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    wave_sumi

    いろいろなげすてる。最近の推しはなんかそういったかんじ
    性癖が特殊。性転換が性癖

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    wave_sumi

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    3.おはぎをつくる(2/3) 計量は調理の肝だ。それは薬でも変わらない。アオイの両親は、漢方の薬剤師だ。母親のほうは、漢方薬剤を料理に転用した、小さなカフェを開いている。
     両親は人間を観察するのがうまい。話し方や視線の動き、それに肌の色などから最適な漢方をするりと見つける。患者からは、占い師のようだと言われ、アオイはそれが誇らしかった。そんな両親を持って生まれたアオイにも、その才はある。幼いころから店に来る患者とふれあい、あの方はここが悪くて、この方は咳の音が変で、その方は。と、作業場の両親に伝達するのが仕事であった。
     よく観察できたね、と褒められるのがうれしくて、無意識に他人を観察してしまう癖がついた。それは産屋敷の本家でも、胡蝶家でも、栗花落の家でも、神を相手にしても。出てしまう。
    「さて、と」
     じゃらじゃらと波のような音をたてて、小豆を量る。まずは三百グラム。ぴったりにして、水で洗う。ショキショキと小豆を洗う音がたつ。水の冷たさが指先をつたって、手のひら全体にわたるころ、一度水をかえた。
     大き目の鍋に水と小豆を淹れて、強火にかける。
     沸騰するまでに、アオイは一晩水につけておいたもち米をザルにあけた。濡らして固くしぼった布巾を蒸し器に敷く。その上にもち米を広げ、器の壁に沿ってまあるく形作り、布巾で包んだ。なるべく全体に熱が行きわたるように、丁寧に包む。
     そうこうしているうちに、小豆の鍋が沸騰し、豆がぽつぽつと浮いてきている。コップ一杯の水を差して、もう一度もち米の作業に戻る。
     蒸し器の鍋にたっぷりの水を入れてコンロにかける。そうすると、沸いた小豆がまた踊る。きんと冷えた寒さの中、もくもくと上がる湯気がアオイの頬を上気させていく。小豆鍋の水を調整し、豆のしわが伸びきるまでくつくつと煮詰めた。
     蒸し器の水も沸騰したので、もち米をかける。こちらはタイマーを三十分。きっかり測って、その間に小豆の作業を進めた。
     煮えた小豆をざっと洗って、もう一度強火にかける。沸騰しない程度に火の番をしながら、アオイはメモをとった。
    (小豆三百グラム、渋切りまでの時間は約三十分。もち米は……)
     両親を見て育ったせいで、アオイは調理時間や調合のメモをとるのが癖になっていた。なるべく再現できるように、事細かにメモをとる。今日の気温、沸騰するまでの時間、それと。
    (シナズガワさん、大正時代の人、鶴……だから、味覚はどうなんだろう……人魚のトミオカさんは、普通にいろいろ食べていそうだった。同じものと考えていい。ということは、大正時代の味に近づけるために)
     指が自然に動いていた。ぱたぱたとスマートフォンをタップしながら検索していく。大正時代のおはぎについて。おはぎ・別名ぼたもち。農家の素朴なおやつとして食べられていた。ぼたは屑米のこと。現代では粒あん・こしあん・きなこ・海苔・ごまなど、多彩なもので味付けされている。
     ぱたぱたと情報を更に検索し、とある一文が目についた。
    (小豆の粒が萩の華に似ているから、萩の餅……おはぎ、ですか)
     粒あんと、もち米を半殺しにすることをアオイは決めた。おそらく、大正時代のことだから……作業の精度は今より低くていい。ただ、なるべく均一になるように潰すことを決めた。
     くつくつと小豆の鍋が沸騰する。あくを取り除き、砂糖を半量加えた。老婆から買い取った砂糖は、よく知る上白糖ではない、カラメルのような色をしていた。味を見れば、普通の砂糖と同じだったので、何も考えずにざらりと加え、小豆を炊いた。
     もうもうと熱がこもる中、アオイは無心で小豆をつぶし、蒸しあがったもち米をつぶしていった。
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