抱かない白石「なぁ財前。俺な、切原クンはやっぱ本物の天使やと思うねん」
誰もが認める美貌の持ち主、白石蔵之介は恍惚とした表情で呟いた。
「部長、ほんまにキモいんで俺の半径3メートル以内に近づかんでもらってええですか?」
「なんや冷たいな。だってあんな可愛らしい子見たことないやろ?」
そういうと白石は高校生と練習試合をしている切原に視線を向ける。
それはもう視姦と言っても過言でないほどに鋭く熱い眼差しで。
「はぁ。うちの近所の眼科紹介しましょうか?」
「いやいらんわ。財前こそ眼科行った方がええんとちゃう?」
なんやこの人、腹立つな。
確かに切原のルックスは悪くないし可愛らしい顔立ちをしてるのもわかる。死んでも口にしたくないけど。
ただ、どう考えても白石部長の目には変なフィルターがかかってる。
切原限定のSN○Wでも実装されてるんやろか?
「それにあの子は純粋無垢というか……穢れを知らなそうやんか」
いやアイツ穢れてますよ。
丸井さん達とエロ本の回し読みしてるし。
この前なんて俺らが今期のドラマに出てる女優の話してたら好きなAV女優の話してると勘違いして「俺はねぇ、明日〇キ○ラが好き!」ってそれはもう眩しい笑顔で言うてましたけど。
と言いたいところだがこの盲目が信じるわけもないので口を閉ざす。
結局惚気話を聞かされてるんやろうか。だったらもう適当に相槌打ってさっさと退散……
「せやからな、俺が手を出したら天使の切原クンを汚してしまうような気ぃして……シたいのにできひんのや」
「は?」
この人正気か?後輩になんちゅうこと言うねん。
白石部長と切原が付き合ってるのは知ってる。
というか本人達は隠しているつもりらしいが纏う空気が甘すぎて合宿所にいる全員が気づいてる。
顔を見合わせて至近距離でコソコソ会話したり、何かにつけてボディタッチを繰り返す様子を見せられる度に「コイツら隠す気あるんか?」と何度イラついたことか。
あー、思い出したら段々腹立ってきたわ。
「切原クンにもっと触れたいしセックスもしたいんやけど、あの澄んだ瞳で見つめられるとなんや悪いことしてるみたいで苦しくなってきてな……そのくせキスだけで目ぇとろーんとさせて先を期待するような顔するんやで!?
はぁ……ほんまあの子小悪魔で困るわ。その先なんて何も知らんくせにさ……なぁ財前、どうしたらええと思う?」
どうしたらええって、んなもん知るか。というか知りたなかったわ。
なんだかんだ白石部長のこと尊敬してたのにまさかこんなにも失望する日が来るとは思いもしなくて今少し泣きそうなんやけど。どないしてくれるん?
「部長、金輪際俺に話しかけんでもろてええですか?それじゃ」
「え?ちょ、財前!?」
ほんまに時間の無駄やったわ。
これなら謙也さんのしょうもない話を聞いてる方が100倍マシやな。
*
部屋に戻った俺はベッドに寝転びブログを更新しようとスマホを取り出した。
「なぁ、財前」
どこかにおもろいネタ落ちてへんかなぁ
「財前」
謙也さんにドッキリでも仕掛けるか、それか腹いせに白石部長の写真アップしてアクセス数稼ぐか……
「財前ってば!!」
「うっさい。聞こえてるわ」
「じゃあ返事しろよ!」
はぁ……今度はコイツか。
この喧しいアホのどこが天使やっちゅうねん。
「はよ要件言うてや。俺忙しいんやけど」
「スマホいじってただけじゃん!!……まぁいいや。
あのさ、今から話すこと、誰にも言わないって約束してほしいんだけど……」
「なんやねん、焦ったい。いちいち言いふらすわけないやろ」
「そ、そうだよな!
えっと、実は俺白石さんと付き合ってるんだけどさ……」
いや知っとるわ。
その白石さんからきしょい相談されてさっき絶縁してきたところや。
「白石さんって、その………インポなのかな?」
「……は?」
ちょっ、え?コイツ今なんて言った?
白石部長、不能だと思われてるん?
予想外の言葉に思考が追いつかないまま「何でそう思うん?」と平静を装い話の続きを促す。
「だ、だってぇ!白石さん全然手ぇ出してこないんだぜ!?いつもキスとハグ止まり!だから俺、白石さんがインポなんじゃないかってすげぇ心配で丸井さん達に相談したんだけどさ」
白石部長の葛藤がとんでもない方向に誤解されてるだけでも吹きそうになったのに丸井さん達にも伝わってるって……流石におもろ過ぎるやろ。
「そしたら俺がメイドのコスプレで誘ったら元気になるって教えてくれてさ!俺に出来ることがあるなら何でもやりたいし、とりあえずメイド服用意してみたんだけど……本当にこんなんで白石さん元気になるのかな!?」
いやなにその健気さ。
というかお前いい加減先輩らに遊ばれてることに気づけよ
まぁ、今なら白石部長が言ってたことがわかる気がするわ
「……切原、お前天使やな」
「は?」
後日部長から「切原クンは女装趣味とかあるんやろか?」って相談されて今度こそ吹いた。
このバカップルほんまブログネタに最適やな。