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    きって

    @kitto13

    @kitto13
    いかがわしかったり、暗かったりする
    タビヴェン🧦🐣

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    きって

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    ヴェンが死ぬ話 暗いけどがんばってハピエンにしました😶‍🌫️
    ドラちゃんとイシカナさんがちょっとだけでてきます

    #タビヴェン
    taviven.

    久々に死んだ。迂闊だった。手練の退治人が徒党を組んで小賢しくも策を講じて来たらしく、同時に放たれた聖釘の内何本かを避けることができなかった。咄嗟に心臓の位置を変えて即死は免れたが命からがら飛んで逃げた。居城との距離を考えると同時にあの小娘の家を思い浮かべた自分が癪に障った。しかし選択肢は限られていた。
    タビコの部屋のベランダはいつも通り閑散としていた。そのことに訳もなく安堵を覚えて私は死んだ。窓をノックする余力もなかった。じわじわと灰になる手を見ながらベランダの隅にあったプランターを見やった。吸血鬼はトマトを好むという生半可な知識を身につけたタビコが「収穫できたら食べさせてやる!」と苗を買って来たのだった。結実はしたもののまだ実は青い。収穫時期に間に合うだろうか、と思ったところで私の意識は途切れた。
    五感の内今際の際まで残るのは聴覚というが、再生するのはその逆であるらしい。まず初めに声が聞こえた。「ヴェントルー!」と切羽詰まった声、「どうだ?飲めるか?」と血液パックを吹きかけられた時の声、「大分鳥の形になってきたな」と喜色が滲んだ声、「まだ起きないのか?」と不安そうな声。馬鹿な奴だ。私ほどの吸血鬼がそう簡単に死ぬはずもないのだ。にも関わらず、心配するだけ無駄だと笑い飛ばしたいような慰めたいような、妙な気持ちに私はなった。
    次に感じたのは撫ぜる手の感触だった。余りに熱い体温に身を捩りそうになったが体は動かない。その手は手足をなぞり、頬をさすり、時々体勢まで変えてくれた。介護の真似事だろうか。余計なことをするんじゃないと口を動かしたかったが、私は未だ寝たきりのままだ。
    「これ今日熟したんだ」そう言って口の中に何かを押し込まれる。口の中に広がる風味からすると半分に切ったトマトのようだった。いや、意識のない奴に食わすものではない。せめてペースト状か液体にしろ。そんな要望が頭をよぎるが口は動かない。さすがにタビコも「まだ無理か」と言って口の中のトマトは取り除かれた。ほっとしたのもつかの間、口は再びこじ開けられ、熱く柔らかいものが押し当てられる。どろ、と口内に広がったトマトは人肌にすり潰されていてあっという間に喉奥まで押し込められる。衝動的に体が跳ね上がりそうになったが、動けない。「さすがに眠り姫みたくはいかないか」タビコがそう言うのがかすかに聞こえる。
    えらく肌寒い。時間の感覚は無いが季節は移り変わっているらしい。体のほとんどは修復できたが最後の心臓だけがどうにも時間がかかっている。
    「栄養が不足しているとか?」
    聞き覚えのある声が遠くから聞こえる。その声は肉声ではなく電子化された音声で、どうやらタビコの通話相手であるらしかった。
    「私の特製ドリンクを飲めばたちどころに目が覚める……と言いたいところだが、その状態だと誤飲しかねないな」
    そう言ったイシカナの声の後、ガラガラと騒がしげな音が聞こえる。氷入りのカップを手持ち無沙汰に揺らしていたかつての姿が目に浮かぶ。
    「それかねぇ………古い言い伝えなら聞いたことがあるよ。人間一人分の血を与えるんだ。それだったらどんなに弱った吸血鬼だって瞬く間に治ってみせる」
    「人間一人分?」
    「ああ。だけどそんじょそこらの人間じゃ意味が無い。常日頃からその吸血鬼と友好的な生娘の血、まるまる一人分じゃなくてはならない。まぁそんな人間、あいつの近くに居る筈がないが……」
    「私がいる」
    声にならない声が喉奥からでてきそうになる。
    「なあ、イシカナ。あいつあっての今の私なんだ。私の血液ぐらい安いもんだよ」
    「……命を賭すほどに?」
    「まさか!」
    タビコはそう言って笑い声を上げたが、話し相手は沈黙したままだ。
    「この調子じゃ今すぐ起きることもないが、死ぬこともないんだろ? それだったら私の死に際まで待ってもらおう。それくらいの時間、吸血鬼にとってはすぐのことだ」
    タビコはそう言って「ヴェントルー、待ってろよ」と私に呼びかける。



    夢にあいつがでてきた。久々の再会に諸手を挙げてあいつを抱え込み、骨ばった体躯と冷気とをひと纏めにみしみしと音を立てて抱き締める。いつもならこの辺で「やめろ」だの「痛い」だの弱音を吐くあいつが沈黙を守ったままで、不思議に思った私は顔を上げあいつの顔を覗き込む。
    「どうかしたのか?」
    「……貴様、なんのつもりだ」
    そう言って眉間に皺を寄せ、震えるヴェントルーを見て初めてこいつが怒っているという事に気がついた。苛立つことは多いやつだが怒ったところは見たことがない。物珍しさからもっと顔をよく見ようとあいつの髪を掻き上げようとしたが、ヴェントルーは弾かれたように私から離れる。
    「ヴェントルー、どうかしたのか?」
    「……どうかしているのは貴様の方だ!!」
    私はうっすらと、これが夢だいうことに気がつく。
    「……会話を聞かれていたとはな。お前は寝てると思ってたんだ。配慮が足りなかった」
    私はそう言ってヴェントルーに近づこうとしたがどうしてだか、ヴェントルーはじりじりと私から距離をとる。
    「ヴェントルー、久々の逢瀬なんだ。楽しませてくれよ」
    「……我輩はそのようなこと、望んでない!!」
    ヴェントルーはそう言ってわさわさと翼を羽ばたかせる。そう高いところに行かれちゃ私には届かない。なんとか引きずり下ろそうと私は必死に飛び上がるが、夢とはいえ羽が生えて来る訳でもなし、私は地上に這いつくばっているだけだった。
    「ヴェントルー、降りてこい」
    「……貴様に借りを作るわけにはいかん」
    「そんなことどうだっていいだろ! 命がかかっているんだぞ??」
    「お前が言うか?!」
    「ああそうだ!」
    「……まったく……自分のことばかり棚に上げよって……」
    ヴェントルーは意固地になっている。そう思って私はずっと思っていたことを口にする。
    「状況が状況だ。靴下だって返してやらんでもないんだ。それなら力も十全に戻るだろ?」
    「…無用だ。我輩は、人間の憐憫など受けぬ」
    「じゃあどうしろって言うんだ??」
    「我輩だって知らぬわ!!」
    頭上から羽が数枚落ちてくる。
    「心臓だけ、心臓だけの再生方法がわからぬのだ」
    「…どうして?」
    「さあ?そろそろ寿命なのやもしれぬわ」
    ヴェントルーはそう言って片笑んだ。
    「だからと言って助けは不要だ。我輩は誇り高き古の吸血鬼、ヴェントルー・ブルーブラッド。人間の助力なしに生きていけぬのなら我輩は自分で生涯を終わらせる。この命は次の満月の夜までだ」



    バツン、と音を立てて古いテレビが消えるみたいに夢が終わって私はすぐさま飛び起きた。それと同時にカレンダーを見ると次の満月は1週間後とある。すぐさまヴェントルーのもとに駆け寄り体を揺らし「おい」「なんなんだ」「ヴェントルー」と呼びかけたが、ここ最近の様子と変わらずヴェントルーは眠りについたままだった。
    「ヴェントルー。聞こえてはいるんだろ?なんとか手立てを探してみる。それまで気を確かに持つんだぞ」
    そう言って私は方々走り回った。知り合いの吸血鬼はもとより面識のある退治人まで声をかけて、吸血鬼の治療法を探し回った。しかし誰もが口を揃えて吸血鬼の治療は聞いたことが無いと言う。
    「再生能力があるはずでしょう?血を与えてもだめならもうだめですね」
    すげなく言った退治人はどうやら私が下等吸血鬼でも愛玩しているのだと勘違いしたようだった。その間違いを正す気力もなくふらふらと暗い街を歩く。行く宛もなく歩き回って我に返ると見覚えのある雑居ビルが目の前にあった。このビルの何階だったか同業者の男が一人、吸血鬼と同居しているはずだった。初め同居の噂を聞いた時には酔狂な奴もいるのだと思ったものだが、吸血鬼を助けるために夜通し街を走り回った自分は何なのだろうと訳もなく笑えてきて、黙ってビルを見上げていると「うわっ」と男の声が聞こえてくる。
    「なんなんですか一体……」
    見るからに吸血鬼といった体の男が一人、使い魔のマジロを胸に抱えて恐る恐る「ごきげんよう」と話しかけてくる。塵になりかけながらでも話しかけてくる度胸は相変わらずのようだった。
    「やあ、久しいな」
    簡単に挨拶をする。
    「ええ、お久しぶりです。驚きましたよ。こんな夜更けにうちの城を見上げながら笑っている娘さんがいるんですから」
    丁重に、しかしやんわりの苦言を呈されたが気付かないふりをする。
    「退治人はご在宅かな?」
    ビルに灯りの付いている部屋はなかったが念の為聞いてみる。
    「いいえねえ、今日はなんちゃらリンボーダンサーが襲来したとかで私が留守を預かっているんですよ。まあ、実質的支配者は私である訳ですから、留守を預かるなんて言うのも変な話ですが……」
    「じゃあお邪魔するぞ」
    事務所の場所をポストで確認してから階段を駆け登る。後ろからえ、とか、ちょっ、とか聞こえたような気がしたが構わず事務所のドアまで行って吸血鬼の到着を待っていたが姿が見えるのはやけに遅かった。
    「後塵を拝するのが好きみたいだな」
    「絶妙に上手くないこと言わないでくださいよ。こっちは育ち盛りを抱えているんだ」
    吸血鬼はぜえぜえと息を荒らげならそう言って、それと同時にヌー、とマジロの抗議が聞こえてくる。
    「ええ?私が非力だからって?それなら今度から自分で階段を登ってもらおうかなあ」
    ヌーヌーと言う鳴き声と共に事務所に入ればそこは前回来た時と変わらず簡素ながら整った事務所であった。「紅茶でいいですかな?」と言われて初めて座ったソファは手入れが行き届いていて、客足が途絶えないのも頷けた。出された紅茶は温かく、やけに身に染みて、だけど何だか違うと思った。不味いとか口に合わないとかでなく、いつも家で飲んでいるものとは違っていて、決定的にこれじゃないと思わされた。
    向かいのソファに座ったドラルクは私の顔を覗き込んで「ああやっぱり」と呟く。
    「酷い顔だ。仕事帰りですか?うちのにもよく言って聞かせているんですが無理はいけません。特に貴方は後ろ盾がないそうじゃないですか。心配する人だっているでしょう」
    「心配だなんて……」
    はたと言葉が継げずに言い淀む。私を心配する人間なんているのだろうか。どうにも顔が思い浮かばず仕方なく「無理なんてしていない」と返す。
    「仕事で困っている訳じゃないんだ。ドラルク。お前はよく死ぬだろう?でもすぐに再生してその死は無かったことになる。どうしてだ?」
    「どうしてって体質としか言えませんがねえ……」
    困惑した様子のドラルクにもう少し具体的な質問をしてみる。
    「病気や怪我が治らなくなった吸血鬼はどうなる?」
    ドラルクの混乱は更に程度を深めたようだった。ええっと、とか、それは……とか二の句が継げなくなる相手を見て何だか拍子抜けしてしまう。人間だって医者でもない限り大病を治すなんてことはやってのけれない。そもそもこんなふざけた街においても異種同士なのだ。自ら弱点を晒すような真似はするはずもなかった。
    「…いや、いい。不躾な質問をしたな」
    そう謝るとドラルクは「お力になれずすみません」と言ってくる。
    「我々も自らの生態について全て知っている訳では無いのですよ。VRCで発表された論文の方がまだ役に立つことだってある」
    「あそこでは無理だった」
    いの一番に所長に会いに行ったがVRCはあくまで人間寄りの機関で、吸血鬼化の対処法研究は進んでいても、吸血鬼そのものの治療なんてないとの事だった。ドラルクは気の毒そうに紅茶のお代わりを勧めてくる。
    「吸血鬼にだって寿命はあります。人間のそれよりほんのちょっと長いだけです。ただ長命の副作用かその時期をちょっとだけ左右できる」
    ちょうど今私はその気まぐれに振り回されている訳だが大人しく沈黙を守る。
    「このほんの少しだけ左右できるってのが肝で、もう十分生きたかな、もういいかなって思えば眠るように息を引き取ることができる。惨たらしく死ぬのよりかはよっぽど幸せで、一種の安楽死みたいなものなんです」
    「安楽死?」
    「左様。せん妄で己が性癖を撒き散らしながら死ぬ事より、口を噤んだまま死ぬのを選ぶ輩だっているでしょう。とんだ高慢ちきだと思いませんか?」
    言葉の粗暴さと裏腹に吸血鬼の表情は穏やかだった。膝元のマジロは腹を見せたまま寝転がって豊かな腹毛を撫でられるままにしている。この場所は本当に穏やかだった。
    「でも結局はしがらみが多くてそんな悠揚な心地になれるなんてことは稀です。私だってジョンがいるし、この世のゲームをやり尽くさないと化けてでてきそうだ」
    「……あいつは人間に助けられるぐらいなら死ぬって言うんだ」
    ドラルクは驚いたように目を見開いたが、納得したようにああ、と頷く。
    「その吸血鬼は今きっと満ち足りていて、消えてしまってもいいなんてこと思っているのでしょう。だから生きがいを見つけてやるといい。これをやらなきゃ悔いが遺る、これを見れなきゃ未練が遺るってことを思い出させてやればいい。それをやるかどうかは貴方次第です」
    その言葉を聞いて胸がすく思いがした。目の前のティーカップを睨んで一気に飲み干し立ち上がる。喉の渇きが癒えたのと同時にすべきことが明確になった気がして久々に晴れ晴れとした心地になる。
    「ありがとう。世話になったな」
    「どういたしまして。聞くまでもないですが貴方の生きがいは何です?」
    自然と笑みがこぼれる。私の生きがい。あいつの、あいつぐらい強大の、吸血鬼を狩って狩って狩りまくって、
    「靴下を奪って醜態を晒すことだ!」
    「でしょうねぇ」
    にこにことドラルクは相槌をうった。
    「人間が全員貴方ぐらい明快な人間であれば、私も気が楽なんですがねえ」
    ひらひらと手を振って見送るドラルクを背に事務所を後にする。夜明けはすぐそこまで迫っていた。




    ドアが開く音がした。扉がストッパーに跳ね返される音を聞いて、もう少し静かにできないのかと反射的に口に出しそうになる。瞼越しに部屋の電気がつくのを感じてしばらくすると両目が無理やりこじ開けられ、久しぶりにタビコの部屋の天井を見た。
    「もう十分寝飽きただろう?そろそろ起きたらどうだ?」
    そう言ってタビコが私の顔を覗き込む。十分見飽きたと思っていた彼女の瞳を久々に見るとどうしてだか打ちのめされたような気分になり、きっと自分の中にいくらか後ろめたい思いがあるのかもしれないと思い当たる。
    「お前はそうやって誇りの為なら別の誇りを捨ててしまうきらいがある。それを念頭に入れてなかったのは私の不注意だ」
    タビコは淡々と事実を述べるよう話した。
    その言葉には咎める響きは感じられなかった。彼女は私の目を見つめ話し続ける。
    「私の血をやると言ったが、あれは撤回する。そもそもこんな仕事なんだ。五体満足で死ぬ確約もないしな」
    タビコはそう言って口元に笑みを浮かべた。いつになっても不謹慎な事を冗談めいた口調で言う癖は変わらない。
    「なあヴェントルー、私と契約しないか?私が死んだらこの体も魂も全てお前にやるよ。だからお前の心臓を私にくれ。私のためにその心臓を動かして欲しい」
    タビコはそう言って私の胸板に手を這わせた。ただでさえ脈動しない内臓が驚きで止まりそうになる。
    「というかもし断ったら、私の死体は全部燃やすようイシカナに頼んである」
    は?
    「血の一滴も、髪の毛一本も残らない。お前の靴下だっておしゃかになる。イシカナもいたく歓迎してくれてな。なんなら親衛隊?に加えてくれるらしい。あの吸血鬼は傅かれるのが趣味みたいだな。畏怖欲の延長らしいが、気にいった人間の死体をエンバーミングして自分の従者よろしく飾ったりもしてるらしい。飽きたら燃やすみたいだが、別に死後の体がどうなろうと構わないし、火葬と考えれば……」
    「……ぜっっったいにやめろ!!!!」
    体がひとりでに跳ね起きた。急に肺に入ってきた空気に身体がついていかず目眩がする。頭痛がする。それでも言うべきことを言わずにおれず、私は顎が外れんばかりに口を開いた。
    「どうしてあやつに貴様をやらねばならんのだ!!!我輩が手ずから世話しているのだぞ!!そんな、とんびに油揚げをかっさらわれるような屈辱など………………!!!」
    「ヴェントルー!!!!」
    起きた体にタビコが飛びつき私は再び寝床に倒れ込んだ。私は荒い息を整えようと力無く部屋の天井を見上げた。ぎゅうぎゅうと首が締め付けられるように抱きつかれ、肩口にタビコの熱い吐息が押し付けられる。
    「謀ったな……」
    「なんとでも言え」
    タビコはそう言って更に腕の力を込めた。どうしようもない脱力感に呆然としつつ私はタビコの後頭部に手をあてた。今までも声は聞こえていた。時折触れてもいた。それでも言葉を交わし、手を伸ばせば触れられることに打ち震える程喜びを感じるとは思いもよらなかった。タビコの髪は記憶していた頃より少しだけごわついていて、髪は乱れる一方だったが構わずかき混ぜた。タビコの口元はわななくように震えていたが私は黙って撫で続けた。そうしてしばらくしてタビコは落ち着きを取り戻したのか、ようやく顔を上げた。
    「死んで私から逃げようたってそうはいかないぞヴェントルー」
    ほんの少しだけ目の際を赤く染めたタビコが言う。
    「これでお前は私のものだ。もう二度と許可なく死ぬんじゃないぞ。私に餌を与えたのなら最期まで面倒みる義務があるんだからなお前には」
    「……そうだな」
    「そもそも簡単に死んでるんじゃない!なにが古き血だ!大鴉だ!縁日のひよこぐらいか弱いんじゃないか!?」
    「……そんなことは無い!」
    「じゃあなんで今の今まで起きなかった??」
    「だから再生できなかっ……」
    「本気でやってなかっただろう??」
    図星をつかれてぐうの音も出ない。そんな私にタビコは心配したんだからな、と言って追い打ちをかける。
    「お前の帰りを待ち侘びた。この数ヶ月が百年にも感じた。死んでも構わないと言われて腸が煮えくり返った。だからもう離れないでくれ」
    タビコはそう言って「心臓の音を聞かせてくれ」とせがむように胸ぐらを掴む。







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    Replies from the creator

    きって

    MOURNING初夜失敗

    前半はTwitterに載せてた内容と同じなので読み飛ばしてください。
    えろくもないしほぼ会話文。
    リビングへと続くドアは細く開いたままになっている。開けっ放しはやめろと何度諌めても「どうせまた開けるんだからいいだろ?」と素っ頓狂な顔でタビコが言うものだからヴェントルーはその悪癖を直すことをとっくの昔に諦めていた。それでも開いたままのドアが目に入る度にその隙間を無くしてはいたものの、今日は全くその気になれない。
    タビコは今シャワーを浴びているはずだ。湯浴みが終わればあのドアからこの寝室に入ってくる。その事が恐ろしいのと待ち遠しいのとでヴェントルーの緊張は最骨頂に達していた。なんの前触れもなく寝室に入ってこられるよりかはドアの隙間からタビコの気配が伺えた方がいい。そう思って敢えて視界の端でリビングの様子を見てはいるが、結局はざわつく胸が抑えられず最終的には壁の一点を見詰めるのに留まった。ヴェントルーは落ち着きを取り戻そうとベッド脇に置いたルームライトに目を向けた。家電量販店で急遽手に入れた小ぶりなライトはリラックス効果だとかムード演出だとかそんな謳い文句が箱に書かれていて、ヴェントルーはむずむずとした心地でそれを手にしてレジへと向かった。アロマフューザーにも手を伸ばしかけたが、それはやり過ぎだろうとやめにした。今はそれを仇かのように睨み、ヴェントルーはベッドに正座する。
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    きって

    CAN’T MAKE死ネタ 卵を孵す話
    抱卵タビコに小さな卵を渡された。私が産んだんだと言うタビコに奇っ怪な冗談を言うものだと鼻で笑って見せると、至極真剣な顔で本当だと言うものだから面食らう。卵は一般的な鶏卵ぐらいの大きさで心做しか青みがかった殻を持つひどく冷たいものであった。
    「温めるのはお前に任す。孵るまで割れないようにするんだぞ」
    それじゃあといつも通りにタビコは仕事に向かって私と卵2人だけが家に残った。温めろと言われても吸血鬼の体温では具合が悪い。かと言っても湯で煮立たせる訳にもいかず、途方に暮れた私は野外の椋鳥に助けを求めると丁度産卵期だとかでついでに温めてくれるという。見返りとしてベランダの一角に巣作りと当面の餌やりを保証してやる。巣に置こうとするとそこには同じ様相の卵が4つ並んでいて自分の手元の卵と見比べるとこのまま置いてはどれがどれだかわからなくなるだろうと思いあたる。部屋にあったサインペンを片手に少し考え靴下のイラストを描いて、椋鳥の番には台所にあったイリコを分け与える。そうやって始まった抱卵は椋鳥の雛が孵化した後も終わることはなく、椋鳥の番と雛達はとっくに巣立って行ってしまった。仕方が無いので羽を入れた巾着袋にそっと卵を入れ、素肌に触れないよう首から下げる。最早手遅れなんじゃないかとタビコに聞いてみても彼女は慌てるんじゃないという。
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