Recent Search
    Create an account to secretly follow the author.
    Sign Up, Sign In

    きって

    @kitto13

    @kitto13
    いかがわしかったり、暗かったりする
    タビヴェン🧦🐣

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 27

    きって

    ☆quiet follow

    タビヴェン 髪を切る話

    #タビヴェン
    taviven.

    タビコに髪を切ってくれと頼まれた。いつもは自分で切っているが今はこの通り不自由だからと、タビコは数日前に折った右腕を三角巾ごと掲げてみせる。
    「いつもは自分で切っている??」
    「そうだ。意外と簡単だぞ」
    新聞紙を床に広げてその上に食卓の椅子を持ち出したタビコはなんでもないように言う。
    「側面は耳がでる長さで、前髪と襟足は眉と項が隠れる程度。あとは任す」
    「任すって…髪は女の命だろう」
    はぁ?と顔だけで言ってくるタビコに黙らせられる。
    「髪で仕事をしている訳でもなし、邪魔にならなければなんでもいい」
    穴の空いたゴミ袋をがさがさと被ったタビコは玄関から姿見を持ってきて椅子の前に置いた。
    「怪我が治ってから自分で切るなり、理髪してもらうなりできんのか?」
    「今切りたいんだ今」
    ぐしゃぐしゃと頭を掻きむしり出したタビコに困り果て、わかったからやめろと言うしか無かった。とりあえず櫛と霧吹きを取ってきて見よう見まねで鋏を手にしたはいいものの、どこから手をつけていいのかわからない。
    「さほど伸びてはおらんではないか」
    「いや、目に入る」
    「前髪だけなら何とかなりそうだが…」
    「どうせなら一気に済ませたい」
    説得は諦めて「苦情は受け付けんぞ」と一思いに鋏を入れると思った以上にざくざくとした切り心地がして取り返しのつかないことをしでかしたんじゃないかと不安になってくる。タビコはくすくすと笑っている。
    「…何がおかしい」
    「いや、お前が戸惑ったり困惑している所は至極だなぁと思って」
    「鏡には写っておらんだろう」
    「見えなくったってわかるさ」
    背筋に冷たいものが走って鏡に写った。「なに尻に力入れてるんだ?」と聞かれるが無視して散髪に専念する。
    後頭部はなんとか見苦しくない範囲におさまった。元々伸びた分を切ればいいだけの話だ。私にかかれば造作もない。我が家の庭いじりを思い出しながら切り進んでいくと持っている鋏も剪定鋏のように思えてくる。そういえば庭の柘は元気だろうか?そろそろ形を整えてやらねばなるまい。
    今度は側面を切ろうと鏡を見るとタビコは下を向いたままうたた寝をしていた。「タビコ」と呼びかけ両方のこめかみを人差し指で固定する。
    「動かれては手元が狂う。少しの間起きていろ」
    「いやーなんだか気持ちよくてな」
    ふにゃふにゃと笑うタビコは珍しくて拍子抜けする。お前、刃物を持った吸血鬼が背後に立っているのだぞ?もっと緊張感を持ってくれ。
    「お前だからいいんだ」
    タビコはふにゃふにゃと続けて、私は思っていたことが口から出たのかと驚いた。だがタビコの言葉の続きらしく、「お前だから気持ちいいんだ」と付け加えた。
    「そんなこと余所で言うんじゃないぞ」
    耳の上を切りながら私は答えるとタビコはぐるりと横を向いて、その弾みで鋏を落としそうになった。
    「切ってる最中に動くんじゃない!」
    「お前、私がこんなに隙を見せているのにひと噛みもしないのか?!」
    「はあ?????」
    「据え膳だ!」
    「はあ???お前自分が何を言ってるのかわかっているのか??」
    「百も承知だとも!まったく吸血鬼の風上にも置けないやつだな!」
    「退治人としてその発言はどうなんだ!」
    「うるさい!吸え!」
    左腕を捲し上げたタビコが毛まみれのまま近づいてきて私は逃げた。一目散に逃げた。1匹の鴉になって窓に向かったがいいものの、風が入らぬよう締め切っていた窓ガラスに激突した。嘴が折れたかと思った。しおしおと人型に戻った私を息切れしながらタビコが見下ろしてくる。
    「そんなに嫌か」
    「いや、いやというほどでも…」
    なぜだかこっちが申し訳なくなる。
    「じゃあ何でだ!」
    「声が大きい…」
    嫌とか嫌じゃないとか以前に、吸うという選択肢がなかった。そう言ってしまえばもっと怒らせそうでシチュエーションがとか、合意がないととか、言ってみるがタビコは憮然としている。
    「…とにかく散髪を進めていいだろうか?」
    左右非対称のタビコを見ていたたまれなくなる。
    「終わったら吸うか?」
    「…掃除が終わったらな」
    辺り一面に散らばった髪の毛を見ながら言う。
    左右の側面を切り終え、前髪を整える。切り終わったあとのことを考えるに気が重くて可能な限り時間をかけて切っているとしびれを切らしたタビコに唇を奪われた。細かい髪の毛が入り込んだ最悪なキスだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘👏👏👏😍😍🙏💯💯☺👏🙏🙏🙏🙏🙏☺☺
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    きって

    MOURNING初夜失敗

    前半はTwitterに載せてた内容と同じなので読み飛ばしてください。
    えろくもないしほぼ会話文。
    リビングへと続くドアは細く開いたままになっている。開けっ放しはやめろと何度諌めても「どうせまた開けるんだからいいだろ?」と素っ頓狂な顔でタビコが言うものだからヴェントルーはその悪癖を直すことをとっくの昔に諦めていた。それでも開いたままのドアが目に入る度にその隙間を無くしてはいたものの、今日は全くその気になれない。
    タビコは今シャワーを浴びているはずだ。湯浴みが終わればあのドアからこの寝室に入ってくる。その事が恐ろしいのと待ち遠しいのとでヴェントルーの緊張は最骨頂に達していた。なんの前触れもなく寝室に入ってこられるよりかはドアの隙間からタビコの気配が伺えた方がいい。そう思って敢えて視界の端でリビングの様子を見てはいるが、結局はざわつく胸が抑えられず最終的には壁の一点を見詰めるのに留まった。ヴェントルーは落ち着きを取り戻そうとベッド脇に置いたルームライトに目を向けた。家電量販店で急遽手に入れた小ぶりなライトはリラックス効果だとかムード演出だとかそんな謳い文句が箱に書かれていて、ヴェントルーはむずむずとした心地でそれを手にしてレジへと向かった。アロマフューザーにも手を伸ばしかけたが、それはやり過ぎだろうとやめにした。今はそれを仇かのように睨み、ヴェントルーはベッドに正座する。
    2691

    related works

    きって

    CAN’T MAKE死ネタ 卵を孵す話
    抱卵タビコに小さな卵を渡された。私が産んだんだと言うタビコに奇っ怪な冗談を言うものだと鼻で笑って見せると、至極真剣な顔で本当だと言うものだから面食らう。卵は一般的な鶏卵ぐらいの大きさで心做しか青みがかった殻を持つひどく冷たいものであった。
    「温めるのはお前に任す。孵るまで割れないようにするんだぞ」
    それじゃあといつも通りにタビコは仕事に向かって私と卵2人だけが家に残った。温めろと言われても吸血鬼の体温では具合が悪い。かと言っても湯で煮立たせる訳にもいかず、途方に暮れた私は野外の椋鳥に助けを求めると丁度産卵期だとかでついでに温めてくれるという。見返りとしてベランダの一角に巣作りと当面の餌やりを保証してやる。巣に置こうとするとそこには同じ様相の卵が4つ並んでいて自分の手元の卵と見比べるとこのまま置いてはどれがどれだかわからなくなるだろうと思いあたる。部屋にあったサインペンを片手に少し考え靴下のイラストを描いて、椋鳥の番には台所にあったイリコを分け与える。そうやって始まった抱卵は椋鳥の雛が孵化した後も終わることはなく、椋鳥の番と雛達はとっくに巣立って行ってしまった。仕方が無いので羽を入れた巾着袋にそっと卵を入れ、素肌に触れないよう首から下げる。最早手遅れなんじゃないかとタビコに聞いてみても彼女は慌てるんじゃないという。
    2206