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    yuno

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    yuno

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    曦澄で、江一家生存if時空での江澄♂ご懐妊のほのぼのギャグです。U夫人無双。(心無い発言があろうかと思いますが、時代的にやむなしと広い心でお願いします)

    #曦澄

    【曦澄】そんな馬鹿な「おめでとう。懐妊ですって」
    「は……?」

    江澄は固まった。
    母上はそんな品のない冗談を口にするような人ではなかったはずだ。

    このところ体調が優れず、食欲もなく。それでも倒れるようなことがあってはならないと半ば無理やり食事をしていたのだが、とうとう吐き気が強くなって戻してしまった。貧血の症状まで起こして倒れてしまい、目が覚めたのが当に今。

    仙師のくせに体調不良で倒れるとは何事かときつい叱責を食らうものとばかり思っていたら、予想の斜め上なことを言われた。

    というか、妊娠って。何を言ってるんだろう、この人。
    そんな思いで目の前の母親をまじまじと見つめる。

    「ちゃんと医師が見立てたんだから間違いないそうよ。知らないけど」

    いや、知らないけどって。
    江澄の心の声が伝わったのか、だって私は医師じゃないものと虞紫鳶が鼻を鳴らした。

    「母上、私は男子です」
    「奇遇ね。私も貴方は男の子だと思っていたわ」

    その言い方、もしや自分は男ではなくなったのだろうか。江澄は自分の血の気が引く音を聞いた。

    「……」

    恐る恐る己の下半身を見やる。掛け布の下の腰元に手を伸ばし、ぽすぽすと触れてみる。

    「よかった……あった……」

    股間に確かに膨らみがある。触れた感触もする。ほーっと江澄は深い息をついた。全く心臓に悪い。

    「男なのに妊娠するなんて、貴方いったい何があったの?」
    「知りません、知りません! 医師の診立て間違いでは?!」
    「私もそう言ったわよ」

    ふざけんじゃないわよ、打たれたいのと怒りを露わに凄んで見せもしたのだそうだ。だが、医師は恐れ慄きながらも、症状は妊婦のそれにまったく一致しているのですと言を重ねたのだと言う。

    「貴方の症状は妊娠初期の悪阻そのものですって。腹の中に子と思しき霊力の気配もあると言うし」
    「暑気負けではなく、ですか……?」

    なおも信じがたく江澄は疑ったが、虞紫鳶は諦めたようにため息をついた。

    「その手の確認は既に私が一通りやったわ。それでも妊娠だって言われたのよ」
    「そんな……」

    この腹の中に子が? 信じられない。
    というか、そもそも男の自分が妊娠? 何の冗談だろう。悪夢にも程がある。

    「それで? 誰の子なの?」
    「え……」
    「えって何よ。貴方まさか、一人で勝手に妊娠したとか言うつもり? 男で妊娠したばかりじゃなく、相手もなしにいきなり孕んだわけ? どこまで常識を覆すのよ、魏無羨じゃあるまいし」
    「ええっと……」
    「ああ、あの馬鹿の悪戯の可能性がまだ残っていたわね。ちょっと呼び出して問い詰めましょうか」

    虞紫鳶がゆらりと立ち上がる。いやに目の据わった凄惨な笑みに江澄はすっかり慄いてしまい、体調不良も手伝ってそのまま牀榻に突っ伏した。


    姑蘇で夫と蜜月を過ごしていたら突然雲夢に呼び出され、虞紫鳶に尋問を受けた魏無羨は、自身にかけられた疑いにそれはそれは激しく首を横に振って否定した。

    「知りません! 知りません! 俺は何にも知りません! 何もやってません!」

    一問三不知も顔負けの知らない知らないを繰り返す魏無羨に、どうやら本当らしいと剣を収めた虞紫鳶は、ならばやはり我が息子の妊娠は本当かと別の意味でため息をついた。

    さて、そうとなれば相手を白状させねばならない。どこのどいつだ、江氏の若宗主を孕ませた非常識は。
    怒れる虞紫鳶からの詰問を受け、初めは言い渋っていた江澄だったが、迫力に負けてとうとう相手を口にした。

    「藍宗主……ですって?」
    「はい……可能性のある相手はその人だけです……」
    「貴方、いつの間に……」

    見合いが上手くいかないなと思ってはいたけれど、まさか貴方も断袖だったのと虞紫鳶は天を仰いだ。

    「まあでも、そうね。貴方が孕んだ時点で相手は男子だわね。女人ならば相手の方が孕むはずだもの」

    だとしても婚前交渉なんて鞭打ちの刑だけどと舌打ちする虞紫鳶に、江澄はますます身を縮こまらせる。
    藍曦臣と婚姻前に体の関係を持ってしまったのを母親に知られてしまった決まり悪さに、なんと言ったらいいのかわからない。
    というか、これ、藍曦臣が鞭打ちの刑に遭うのでは? 紫電を返せと言われたらどうしようと江澄は思わず紫電を嵌めた指を隠した。

    その仕草を目ざとく見とがめた虞紫鳶が静かに口を開いた。

    「阿澄。紫電は外しておきなさい」
    「え、で、でも……」
    「安心なさい。取り上げるわけではないわ。妊娠するとね、浮腫んだりして指が太るのよ。食い込んで痛んだら大変よ。今のうちに外しておきなさい」
    「は、はい……」
    「その前にちょっと返してもらうわ。姑蘇の非常識馬鹿を打ち据える必要があるものね」
    「母上!」

    やっぱり!
    だめですだめですと指を隠して拒否した江澄だったが、現役を彷彿させる凄みを見せた紫蜘蛛の前に慣れぬ悪阻を抱えた身で敵うはずもなく、紫電を奪われたのだった。

    怒れる母を止められる者は誰もいない。となれば、江澄にできるのは通告のみ。
    江澄はこみ上げる吐き気をこらえながら、ようよう伝令蝶を拵え、姑蘇にいる藍曦臣に飛ばした。

    これから母がそちらを訪襲する。衝撃的なことを言うだろうが、気をしっかり持ってくれ。あと、できればあんまり逆らわないほうがいい。藍先生も巻き込まれると思う。

    肝心の自分が子を孕んだとは言えなかった江澄だった。
    まだ半信半疑というか、全面的に疑っていたため、怖くて口にできなかったのである。
    そのため、伝令蝶を受け取った藍曦臣は何のことやらさっぱりわからず首を傾げ、その困惑のまま紫蜘蛛の襲来を受けてしまい、詰問の挙げ句に紫電で打たれたのだった。

    だが、藍曦臣の立ち直りは早かった。事態を飲み込むや否や、私達の子が! と歓喜の声を上げ、蓮花塢にすっ飛んで行こうとする。
    隣で藍啓仁が泡を吹いて倒れていたのを放置せんばかりの勢いだったので、さすがにそれはどうなのと虞紫鳶が窘めたほどであった。
    蘭室に藍啓仁を運び、門弟に看病を言いつけて、藍曦臣は虞紫鳶と共に御剣して蓮花塢にかっ飛んだ。

    さて、その少し前の蓮花塢では、事態についていけない前宗主が現宗主に困惑の目を向けていた。

    「これはいったいどういうことなんだ、江澄」
    「すみません、父上。私にも正直何が何だかさっぱりわかりません」
    「男の身で孕むなんてことがあるのか。非常識な」
    「私もそんなことがあるとは到底思えません」
    「三娘の気は確かなのか?」
    「私は母上というより、医師の診立ては確かなのかと聞きたいです」

    だが、呼びつけた医師は長く江家に仕えている医師で、腕は確かだと評判である。江一家も彼の腕は信頼していた。その彼がこんな非常識な誤診をするとは考えられない。

    「悪阻に似た暑気負けなんじゃないのか」
    「私もそう思います。その、暑気負けした己の管理不届きはお恥ずかしい限りですが……」

    江澄は恥じ入るように項垂れた。
    三娘が暴れすぎないといいが。江楓眠もため息をついた。


    さて、ほどなくして虞紫鳶が藍曦臣を伴って蓮花塢に戻ってきた。
    藍曦臣は江澄の休んでいる私室にやってくると、私達の子ができたんだって?! と感激して手を握りしめてくる。

    「なんで貴方はあっさり信じてるんだ?!」
    「だって! 確かに信じがたいことですけれど、本当だとしても嬉しいばかりじゃないですか!」

    喜ばしいことですよ、慶事です。そう訴える藍曦臣に、そうなのか? と江澄は首を傾げた。

    「気持ち悪くないのか? 男が妊娠したんだぞ?」
    「ちっとも」

    きっぱりいい切った藍曦臣に、江澄は目を見張った。
    そうか、これは慶事だったのか。
    先程まで実の父親から、あり得ない、非常識だと言われ、信じられないとドン引きの眼差しを向けられていた。
    その思いは江澄自身も同感だったので深く考えていなかったが、そういえば母も開口一番言ってくれた気がする。おめでとう、と。

    改めて藍曦臣は婚前交渉をしたことを江夫妻に深く詫びつつ、真剣に交際していること、これを機に三拝をさせていただき、道侶の契りを結びたいと告げた。

    江楓眠と江澄は突然の展開に目を白黒させたが、虞紫鳶は当然ねと深く頷いた。

    「三娘!」
    「何よ、阿澄のお腹の子を父無し子にする気なの? せっかく藍曦臣は逃げ隠れせずに責任を取ると言ってるのに」
    「それは……そうだが……」
    「そもそも見合いが失敗続きで、このままじゃ後継も望めないかと頭が痛かったのよ。でも、これで解決するわね。好いた相手との子を授かれたのなら良かったわ」
    「母上……」

    やけにさばさばと言い切る虞紫鳶に、江澄は感情が追いつけない。追いつけないのだが、とにかく厳格な母が自分たちを祝福してくれていることはわかった。
    じわりじわりと歓喜がこみ上げてくる。

    ありがとうございます。感極まって涙ぐむ江澄の背を藍曦臣がそっと撫で擦る。満たされた気持ちで振り向いた江澄は、そこでようやく藍曦臣の衣がぼろけているのに気がついた。よく見れば御髪も乱れ気味だ。

    「曦臣、その、衣装の汚れは……? 髪も……」
    「ああ、これは」

    藍曦臣が恥ずかしそうに微笑んだ。

    「さすがは紫蜘蛛殿。とてもお強かったよ。容赦なくご叱責されてしまった」

    愛ある仕置きとはこういうことかと思ったよ。照れくさそうに話す藍曦臣に、久しぶりに存分に紫電を奮って憂さ晴らしをしたらしい虞紫鳶は満足げだ。道理で憂いを払ったかのようにさばさばしていたはずである。物理で解決したらしい。

    「馬鹿! なんで冷泉に入ってこなかった?!」
    「そんなの、一刻も早く貴方の元に駆けつけたかったからに決まっているでしょう」

    にこにこの笑顔を見せる藍曦臣に毒気を抜かれ、江澄も力なく苦笑した。

    「痛まないか?」
    「少し痛むけれど、お母上のご叱責は至極ごもっともだったからね。甘んじて受けさせていただいたよ」
    「その意気は買いましょう」
    「恐れ入ります」

    どうやら母上は藍曦臣を夫として認めてくれたらしい。江澄はほっと安堵の息をついた。

    その後。妊娠が事実と確定し、江澄の腹は徐々に膨らみ始めた。
    安定期に入るも、夜狩りなどもってのほかと、江澄は産後落ち着くまで虞紫鳶から夜狩り禁止令が言い渡されてしまった。
    代わりに江楓眠を夜狩りへと蹴り出し、そんな、俺の憂さ晴らしや気分転換はどうしたらと嘆く江澄に、虞紫鳶は笑顔で剣を向けた。

    「私が相手をしてあげるわ。試剣堂へいらっしゃい」
    「は?」
    「紫電はやめておきましょう。剣の撃ち合いでいいわよね? 安心なさい。ちゃんと手加減してあげるわ」

    やたらいい笑顔を向けられてしまい、江澄はまさかの母親相手に剣の修練を行うという、気分転換になるんだか、ならないんだかな事態に冷や汗をかいたのだった。
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    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
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     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
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     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

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    TLで見かけて可愛くて思わずつぶやいたカフェ曦澄の出会い編。
     その日、藍曦臣がその店に入ったのは偶然だった。
     一休みしようと、行きつけの喫茶店に足を向けたが、残念ながら臨時休業だった。そう言えば前回訪れた際に、店主が豆の買い付けのためにしばらく店を休むと言っていたことを思い出す。それがちょうど今月だった。休みならばまっすぐ家路につけばよかったのだが、喉が乾いていたのと、気分的にカフェインを摂取したくて仕方がなかった。ならば、と喫茶店を探しながら大通りを歩いたが、めぼしい店が見つからず、あったのはチェーン系のコーヒーショップだった。
     藍曦臣が外でコーヒーを飲むのは常に、注文を受けてから豆を挽き、サイフォンで淹れてくれる店で、チェーン系のコーヒーショップは今まで一度たりとも入ったことがなかった。存在そのものは知識として知ってはいるが、気にしたことがなかったため、今日初めてこの場所に、コーヒーショップが存在する事を認識した。
     戸惑いながらも店に足を踏み入れる。席はいくつか空いていたが、席へと誘導する店員はおらず、オーダーから受け取りまでをセルフで行い自分で空いている席へと座るのだと、店内を一瞥して理解した。
     あまり混んでいる時間帯ではないのか 3066