[ミマモ完結版ネタバレ注意]菓子パンをエナドリで流し込むのはダメですよ……「ポラリス! 遊びに来たのだ」
展望台の入り口からそんな、非常に元気で呑気そうな声が聞こえてきた。
彼の声変わりもしてない、少年特有の高い声が、屋内で仕事していたポラリスの頭の中に響いた。
それは仕事に集中していた故か。
それとも、昨日ヤケになってうっかり酒を飲んでしまった故か。
しかし彼の訪問を受け入れないわけにはいかないだろう、とそばに置いてある白い熊のぬいぐるみを見ながら思った。
†
「ポラリス、今日はお前の大好きなゴルトオールまんじゅうを持ってきたのだ」
「は? 僕がまんじゅうが好きだなんでいつ言ったか?」
「え? だってポラちゃんで言ってたような気がするのだ……」
「あ……ああ、そうか」
そんなことも言ってたかもしれん、とポラリスはだんだんと当時のことを思い出した。
その頃はコカブと共に「ポラリスちゃんねる」を放送していた時なのだが、フェルと名乗っていたポラリスは、だいぶ無理をして気さくに振る舞っていた。
これも、目の前にいる子供に振り向かせて興味を湧かせるためだった。
「あれ、でも思ったのだ」
「なんだ?」
ちょうどポラリスが思考を巡らしていた頃ブレラは言った。
「あれってフェルだったからまんじゅうが欲しかった……みたいなことはあるのだ?」
「ん?」
「え、ええと、ポラリスはフェルだけど、ブレラが思い出しても、やっぱりあの時のお前はだいぶ無理をしていたのだ。だから甘いものが欲しかったりしてるのかなって」
「……」
このサラマンダーの子供は気が効くのが分からないが、ただ優しい心を持っているのだろう
「いや、まんじゅうは別に嫌いではない。よければ受け取ろう」
そう言うとブレラはとでも嬉しそうな顔をして、「はいなのだ!」とまんじゅうが入った紙袋をポラリスに渡してくれた。
「良かったのだ。ブレラ、今度はあんぱんでも持ってこようと思うのだ」
「お前はよく覚えてるな。フェルが言っていたこと。だが……」
ポラリスは目を俯き気味に言った。
「その……注意されてる気がするんだ」
「どうしたのだ?」
「ああ、いや、あんぱんといえば、夢の中で誰かの声……そんなはずはないと思いながらも、あの声はコカブな気がするんだが聞こえてくるんだ。菓子パンで食事を済ませるのは控えなさいと」
夢での言葉なのでとても朧げなものだが、その中で聞こえてきたコカブらしき声の、ほんの一部の言葉ははっきり聞こえてきた気がした。
たまにこういうことはあるもので、ポラリスは起きるたびに枕元にいつも置いていたあのクマのぬいぐるみに「お前は何か言ったか?」と聞いていた。
「誰かがポラリスの健康の心配をしてたのだ?」
「……あとエナドリで流し込むのはやめろと」
「おお、それはブレラも良くないと思うのだ。
きっとポラリスは健康で長くいて欲しいと思ってるのだ」
ブレラはそう言ってから笑顔で言うと、ポラリスは面倒そうな表情で言った。
「もはや僕は神様だから長生きも何もないがな……だが、確かに身体まで良くない状態が続くのはあいつも心配していたかもな……」
「ブレラもそう思ってるけど、きっとコカブも、お前には元気でいて欲しいと思ってるのだ。
「……ああ、だろうな」
まだコカブがいた時、時々自分の不摂生に不満を漏らしてた彼のことを思い出しながら、ポラリスは頷いた。