所有『敵術師のアーツが・・・・・・ッ』
通信から聞こえてきた報告と、目前に迫る赫い炎にただ、ただ小さくため息を漏らす。
アーツで他者を操る術者がいる。
斥候部隊からの報告で聞いてはいた。
操られた者は外部からの衝撃によってすぐに正気に戻ったのだという報告も受けている。
だが、だとしたら『アレ』はどうやったら止められるのだろうか。
「狙撃部隊」
『ダメですね。流石というかなんというか・・・・・・』
『こっちが急所外してるの解ってるから簡単に弾き落とされるわ』
「だよねー・・・・・・」
とりあえず、牽制だけに留めて。
そう指示を出したものの、おそらく僅かな時間稼ぎにもなりはしないだろう。
「まったく、術耐性の強化訓練メニューでも作るかなぁ・・・・・・ねぇイーサン?」
『俺に聞くなよ』
「とりあえず、アレには君のステルス効かないから絶対動かないで」
『アンタはどうすんだ?ってか、一応今の俺の仕事はアンタの護衛だぜ』
「まぁ、なんとかなるでしょ」
戦況を読み、戦場で指揮を執る人間の発言ではないな、と自嘲を漏らしながら目前と迫る炎へと通信をつなげた。
「―――エンカク」
『・・・・・・』
「私の声が届いているのかな?エンカク?」
反応はない。
ただ真っ直ぐに意思のない燈色の双眸がこちらを見据えている。
刀を、大太刀を携え、こちらの命を奪わんと歩み寄ってくる。
これはいつか見る未来の光景。
きっと・・・・・・この命はあの刀で狩りとられるのだろう。
でもそれは―――。
「『今』じゃないんだよエンカク」
振り上げられた大太刀が、横一線に薙ぎ払おうと構えた刃が、その身を覆うアーツの炎が偽りの意思で襲い来るその間際、こちらへ向かうはずだった牙はただ真っ直ぐ地面へと突き立てられた。
大太刀を握っていた手が離れ、拳を握ったかと思うとそのまま、勢いよく顔面へと叩き込まれる。
その拳の持ち主の顔へと。
「わぁお、よく自分の顔面を躊躇いなく思いっきり殴れるよねぇ」
「っ・・・・・・」
「さて、『オペレーター・エンカク』?君の『持ち主』は誰だい?」
耐えるように結ばれた唇の端から伝う血。
その血を伸ばした指先で拭いながら問いかける。
今の『持ち主』を見誤るんじゃない、と告げるように。
問いかけに、閉ざされていた瞼の向こうから先ほどとは違う、ちゃんと意思の乗った眼差しが射貫くように睨みつけた。
この身を焼き尽くさんばかりの苛烈な眼差し。
その眼差しに、知らずバイザーの下で笑みが浮かぶ。
「ッ、言われる、までもない・・・・・・ッなぁ『ドクター』?」
「フフ・・・・・・お帰り、『私の武器』」
「俺にくだらん術を放った術者は?」
「逃げられないように包囲誘導中。どうする?」
「たたっ斬る」
「そう言うと思ったよ。いいよ、行っておいで。きっちり落とし前つけておいで」
揺れる尻尾は返事替わりか。
二度と変な術にかかるんじゃないよ、と手を振って獲物を手にした広い背中を見送った。