの子供たちが帰ってくる。
     産屋敷は、そんな家だ。

     翌日に備えて、カナヲは玄弥にメールを送った。駅前に十時ごろ。寝て起きて、着替えて身支度をして駅前へ向かう。
     人ごみに紛れて、友人の玄弥がいた。
     玄弥との待ち合わせはスムーズだ。特徴的な髪型は、すぐに見つかる。一言二言話しかけて、仏具店へと二人で向かう。昨晩、カナエから「買い物にいくならこれも」と仰せつかったものだ。カナヲは素直に言うことを聞いて、カナエから金銭とメモを預かった。
    『産屋敷です、と言えば通じる』
    【仏具 悲鳴嶼商店】
     物騒な字のあてられた店に入る。店先には、暑気を避けた猫が日陰に寝そべっていた。
    「にゃう」
     店内は静かだ。店番をしているちいさな子供に「うぶやしきです。これを」と、メモを渡した。それを見た子供は、ぽんと両手を合わせて「お待ちください、用意してまいります」とカナヲに伝え奥へ引っ込んだ。
     鉄風鈴の音がする。
     ちりり。
    「栗花落んちって、ツユリじゃねーの?」「複雑なんだ。興味があればあとで説明する」「興味ある」
     男子中学生二人で、意味のないやりとりをする。カナヲ自身も、家が複雑であろうことはなんとなく肌で感じていた。
    「産屋敷さま、品物はこちらです。お代は頂いておりますので」
     小さな包みを三つ。それを目の前で紙袋に入れ、子供はカナヲに差し出した。それを素直に受け取り、二人は仏具店を辞した。
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