いろいろとぶっ飛んでる兎赤也を飼う白石の話。.
☆あらすじ☆
カブリエルの餌を買いにペットショップに来た白石。
ふと兎コーナーに立ち寄ると白くてモジャモジャの毛が特徴的な仔兎が隅っこで眠たそうにうとうとしていた。
「可愛ええなぁ……」
自然とそう呟くとさっきまで眠たそうにしていた兎の瞳がパチッと開く。
エメラルドグリーンのつぶらな瞳で白石を捉えるとぴょんぴょんと駆け寄ってきた。
その人懐っこさと愛らしさに一目惚れした白石は家に連れて帰ることを即決したのだった。
帰宅して早々、勉強熱心な白石は膝の上に仔兎を乗せながら飼育本を読み漁る。
基本に忠実に、パーフェクトに育て上げるで! そう意気込んでパラパラとページをめくっていると気になる記事が目に飛び込んできた。
──兎のオスは生後6~10か月頃、メスは生後4~8か月頃から繁殖可能な時期を迎え、基本的に一年中発情することが出来る。
「……へぇ、兎ってほんまに年中発情期なんや」
「えー、そんなことないよ。好きな子とだけ交尾したい兎だってちゃんと居るんすからね!」
「なるほどな。人それぞれ……いや、兎それぞれっちゅうわけか。………って、え?」
膝に乗っていた白モジャの兎は消えて代わりに白いうさ耳を生やした黒髪の少年が白石に抱きつくようにして座っていた。
「だ、誰!? 君、どこから入って来たん!?」
「やだなぁ、アンタが連れ込んだくせに」
「はぁ!? 連れ込んだって……え? まさか、あ、あの兎……!?」
「そうそう。アンタが一目惚れしちゃった可愛い兎ちゃんっすよ! これからよろしくね、白石さん♡」
……というところから始まるアホなお話です。
────────
夢でも見てるんやろか。
突如目の前に現れたうさ耳少年と抱き合う形で見つめ合いながら俺はそんなことを考えていた。
「……おーい、白石さぁーん」
「あ、ごめん……やなくて! よろしくって……まさか、ここに住む気なん?」
「そりゃそうでしょ。アンタが飼ったんだから」
「俺が飼ぉたのは兎なんやけど」
「そうだよ?」
少年は当たり前のように言ってのけるとキョトンとした顔をした。
そうだよって……ペットショップやなくてそういう趣向の店やったんか?
俺にはコスプレ男子の世話をする趣味なんてないんやけど。
「なんのつもりか知らんけど、俺そういう趣味ないから他当たってや」
「そーゆー趣味って?」
それ言わせるんか?
「……というか何で俺の名前知ってんねん」
「そこら辺は企業秘密っす!」
企業秘密って。やっぱそういう店やんか。
「……はぁ、もうええわ。それよりさっきの兎はどこにやったん?」
「どこって、ここに居んじゃん」
「いや、おらんやん」
「だからぁ、どっからどう見ても俺がその兎じゃん」
「どこからどう見ても人間やろ。君なぁ、これ以上しつこくすると怒んで?」
「はぁ!? 兎だっつってんじゃん! そんなに疑うなら証拠見せてやるよ!」
声を荒げてヒートアップした少年はキッと俺を睨みつけると突然自分のズボンに手をかけた。
「ちょお待て! 何脱ごうとしとんねん!」
「だから証拠見せるって言ってんの!」
「いやいや、なんでそれが脱ぐことになんねん!」
慌てて止めにかかろうとするも時すでに遅し。
少年が勢いよくズボンをずり下ろすと俺の視界にはプリッとした可愛いらしいお尻……いや、特筆すべきはそこやなくて真っ白でフサフサの尻尾が飛び込んできた。
「な……!」
「どう? これで信じてくれた?」
「ほ、本物なん……?」
「触ってみる?」
「いや……ほんまに、生えてるんやな」
「へへ、だから言ったじゃんっ!」
ドヤ顔で振り返る少年に俺は益々困惑した。
ほんまにこの子があの兎なんか? あんなに人懐っこくて可愛かった兎がこんな生意気そうな子になるなんて、信じられへんのやけど……
「……なんか今失礼なこと考えてんだろ」
「そ、ソンナコトナイデス」
「嘘つき」
「……」
「まぁいいけどさ。とにかく俺は正真正銘、アンタが一目惚れした兎なんだよ」
少年は再び俺の膝に乗ると真っ直ぐにこちらを見つめる。
先程よりも体重をかけて寄りかかってくる様子に思わず心臓が跳ね上がった。
「……まだ信じてくれないの? 俺、白石さんに可愛いって言ってもらえてすげぇ嬉しかったのになぁ」
「や、それは……」
「今の俺は、可愛くない……?」
うるうるとした瞳で見上げられて言葉に詰まる。
可愛いとか可愛くないとか、そういう問題とちゃうんやけど……そう言おうとして改めて少年の顔を見ると、幼いながらも整った容姿をしていることに気がついた。
色白の肌に大きなエメラルドの瞳。ふわふわの髪の毛は触り心地が良さそうやし、何より兎の姿と同じ真っ白なうさ耳が中性的な顔立ちの彼に良く似合っていて……正直、かなり可愛ええ。
「……」
思わず見惚れていると何も言わない俺を不思議に思ったのか少年はコテンと首を傾げた。
あざとい仕草も可愛く見えるのは流石兎やな。いや兎なんかな。なんやもうわからんわ。
「……なに?」
「……いや、可愛ええなと思って」
「えっ! 俺、可愛い?」
「うん……兎ってこんなに可愛かったんやな」
「えへへ、白石さんに可愛いって言われるとすげぇ嬉しいっす」
照れくさそうに頬を染める少年はふわりと柔らかな笑みを浮かべた。
なんや、もっとツンケンしてるのかと思ってたけど案外素直で純粋そうやんか。
「ってことはぁ、俺たち契約成立っすね!」
「契約?」
「そ、契約。俺は可愛い兎ちゃんでアンタはその飼い主ってわけ! これからいーっぱい可愛がってね♡」
「へ? おわっ!?」
そう言うと少年は俺の首に腕を回すとギュッと抱きついてきた。
突然のスキンシップに驚きながらも恐る恐る小さな背中に手を回すと彼は嬉しそうに頬を緩ませながらスリスリと体を擦り寄せてくる。
「もうっ、急にびっくりするやんか」
「だって嬉しいんだもんっ!」
「あんなぁ、俺はまだなんも言ってな、」
「ふへへ、白石さんの体あったかくて気持ちぃー」
「……っ」
ああもう! ほんまにこの子、底無しに可愛ええな!
これはもう、飼うしかないよな。飼うって言い方は倫理的に問題がある気もするけど。
「……はぁ、俺の負けや。これからよろしくな。えっと、」
「俺の名前は赤也だよ」
「あ、名前あるんや」
「うん! 幸村さんが決めてくれたぁ」
「ゆきむらさん……?」
ペットショップの店員さんやろか。本当は俺が名前つけてあげたかったけど……決まってるならしゃあないな。
こうして赤也との奇妙な生活が始まったのだ。