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    serisawa

    ふるやさんとしほちゃんがSUKIです

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    serisawa

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    付き合ってないふるやさんとしほさん。
    ワンライお題メーカー「誰も見てない」より。

    #降志
    would-be

    Time Limit 月の見えない薄曇りの夜。
     目的地に着いた降谷は愛車を停めて、後ろ手にドアを閉めた。
     煌々と灯る街灯の人工的な灯りを反射する降谷の髪は、それこそ月を零したような色をしていると、その姿を認めた者がいたならば、称したかもしれない。
     そんな詩的な感傷など持ち合わせておらず、また意外に自身の容姿に無頓着な彼は、暗色の空にも停めたばかりの愛車にも目もくれず、ただ目的の部屋へと向かって扉を開く。

     先日彼女に頼んだ解析の結果が出たと、連絡を受けたのはつい一時間ほど前のこと。
     その時点で時刻は日付を超える直前だった。
     まだまだ仕事中だった降谷も大概だが、彼女も相当に夜型だ。
     エレベーターで七階へと上がり、チャイムを鳴らすも反応は無い。
     慣れた様子で鍵を取り出した降谷は、躊躇うことなく鍵を回し、レバーを引いた。
     綺麗に整えられた玄関は、女性の一人暮らしらしくジャスミンの香がふわりと香る。

    「志保さん、入るよ」

     無論鍵を閉めることも忘れない。
     靴を脱ぎ揃え、上がり框を踏んで室内へと入る。
     リビングには誰もいなかった。彼女の居場所はわかりきっている。リビングに隣接するベッドルームを兼ねた研究室。そちらへ続く扉をノックするも、やはり反応は無い。

    「……入るよ」

     二度目の声かけにも反応が無いのは承知の上だ。
     ガチャリとノブを回し、室内へと入る。

     そこには思った通り、机にうつぶせたまま、スヤスヤと寝息を立てる彼女――宮野志保の姿があった。
     手にはスマホを握ったまま。パソコンのディスプレイには降谷が頼んだ解析結果が示されている。
     解析を終え、降谷に連絡を入れた直後に力尽きたのだろう。覗き込んだ目尻には、色濃い隈が残っている。
     急ぎだとは言ったものの、睡眠時間を削れとまでは言っていない。
     無論他の仕事もあるのだろうが、彼女の能力の限界を超えてまで根詰めなくていいとは伝えた筈だ。
     だというのに、いつだって彼女は降谷の依頼に全力で応え、無茶をして、降谷が受け取りに行く頃には力尽きている。そんなことを繰り返したために、妙齢の女性の家の鍵を預かる羽目にまでなってしまった。

     やれやれと、その細い身体を抱き上げてベッドへと運ぶ。
     流石に年ごろの娘に必要以上に触れるわけにもいかず、くしゃくしゃの白衣はそのままだが、机で眠るよりはずっと身体にいいだろうと思いたい。

    「君な、いい加減にしないと明日は説教だぞ」

     誰に聞かれるわけでもない独り言を吐きながら、その身体を横たえて毛布をかけてやると、志保は身じろぎしてからくるんと羽毛の中へ包まり、背を向けた。猫みたいだな、と知らず口元に笑みを零しながらも、降谷は先ほどまで志保が眠っていたデスクに向き直る。
     カチカチとマウスを数回クリックして、検証結果のPDFへと辿り着く。
     科学については畑違いだが、ある程度は降谷の予想していた通りの結果であることだけは読み取れた。後の検証はこちらの仕事だろう。
     持参したUSBを差し込み、データを吸い上げれば今日の降谷の仕事は完了だ。
     ふう、と一息ついたその時、んん、と物憂げな女の声が耳に届く。
     ちらりと寝台へと視線を向けると、背を向けていたはずの志保が寝返りを打って、こちらへと顔を向けていた。

     伏せられた瞼を縁取る長い睫毛。
     形のよい鼻腔。
     少しだけ開かれた柔らかそうな唇。
     寝乱れた首元に覗く、白い肌。

     全てが無防備すぎて、目の毒だ。
     眩暈を覚えながらも跳ね除けられた毛布を直そうと立ち上がり、腰の辺りで丸まった毛布を手にしたとき、志保は再度寝返りを打って仰向けになった。
     スウスウと規則正しく吐き出される吐息に誘われるように、ギシリと手をつくと、パサリと降谷のネクタイが彼女の首元にかかった。

    「………ふるや、さん…」

     耳を打つ彼女の声が紡いだ自分の名前に、一瞬起きたのかと思ったが、一仕事を終えた彼女は幸せそうに眠っている。

     幸せそうに、自分の、名前を。

    「――――」

     蝶が花に誘われるように。
     抗えない引力に引かれるように、降谷は志保に口づけていた。
     まるで、眠り姫に目覚めのキスを送るおとぎ話のような。いや決して、自分は王子様なんて柄ではないけれど。

     王子様ではない自分の口づけに眠り姫は目を覚ます気配はなく、けれども幸せそうにむにゃむにゃと微笑んで、寝息を立てている。


    「いつまでもお行儀のよい王子様なんかじゃいられないぞ、僕は」


     それでも彼女の安寧を妨げることが出来ない自分はきっと、思ったよりずっと――彼女に惚れている。

     いつ牙を向くかもわからない狼を従えたお姫様が、眠りから覚めるまで。

     タイムリミットは、あと少し。
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    serisawa

    DOODLE2023.12.17にダズンローズフェス内で開催された降志オンリー、
    「零時の闇に星や降る」の参加レポートです。
    というか、参加までの道のりです。
    まあまあ内輪向けなので、ご興味がある方のみどうぞ~。
    2023.12.17れいやみに参加して■発足〜参加確定までの話

     全ては昨年12月、僭越ながら主催させていただいた降志WEBオンリーイベントの翌日、突発アフタースペースを開いたことから始まった。
    「新刊カード50枚集め、募ってみませんか?」と、スペースをご一緒していた某amrさんが提案してくれたのである。
     赤ブー主催で新刊カード50枚集めるとカプオンリーを開いてもらえることは知っていたが、50枚なんて夢のまた夢…と思っていた(でも「もしも」のために新刊カードはきっちり保管していた。えらいぞわたし)

     次の投票っていつなの?今ここにいる人は何枚カード持ってるの?と、スペースそっちのけで調べ始め、なんと翌月1月のインテが投票日だということが判明。しかもそのスペース参加者の内2名はインテ参加組!やれるだけやってみよう!と正式に募集を募り…するとどうでしょう。みるみるうちに挙手の手が上がる。他ジャンルの友人に声をかけてくれた方もいらっしゃいました。ありがたや…。
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    lin_co10ri

    DOODLE12/10降志webオンリーイベント「Not First Love,2ND」展示作品です。ほぼポエム。
    来年の映画のタイトル穴あきヒントが出た時に、一番に思い浮かんだのがこのタイトルでした。
    これは降志…!と思っていて、今回のティザー、特報に情緒揺さぶられているうちに、つい書いてしまったものです。
    いずれひとつの話にしたい、とは思っています。
    そうなると、きっと黒塗りにされる部分ですね、これ。
    黒塗りのラブレター拝啓


    君があんな風に泣くなんて、知らなかった。

    いや、僕は君のことなんて、何も知らないんだ。
    どんな風に笑うのかも。何を思っているのかも。どうやって生きてきたのかさえ。
    ずっと僕の心の中に君という存在が、何かしらの形で居たということは。紛れもない事実だと言い切りたいが、これまで君のために何もできなかったことを思えば、近づくことさえできない。

    何故そんな風に泣いているのか、胸が引きちぎられるほど苦しくて、気になって目に焼き付いて離れないけれど。
    泣いている姿に、生きているという鼓動と躍動を感じて、崩れ落ちそうなほど安堵している自分もいる。
    君がそんなに素顔を晒せているのが。誰がいるからなのか、誰の前なのか、誰のためなのか。そんなことさえ気になってしまうけれど。
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