贈り物と彼の怯れと 藍忘機には、道侶がいる。
その名を魏無羨。雲夢に育ち、射日の征戦においては英雄ともてはやされ、而して後に仙門百家を敵に回して散った。数奇な運命を経て蘇った彼が、雲深不知処に身を落ち着けたのは、一月ばかり前。冬のはじめの頃だった。
観音殿での一件の後、仙門の雑音を避けるように遊歴に出た二人は東へ西へと気侭に、正確に言えば魏無羨の気の向くままに、夜狩りをしながら旅を続けていた。
行く宛も、戻りの期限も決めてはいなかったが、それでも姑蘇に戻ったのは、閉閑した藍曦臣に代わり一門を切り盛りしていた藍啓仁から、次の春には座学を再開させたいので帰ってきてくれないかと懇願されたこと、そして、蘇ってからあまり丈夫ではない魏無羨の身体が冬の旅の寒さに悲鳴を上げ始めたことが決定打だった。宿を取って野宿を避けても移動の間の寒風はどうしたってその痩身を削る。空咳が止まらなくなり、食事の量が減り、冬至の頃にはとうとう宿の寝台から起き上がれなくなってしまった魏無羨は、「冬の間だけでも静室に戻って静養しよう」と泣きそうな顔で懇願した藍忘機を拒まなかった。
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