夜 くだらない会話の一例/キラ門 それぞれの部屋に寝具はあるが、共寝する夜もそれなりにある。数ヶ月前に布団からベッドへ買い替えてからその頻度が上がった。新しいマットレスが気持ち良いだの睡眠時無呼吸症候群が心配だの色々と理由を並べているキラウㇱにも思うところがあってやっているのだと察しているので、門倉は特に何も言っていない。真夜中、いつも先に寝てしまう門倉のベッドの脇にキラウㇱがのそりと立つので、布団の端を捲り上げてやる。キラウㇱは身体を滑り込ませて、大抵の場合は門倉の首の下に腕を差し込み、頭を抱えるようにして眠る。これが六割くらいだ。門倉の腕の中に潜り込んで、脇の辺りに顔を押し付けて眠るのが三割。残りの一割は、ほとんど手も触れず、ただじっと門倉の眠る様子を眺めている。同居を決めた際に「眠っているのを起こしたくないから寝室は別々に」と言い出したのはキラウㇱの方だったので、その彼がこういう風にする事でしか片付けられない感情を持て余しているのならなんでも許してやりたかった。今夜は三割だ。門倉がしてやれることは少ない。精々キラウㇱのために布団の隙間を開けてやり、朝は何食わぬ顔をしてくだらない言葉のやりとりをするくらいだ。
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くすぐったさに目が覚めると、すっかり朝を迎えた寝室でなぜだか乳首を撫でられていた。キラウㇱは門倉の腕を枕に、いかにも起きたばかりの細い目をしながら、片手で門倉の胸を触っている。
「何してんだ、キラウㇱ……」
寝起きの掠れた呆れ声が出た。その間も指先が乳首の周りをさらさらと撫でる。むず痒い。甘えながら門倉の身体をおもちゃにするような子供っぽさがまだキラウㇱにはある。
「白い肌着に乳首が透けてるのが、まさにジジイって感じなんだよな……」
「お前って元々そういうのが好きなの?」
「そういうのってなんだ」
「ほら、なんだ、いわゆる老け専とかっていう」
「そういうわけじゃない」
機嫌を損ねてしまったのか、キラウㇱは枕にしていた腕を押し退けてまた脇腹へ収まる。それからくぐもった声が聞こえた。
「年上好きではあるかもしれない」
キラウㇱの言う年上好きと老け専の違いがよくわからなかったけれど、ふうんとだけ返事をした。そろそろ起きるかと伸ばした膝がキラウㇱの脚の間、熱を持った箇所に当たる。
「お前さんは元気だな〜」
「ただの生理反応だろ、ほっとけ」
戯れに絡めようとした脚は蹴られてしまった。仕方なく寝癖のついた頭を掻き混ぜる。毎朝の事ながら酷い寝癖だ。同じシャンプーの匂いがした。