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    記憶あり転生現パロ
    月→→→→→鯉っぽいものを書きたかったはずが、ものすごく鯉が可哀想な感じになってしまったので、それなりに覚悟して読んで下さい(肉体的・性的には酷い目にあってません)
    明治の様子や再会シーンやこの後のシーンなんかも構想はあるので、そのうち…書きます…たぶん…
    性描写・肉体関係なしですが明治で肉体関係あり(月鯉)です

    #月鯉
    Tsukishima/Koito

    失われた風景 週末の居酒屋は騒がしく、しかしその喧騒をどこか遠くに感じながら、月島は手にしたスマートフォンに漫然と視線を向けていた。
     ホームボタンに触れてロックを解除すらしていない機器は、光を灯すことのないただの黒い板でしかない。着信や、ラインの通知が舞い込むことすらなく沈黙を続ける電子機器に、喉元まで出かかった溜息を飲み込む。こんなものに振り回され一喜一憂するなど愚かしいことこの上ない、電話すらほとんど普及しておらずに電報を駆使していた時代にはこのようなものに振り回されることなどなかったというのに――そこまで思考を巡らせてから、月島は今度こそ吐息を漏らした。
     止めよう。そんなことを考えたところで、不毛でしかない。そもそもその時代に対応を誤ったからこそのこの事態なのだ。
     テーブルの上に乗せてあったコップを掴み取ると、中身を一気に呷った。アルコールの香りがぶわりと鼻腔をくすぐり、息をつく。ざわざわと騒がしい席で、月島はしばらく気もそぞろであった。会話に加わるでもなく、意識はスマートフォンにばかり向き、思い出したように一人で酒を呷る。けれど気乗りのしない席というわけではなかったのだ、むしろ気心知れた部署内での飲み会だからこそ、遠慮なく気を散らせていた。これが接待や規模の大きい飲み会ならば、もう少し周りに気を遣いそれなりに場を取り繕うための努力はしただろう。
    「月島さぁん、さっきから上の空ですが、お約束でもあったんですか?」
     ――ふと。声をかけられ、振り返れば人好きのする笑みが視界に入る。愛想笑いと丁寧な物腰の会話には長けた男の姿を認め、月島は緩く首を振った。
    「……いや。特に何か約束をしているわけではないんだがな」
     そもそも、あの人と約束を取り付けたことなど、ほとんどないのではないだろうか。大半の場合は、一方的に呼びつけられるばかりだ。向こうは学生で、こちらは社会人だというのに、いつでも呼び出しは一方的でこちらの都合など一切勘案されていない。
     けれどそれは、仕方ないことだ。向こうからすれば、月島の都合がつかなければそれはそれで構わないのだ。断れば、そうかじゃあなで会話は途切れるのだ。食い下がられることも、代替案を示されることもない。そうなると月島に出来ることは、次の気紛れの連絡を待つことばかりになるが故に、自然と出来る限りは都合をつけつようになってしまっている。
    「月島さん、相変わらずかぐや姫に振り回されてるんですね」
    持って来たコップの中身をちまちまと飲みながら、宇佐美は意味ありげに笑みを浮かべる。色白の肌がほんのり染まっているところを見るに、多少は酔っているようではあるが、この男の態度がどこか不遜なのは素面の時でも変わりがない。
    「……かぐや姫?」
    「月島さんのカノジョのあだ名ですよ!」
     かぐや姫とは何のことかと問えば、返って来た応えに思わず眉間を押さえた。本当に内輪だけの飲み会で、厄介な上役は伴っておらずに、無礼講と言って良い集まりだった。しかし仮にも上司の恋人に――恋人ではないが――陰であだ名をつけ、それをよりによって本人に堂々と告げるとは。
    「……彼女ではない」
    「えー。まさか、カレシ?」
     とりあえず思い違いを訂正してやろうと短く否定したところで、間髪入れずに畳み込まれ――思わず盛大に咽せてしまった。いや、違う。違わないかもしれないが、違う。そうではないのだ。
    「っ、そもそも恋人ではない」
    「なるほど、本当にかぐや姫なんですね」
    「だからかぐや姫とは何のことだ……」
     すらりとした長身、スマートに引き締まってはいるが華奢ではなくむしろしっかりと筋肉がついた無駄のない体つき。健康的な小麦色の肌に、研ぎ澄まされた刃のような端正な顔立ち。艶やかな黒髪を持つ美形ではあるが、女性的な要素など一つもなく、見目も中身も強く気高い男性そのもので、とてもではないが姫という容姿でも雰囲気でもないだろうに。
    「残業中の社会人を突然呼び出したり、出張中に買いづらい限定品を買わせようとしたり、無茶振りばかりですからね。右往左往する月島さん、かぐや姫に求婚する男たちみたいじゃないですか」
    「はあ……」
     相変わらず、上司に対する言葉ではない。いや、宇佐美以外の連中からもそのような言い方をされているのだろうか。
     しかし、言い得て妙かもしれない。いくらかアルコールを取り込んだ体はふわふわとしており、何故か妙に楽しくなってしまった。無意識にぷはっと笑いが込み上げてしまい、肩が揺れた。
     ――かぐや姫か。かぐや姫だったとすれば、いつか彼は月に帰ってしまうのだろうか。その非現実的な妄想に、再び笑いが込み上げて来た。そもそも自分の人生も彼の人生も、その二人が引き合ってしまったことさえも、非現実的だというのに。
    「でも、そこまで尽くしても恋人じゃないなんて、結構酷い話ですね」
     さすがに性悪すぎません? と、宇佐美は呆れたように肩を竦めたので、思わず月島は視線を険しくした。性悪などという言葉とは対極の、清廉潔白で真っ直ぐなかつての上官の顔を思い浮かべる。月島の人生を照らし出したあの光を、この人の憂いを取り払うために尽力するのだという誓いを、今でもありありと描くことが出来る。
     そう、彼は何一つとして悪くはないのだ。約束を持たない理由を知りながら、それでも会いたいのは月島の勝手でしかない。物で気を引けるなどとは思ってもいないが、それでも何かを手渡したいのも自己満足に過ぎない。それに、求められるものは決して分不相応に高価なものではない。行列の出来る人気店の菓子や、ちょっとした珍しい食材ばかりだ。むしろいっそ高価な物を求めてくれれば、彼の手元に自分が贈った物を残すことが出来るのにとすら考えてしまうくらいだというのに。しかし手元に残る贈り物はしてくれるなと、強く言い含められている。雁字搦めの要求に縛られているが、しかし一方で全て自業自得だと知るからこそ、何かを言える立場にはない。
     かつての彼は、それこそ月島には不釣り合いの物を買い求めようとしていた。庶民が食べるような値段ではないような店で、食事をしようと誘われた。そのほとんどを冷たくあしらっていたのは、月島の方だった。あの頃の彼も、このような思いをしていたのだろうか。
    「…………あの人のことを悪く言うな」
     振り絞った声が思いの他剣呑で、己のことながら呆れそうになる。片眉を持ち上げ驚いたような表情を作って見せる宇佐美に、深々と溜息が漏れた。
    「全部俺が悪いんだ」
     ああ、酔いが回っているのかもしれない。部下相手に、不毛な愚痴を溢すなど。横目で見遣った男の両頬の特徴的な黒子に、棒人間の落書きが掘り込まれているような錯覚に頭を抱えた。
     今では己も宇佐美もまともな社会人をしている。顔に刺青など入れるはずもないというのに。
    「……何かありました?」
    「いや、何も」
     何もないからこそ、空虚だった。かつても今も、彼との間に名付けられる関係は何もない。いや、何もなかったわけではない。上下関係の逆らえない要求に従ったに過ぎないと、長年、本当に長い間それをなかったことにしていたのは月島の方だ。無邪気な好意を経て、それが確固たる絆に変貌していく中でいつしか我儘を通すような真似をすることがなくなったからと安堵すらしていたが――結局それは、徹頭徹尾自己中心的な感情でしかなかったのだ。
    「そもそも俺が振ったようなものだからな。あの時に受け入れてやれなかった、俺が悪い」
     遅いのだ。何もかもが全て、今更だった。もう今更、あの無邪気な信頼と情熱を取り戻すことは出来ないのだと、痛いほどに思い知らされている。彼のことを、世の道理も知らぬ子供と侮っていた己は、あまりにも愚かだった。外側はあの頃と寸分違わず、身体の年齢もかつての任官直後と変わりがないが――中身だけがまるで異なっている。大人になるということは、かくも恐ろしいものだったなど、知る由もなかったのだ。
    「……へえ」
     宇佐美の相槌は、気が抜けた声だった。流し目で遠くを見る男は、まるでこちらには興味がないと言わんばかりの態度だ。けれど仮にも上司である己の言葉を適当に聞き流す、この態度こそが心地良かったのだ。
     そもそも、生真面目な若手相手に愚痴れるような内容ではない。こんな年齢にもなって、一回りも年下の男子大学生に執着しているなど、喜劇を通り越してもはやホラーだ。真面目に恋愛相談のつもりで受け取られても、居た堪れない。あからさまに聞いてませんという態度を取られた方が、まだ安心出来るというものだ。次第に重くなっていく頭を、テーブルにだらしなく肘をついて支えながら、はあと重く溜息を吐く。そのまま両目を閉ざせば、喧騒がさらに遠くに感じられた。酔っているんだろうな、と、改めて他人事のように自覚する月島は自嘲した。
    「僕には、事情がちょっと良くわかりませんが。それはきっと、軍曹が悪いんだと思いますね」
    「……だからそう言ってるだろう」
     ああ、やはりたいして聞いてはいなかったのだな。なんとなく話を合わせたと言わんばかりの雑な返答に、もう一度深々と肺に貯めた空気を吐き出したところで――勢いよく顔を上げた月島ははたと宇佐美を見た。
     待て。この男は、今何と呼んだ?
    「姫じゃなくて剣士だったんですね。なるほどねえ〜」
     形の良い唇が、心底楽しそうな笑みを刻む様に、じわりと汗が滲んだ。今は令和で、ここは居酒屋で、職場から直行しているため全員スーツ姿のはずが。古びた兵舎で、見慣れた濃紺の軍服を着込み軍帽を手にした宇佐美が鮮やかに笑む――そんな幻覚が脳裏を過ぎる。どこか気だるげな表情のまま、コップに注がれた安酒を片手に、ねえ百之助、と、尾形上等兵に声をかける――そこにいるのは、宇佐美の同僚であり月島の部下であるサラリーマンの尾形百之助で、無論彼の服装もスーツだ。決して軍服ではないというのに、けれど胸の奥に巣食う違和感に、月島は緩く首を振るった。
    「月島さん?」
     怪訝そうな声色で呼びかけながら、尾形は前髪をかき上げた。整髪料を用いてまとめられている髪は、この時間だからか勤務時間内に比べてセットが緩んできているのだろう。そういえば昔から、こいつは何かと癖のように前髪をかき上げていた。いや、軍にいる間は坊主頭だったはずだ、ならばいつのことか。
     ああだめだ、これは随分と酔っているに違いない。立ち上がる月島は、一度外に出て煙草でも吸おうかと思ったところで――テーブルの上に投げ出していたスマートフォンがピリリと軽快な音を発した。着信音のトーンを変えてあるため、その相手が誰なのかは画面を確認する前に理解し、慌てて月島の無骨な指は画面をスライドした。
    「はい、月島です」
     鯉登さん、と、名を呼ぼうとして、飲み込んだ。先程からの宇佐美の様子はあまりにも不気味だ。余計な事は言わないに越したことはないだろう。
    『――今日、大学の連中と飲み会でな』
     受話器の向こう側からも、賑やかな喧騒が響いて来る。月島は鯉登の予定を知らず、鯉登もまた月島の予定を知らなかったはずだ。この飲み会は予定にない、部署内のごく限られた者だけで気紛れに連れ合い出かけただけに過ぎなかったのだが、そもそも月島は鯉登に自分のスケジュールを伝えることをしていない。お前がどこで誰と何をしていようとも、私には関係のないことだ、と、もう随分と前にはねつけられていた。鯉登のスケジュールとて、事前に教えて貰った試しがない。
    「お迎えですか? 私も今日は飲んでますので、車は出せません。徒歩でもよろしければ伺いますが……」
    『良か。二次会を断るための口実だからな』
     そうして、彼の飲んでいる店の場所や名前、解散予定時間を教えられる。わかりました。店の前まで迎えに行きます。帰りはタクシーを拾いましょうか。淡々と告げて通話を終了させたところで、元上等兵の二対の瞳を認めて、大きく息をつく。
    「お呼び出しですか?」
     尾形の言葉に、ああ、とおざなりに答える。何かを言いたそうな顔をしている宇佐美を睨みつけたところで、ひょいと席を抜けて月島の方へ移動しようとしてくる人物が視界の端に映った。
    「――鶴見さん。すみません、今日は早めに帰らせていただきます」
     鯉登の指定した場所は、ここから二駅の距離だ。駅まで移動し駅から歩く時間を含めても、あと三十分はここにいても指定の時間までには辿り着けるだろう。中座する非礼を詫び、若干の会話を交わすくらいの時間は充分に持てるはずだ。
    「ああ、例のかぐやの君か」
    「な……っ」
     琥珀色の液体が注がれたグラスの、その中身を一口含んでから、鶴見は優雅に頷いて見せる。下の者ならばともかく、上司にまで妙なあだ名が知れ渡っていたのかと、自然と視線は鋭くなる。
    「鶴見さんまで、妙なことを言わんで下さい」
    「ああ、すまんね。今日は気安いメンバーでの集まりだから、羽を伸ばしていてね。少し酔ってしまったようだ」
     あなたは下戸でしょう、と、つい口に出してしまったが、下戸だからこそこの酒臭さだけで充分に酔ってしまったよ、と、真偽の定かではない言葉を返された。月島は昔も今も、人並み以上には酒を飲むことが出来るが故に、アルコールが極端に弱い者の身体がどうなっているのかは想像だに及ばない。
    「しかし残念だなあ。今日はあまり月島と話が出来ないまま、もう帰ってしまうのか」
     僅か眉尻を下げた鶴見の物憂げな表情に、はあ、と、本日何度目かもわからぬ吐息を漏らす。相変わらず、この人は誑かしの天才ではないかと思う。この人の巧みな話術と表情の使われ方で、誰しもが自分は特別に目をかけて貰っているのだと錯覚するものだ。
    「まあでも、仕方ないですよ。さっき僕、月島さんにお話し伺ったんですが、どうやら昔やり捨てにしたお相手のようですから。それはご機嫌取りするしかないんじゃないですかね〜」
     鶴見の姿を認め、いそいそと近くに寄りながら発した宇佐美の言葉に、月島の手の中のコップがずるりと滑り落ちた。幸い、割れることはなかったが、僅かに残っていた液体はテーブルの上に小さな水溜まりを作る。
    「なんだ、知らないうちにそんなことになっていたのか。人のことを弄んではだめだぞぉ、月島?」
    「えっ、月島さんそんなことをしてたんですか。さすがの俺でも引きますね、それは」
     上司と部下から注がれた冷たい視線に、月島は身震いした。そもそも一体どうしてそんな話になったのか。おい宇佐美、と、隠し立てもせずに睨みつければ、如何にも心外だと言わんばかりに肩を竦められた。
    「そういう話だったと思いましたが……違いますかぁ?」
     一体どんな話と受け取ったのだというのか。斯様な妙な話をした覚えなどない、鶴見が近くにきたからとヘラヘラとするその男の首根っこを引っ掴み、怒鳴りつけてやりたかった。
     ――だが。
     かつての月島にとって鯉登は、手のかかるひよっこであり、時に煩わしい相手でもあり、けれど真っ直ぐに伸びやかなその美しさから目を離せなかった。愛おしかったのだ、そうと自覚するよりもずっと以前から。気紛れで触れて良い相手ではなかったのだ、だからこそ後生だと縋ろうとする相手にご冗談をと斬り捨てた。それでも引き下がらぬ鯉登は、苛烈な焔を瞳に宿し上官命令だと嘯いた。命令と言われれば、当時の月島には逆らいようがなかったのだった――。
     それは言い訳だった。そんなことは、百も承知だ。それは鯉登から見れば、まさに「やり捨て」なのか。命を、人生を預けた相手のことを斯様な俗な言葉で表現されるなど心外ではあるが、実際に鯉登から距離を置かれる本質はそこにあるのだということばかりは事実だった。鯉登の想いに応えなかったことが全ての敗因なのだ。叶うならば、かつての自分をぶん殴りたいところだ――いや、軍務を生業とし命のやり取りをこなしていたかつての己に、今のこの身では勝てる気はしない。今の月島は、当然ながら人を殺したことなどあるはずもない。
    「お前は、あそこまで言わせておいて中途半端な関係のままにしたのか。酷い男だな、月島?」
     何の話だ。いつの話だ。そもそも弄ぶだの酷い男だの、それをあなたが言いますか。
     渋面を作る月島に対し、鶴見は月島を見下ろしながら手を差し伸べる仕草をする。ああ、函館の機関車での戦闘か。瀕死の月島を伴おうとした鶴見に対し、もうこの男を解放して下さい、と、訴えた上官を思い出す。鯉登の言葉に、行動に、命を救われたのだ。そうしてその後の鯉登は、全身全霊で月島を含む部下を背負い立ちその立場を守り抜くために奔走した。あれほど我儘で勝手気儘で頼りなかった、あの子供のようなボンボン少尉が、ほんの半年ほどで激変していたのだった。
    「…………私はあの方の右腕として、最期までお仕えさせていただいておりますがね」
     嘘で塗り固め、あの人の忠心を弄んだあなたとは違うのだと、苛立ちすら覚えたのだったが、やれやれと芝居がかった仕草で首を振るうかつての上官は、わかってないなあ、と口走る。
    「軍人としてではなく、男としてはどうだったんですか、っていう話ですよ。わかってますか、月島軍曹?」
     鶴見の隣を陣取っていた宇佐美がすかさず発言すれば、貼り付けたような笑顔の鶴見が幾度か頷く。彼らは月島の『過去』を理解していて言っているのだという確信に、頭を抱えた。かつての月島は、この胸の内を誰にも打ち明けたことはなかったのだった。まして上官と肉体関係を持ってしまったなど、誰にも打ち明けられるはずもなかった。
     だがなるほど、鶴見には勘付かれていたのか。そこまでは薄々とその予感は持っていたが、まさか宇佐美にまで知られているとは想定外だった。だが確かに、宇佐美は諜報員として潜入捜査も行っている。人の心の裏の裏をかくことには慣れていたのだろうか。
    「なんだ、何かと思えばあのボンボンのことか」
     隠しもせずに鼻の頭に皺を寄せる尾形も含めて、そもそも彼らは皆明治の顛末を知るのかと頭を抱えたくなる。酔いに任せて愚痴をこぼしすぎてしまったと、後悔しても今更だ。明日からのことを考えれば気は重いが、チラリと横目で見た腕時計の指し示す時間を考えれば、いつまでも腹の探り合いのような会話を続けているわけにもいかない。
    「あまり遅くなって行き違いになるといけないので、そろそろ俺は出ます」
     お疲れ様です、と、定型文を付け加えて踵を返す。軍曹殿、と呼びかける宇佐美と尾形のことは無視することにした。とてつもなく面倒な予感しかしない。明日から、月島のあだ名は軍曹になってしまいかねない。最終階級は一応特務曹長だったのだがなという、くだらない訂正の言葉は口にしないことにしていたが。
    「少尉殿によろしく言っておいて下さいね〜!」
     背後から響く快活な声に、思わず月島は足を止めて振り返ってしまった。
    「……少尉ではない。あの人は中将閣下だぞ、宇佐美」
     そのようなことを告げて一体何になるというのか。今の世の中では、鯉登は少尉でも中将でもない。自衛隊員ならばまだしもだが、鯉登が通うのはごく一般の――偏差値としては高いが――大学である。防衛大学ですらない。けれど己のことならばまだしも、鯉登のこととなるとささやかな矜持につい言い返してしまいたくなるのだった。案の定、背後で宇佐美と尾形は盛大に吹き出している。明日顔を合わせれば、一体何を言われるのかわかったものじゃないが、それでもどこか清々しくも感じるのは酔って判断力も鈍っているせいだろうか。
     月島には、わからなかった。

     目当ての店には、告げられていた時間の十五分前には到着した。二次会を断る口実に呼ばれたとなると、鯉登はさほどこの飲み会に乗り気ではなかったのだろう。おそらく電話で呼び出そうが、店の中に入って連れ出そうが、さほど彼が困ることはないのだろうとは想像に容易い。しかし一方で、変に距離を詰めようとすれば彼が不機嫌になるのだとも心得ている。そのため月島は、店の前に立ったまま鯉登の退店を待っていた。
     解散の時間と伝えられていた時間から更に十分ほど経過した頃、店からは賑やかに談笑しながら幾人かの若者が出てきた。男ばかりの集まりかと思いきや、半数ほどは女性だ。合コンだったのだろうかと思えばじわりと不快感が胸の底をなぞるが、そのことに口を挟む権利などないのだとわきまえている。一度、合コンに参加されているのですねと言及してしまったことがあるが、干渉するなと不機嫌そうに睨まれたのだった。恋人でもあるまいし、という至極真っ当な線引きに息が詰まる。関係を変えることは、あまりにも困難だ。
    『見合いをお受けして、さっさと身を固めてしまいなさいと、言っていたではないか』
     そうしてぽつりと落とされた囁きに、月島は瞑目するしかなかった。前途洋々の見目麗しい青年将校には、賊軍と後ろ指を指されながらも相応の家からの縁談の話は後を絶たなかった。いつまでも学のない、むさ苦しい下士官風情とばかり馴れ合うわけにはいかないだろう。月島は、弁えているつもりでいたのだ。年齢も家格も到底釣り合わず、しかもどちらも男となれば、添い遂げることなど不可能だ。そういう時代だったのだ。適齢期に達する以前の火遊びならばともかく――彼の故郷には、斯様な風習が残っていたのも知っていたが故に、戯れの触れ合いは許されるのだと言い訳した。惚れた腫れたではなくあくまで上官の意向に従う下士官としての態度を崩さずにいた。胸の奥底に燻る感情など、全て握り潰せばいい。そうするしかないのだと、あの当時は強く自制していた。
    「月島」
     やがて店の扉から外へと出てきた長身の上官は、元上官は、月島の姿を認めて手を振った。誰、と、数人の女性陣がざわめいたところで、鯉登は涼しい顔で恋人だと言い放つ。酒のせいか、ほんのりと熱を持った指先が月島のてのひらに絡みつき、早く行くぞと甘やかな声が耳朶をくすぐった。
     ――これが甘い夢に過ぎぬのだとは、痛いほどに思い知らされていた。
     鯉登は、彼と交流のある者に対し、月島を恋人と公言して憚らずにいる。真相を知るのは、杉元などごく限られた彼が気を許す者のみだ。相手がいるのだと、それが同性だと思われていた方が都合がいいのだと、鯉登はあっけらかんと言い放つのだった。
     恋愛などしたくない。まして恋人など、もってのほかだ。もう二度とあんな思いはしたくはないと口にした、そのとき確かに鯉登は泣いていたのだ。涙を見せずとも、疲弊しきった声は震えていた。鯉登をそこまで追い詰めたのは己だと、自覚しているからこそどれほど理不尽な扱いをされようとも咎めるつもりはない。焦がれた相手に、人前では恋仲のように振る舞われ、二人きりになった途端に干渉するな用もないときにまで馴れ合うつもりはないと冷たく言い放たれようとも。
     駅に向かって歩きながら、どこかに寄って行こうかと機嫌良く笑う鯉登の表情は、あの頃を彷彿とさせる。人前だからと取り繕うのかもしれないが、それでもいいと思えた。酔っているのだ、月島も。そういうことにしておきたいと、切に願っている。
     互いに飲み会の帰り道とはいえ、時間は深夜帯ではない。駅前の繁華街にあるいくつかのカフェはまだ営業時間内で、適当な店の扉をくぐった。アルコールも腹に溜まる食事も供さない駅前のカフェで、月島が好んで口にするものはほとんどない。適当にコーヒーだけを頼むと、改めてかつての上官を視界に据えた。
    「お疲れですか?」
     先程までのよそ行きの表情とは異なり、鯉登はカフェの小洒落た椅子に長い足を投げ出しながら座り、不機嫌そうな表情を覗かせている。理由もなく理不尽に当たり散らすような人ではないのだと熟知しているがゆえに、それは不機嫌というよりは気疲れだろうとは想像に容易かった。
    「まあな。若者の話には、ついていけん」
     二十そこそこの見目の者が口にするには、あまりにも違和感のある発言だ。ともすれば、若いくせに年寄りぶる生意気な若造とも取られかねない言葉だが、それも確かにそうだろうと納得は出来てしまう。この人は、明治生まれの元軍人の記憶を持っている。相応に現代社会に適応しているとはいえ、中身はほとんど百歳くらいなのだから、いまいち同世代の若者に馴染みきれないところはあるのだろう。
    「お気持ちはわかります。俺にもそう思うことがありますので……」
    「頼み込まれて断りきれんかった。まったく、軍にいた頃の接待よりも面倒だったな」
     なるほど、先程の集まりが合コンだったとするならば、この人はさながら撒き餌のような扱いだったのだろうか。年嵩の男を恋人と称して歩く人なのだと承知の上で、それでもこの人の見目の良さに惑わされて女性が集まることを期待されたのか。鯉登は積極的に月島を恋人であるかのように偽っているため、女性との出会いを求めていないのだとは知れ渡っているはずだ。
    「気乗りしないのでしたら、無理に参加されなくとも良かったのでは?」
     余計なことと知りながら、つい口にした。差し出がましいと苦言を呈されると思いきや、鯉登は困ったように眉尻を下げた。
    「そうなんだが……頼み込まれると、弱くてな」
     ああそういえば、この人は部下思いで、兵卒だろうが尉官だろうが入営したての若者のことは殊更に目をかけていた。若い頃は人の何倍も手のかかる人だったが、無邪気で屈託のない真っ直ぐな性根は、年相応の落ち着きを得ても彼の根幹にあり続けたのだろう。若者に懐かれる人だった、彼もまた若者の瑞々しい情熱を慈しんでいた。
     だからだろうか。鯉登は明らかに同世代から浮いていて、それでも彼の周りにはいつも人がいる。無論、見目の良い彼に下心を抱いて近づく者も少なくないが、愛や恋やを嫌悪する鯉登の視線は絶対零度なのだといつか杉元が口にしていた。かつての宿敵である不死身の杉元は、今は鯉登と同じ大学に通う学生だ。あまり鯉登の交友関係に口を出すのは嫌がられるが、杉元はかつての関わりもあるため、連絡先の交換くらいは行っている。
    「月島は疲れてないのか? お前も飲み会だったのだろう?」
    「ええまあ。宇佐美と尾形と鶴見さんにからかわれたので、精神的にはくたびれましたが――今日はまあ、内輪の集まりだったので」
    「そうか。鶴見どんとの飲み会なら私も参加したいな」
     ふふ、と、柔らかく笑む鯉登から、月島はそっと目を逸らした。かつて鶴見と、五稜郭で交わしたやり取りを思えば、禍根を現代にまで引きずっていたとしてもおかしくないはずだ。まして鯉登は完全に当時を記憶しており、月島の行いは今でも根に持っているというのに、鶴見に対しては臆面なく好意を口にするのかと、腹の底が冷たくなるように感じた。ホットコーヒーの熱を胃に流し込んでも、底冷えを消すことが出来ない。
     ――函館湾に沈んだ鶴見の、その痕跡を必死に探していた。その一方で、鶴見の失踪――記録上は函館にて事故死――によって表沙汰になった様々な事柄の後始末に、月島と鯉登は忙殺された。支えた月島にも相当な負荷がかかったが、矢面に立った鯉登のそれは比ではなかっただろう。
     しかし今世で、マッカーサー元帥に関する資料を偶然目にした時に、月島は我が目を疑った。大統領選への出馬を目論んでいたとされる時期の写真に、支援者との会合の一場面とされた写真に、見覚えのある琺瑯の額当てを見つけて愕然とした。遠く片隅に映っていただけに過ぎず、ピントも合っていない。髪は既に白く見るからに肌も老人のそれであるが、覚えのある目つきに背筋が粟立った。とうの昔に喪ったと思っていた相手は、何のことはない。月島よりも長く生き、激動の時代の裏側を渡り歩いていたのだ。
     鯉登にもそれを教えたが、鶴見どんらしいと目を細めただけだった。この人はどうして鶴見には甘いのだろうか、と、その時も苛立ちを覚えたのだった。
     己の事は決して許す気はないというのに、甘い嘘で誑し込んだかつての上官のことは簡単に許し、あまつさえ再び無邪気な憧れを抱こうというのか。それはあまりにも面白くない事柄だが、憤ったところでどうにもならないのだとも心得ている。
    「そんなに楽しいもんじゃないですよ。宇佐美と尾形には散々な言われようでしたし――あなたは、俺の職場ではかぐや姫と呼ばれていたようです」
    「なんだ、それは」
     ふふっと笑った鯉登は、機嫌が良さそうにも見えた。月島といる時の彼は自然体なのだと、自惚れだと知りながらも信じている。なんだかんだと、四十年以上も共に過ごしていたのだ。鯉登の表情や声の調子で、彼の心の機微をかなり正確に読み取ることが出来るのだと自負している。
     ああ、それでも彼は、いつか手の届かないところへ行ってしまうのだろうか。先の約束は何一つとして出来ぬまま、この手を取ることも出来ぬままに。
    「…………あなたはいつか、月に帰ってしまうのかもしれませんね」
     そうして俺は、なす術もなくその後ろ姿を見送るしかないのではないか。そんな栓なきことを描いてしまうくらいに、それを本人に漏らしてしまうくらいに、今夜の月島は酔っていたのかもしれない。
    「どうだか。私は『月』には還れなかったからな」
     すっと真正面から見つめる鯉登の瞳が、揺らいだように見えた。鯉登もまた酔っていたのかもしれない。遠くを見つめるような視線が物悲しく、込み上げる情動に月島の喉がぐうと鳴った。
    「…………お慕いしております、鯉登閣下」
     それを口にしてはならないと頭では理解しながら、言葉は自ずとまろび出た。案の定、表情を失した鯉登の視線は鋭い。冷え冷えとした感情を向けられ、月島は頭を抱え込みながら呻いた。
     わかっている。今の鯉登はそれを望まない。それでもただ、渦巻く感情を制御しきれない。
    「嘘を言うな。私の右腕は、私を恋仲の相手としては愛さなかった」
     淡々と紡ぐ鯉登の声は、空虚だった。なじるわけでもなく、怒りを滲ませもせず、どちらかと言えば疲れ切ったような、そんな声色だった。
    「嘘ではございません、閣下、私は。あの頃から」
    「せからしか。言わんやったこっは、なかったもんと同じじゃ」
     月島が言葉を切るよりも先、被せるように口早く落とされた薩摩ことばに、息を飲む。晩年の鯉登は、ほとんど薩摩弁を使うことはなかった。ましてや今世では、これほど訛りの強い者はもはや祖父母世代でもいるかどうかだ。
     年若い少尉の、いとけなくも真っ直ぐな生き様を思い起こさせられるのは、今の彼がちょうど少尉として任官し、鶴見の元で任務にあたっていた頃と同じくらいの年齢であるが故か。あの頃から、月島は愛していたのだ。どれほど目を背けようとも、彼の純真を、無垢な精神を、苛烈な強さをも。内も外も美しく眩い彼が、一心に己を頼り慕う様を見せつけられて、心が動かないはずがない。そうだと認めるよりもずっと以前から、月島にとって何よりも鯉登が最優先であった。それこそ、鶴見の命よりも、任務よりも、金塊よりも。
     どうしてただ一言、あなたが愛おしいという、この想いを告げることが出来なかったのだろうか。たとえ時代や立場が許さずとも、言葉にすることは決して無駄ではなかったはずだ。まして言えば破綻するような関係ではなかった。言葉一つで何もかもを踏み越えることが出来ずとも、少なくとも心が通じ合ったというその確証だけで、この人の救いとなっただろうに。それがなかったからこそ、この人は今でも傷ついたままなのだと――そうして幾度も突きつけられる現実に、苦いものが込み上げる。
     この人は、この苦しみを何十年と味わってきたのだ。今は冷ややかに平坦に月島を見つめる鯉登は、痛ましいほどに傷ついているのだと知っている。
    「私の恋は、私の右腕と共に死んだ。今の私には何も残っていないんだ、月島」
     かつての月島と鯉登は、ある意味では伴侶よりも長く濃密な時間を過ごしていたのだと自負していた。しかしそれでも、この手を取れなかったことばかりは心残りだった。だからこそ、今世で再会したかつての上官が月島のことを覚えていたのは、運命だと信じた。右腕としては前世で全うした、今度はパートナーとして歩めればと切に願ったのだった。自由な時代に、しがらみのないただの人と人として、もう一度やり直せれば。愚かな夢想を打ち砕いたのは、もう二度と恋などしないと告げる、強張った声だった。
     まさに一世一代の恋だった。それに破れては、もう何も残りはしないのだと。誰かを愛する気力など、もう何も。眉根を寄せる鯉登が苦しみを吐き出しているのだと知るからこそ、何も言えないのだ。
    「すみません、全部私が悪いのだとわかってます。それでもあなたのお側に置いていただきたいのです。なんでもします、何なら身体だけでも良いので」
     必死に言い募れば、鯉登は目を細めた。幾分か雰囲気が和らいだように感じたが――セフレになれというのか、お前は案外図々しいな、と、長い指先が額を弾く。
    「お前は私を抱きたいか? 心を通わせずとも、身体だけでもと望むのか?」
     身を乗り出す鯉登の顔は、今までになく近かった。今世では、これほど近くまで顔を寄せたことは初めてだ。ほんの少し、月島も身を乗り出せば口付けることが出来そうな距離に、動悸は激しさを増した。十代の子供でもあるまいし、唇が触れ合うだけで動揺してもいられないだろうと思いながらも、それでも触れたくとも触れられずに耐えて来た、飢え乾いた身体が悲鳴をあげそうだ。
    「……そうですね。私は、あなたに触れられるならば、何でもいい」
     たとえ赦されぬ恋であろうとも、人目を忍んで触れ合った。その甘美な記憶が脳裏をよぎり、拳を丸め込む。抱いた回数など少なかったのだ、まだ鶴見の元で働いていた頃、まだ奔放な新任少尉だったあの頃の話だ。せめて抱いて欲しいと、郷里では良くあることなのだからと、丸め込まれた――振りをした。これは良くあることと教えられれば、己が汚す罪悪感から逃れることが出来たのだった。新雪を踏み荒らす勇気などないくせに、同時に自分以外の男もこの人に触れたのだと言われれば、激しいばかりの苛立ちが臓腑を焼いた。なんと身勝手で理不尽な怒りだったのだろうか。
    「まあ、抱いた相手が初物だったとさえ気付かんような奴に、くれてやるのは惜しいからな。少し保留にさせてくれ」
     ふっと唇の端を持ち上げた鯉登に、ざっと血の気が引いた。念友など珍しいことではないと嘯き、さも経験があるように装っていた鯉登まさか未経験だったなど、今の今まで夢にも思ったことがなかった。
    「どうして。どうして、言って下さらなかったのです?」
     仔細を思い出すことは困難だが、きっと当時の月島は優しく振る舞えなかったに違いない。どれほどか傷つけていたのか、想像するだに恐ろしかった。指先の震えを堪えることが出来ない。
    「だってお前は、言ったら抱いてくれなかっただろう?」
     鯉登の声色は変わらなかった。ただ静かに、感情の籠らない瞳が月島を貫く。咄嗟に言葉を紡げず、ぐうと喉の奥で声が潰れた。
     ――ああそうだ、経験がないと告げられれば、おそらく臆しただろう。戯れに下士官へくれてやるなどとんでもないと、強く拒絶したに違いない。誰かの手つきならば、火遊びくらいは許されると――身勝手な線引きで触れた。それが事実だった。
    「……すまん、言うつもりはなかったんだ」
     酔っているのかもしれない。苦く笑みを作る青年に、手を差し伸べることが出来ればどれほど良かったのだろうか。抱きしめたかった、いくら拒絶されようとも思いの丈をぶつけることが出来たのならば、どれほど良かっただろうか。
    「…………タクシー、呼びましょうか」
    「そうだな……」
     象られたままの笑みはどこか悲しげで、直視出来ぬままに、月島はスマートフォンを取り出した。配車アプリに必要事項を入力しながら、横目で見遣る鯉登はやはり沈鬱で、余計なことを言うべきではなかったと後悔に苛まれていた。
     想いを伝えるべきは、今ではなかったのだ。あの頃は何もかもが見えていなかった、それでもこの人の心と身体を尊重することが出来ていたのならば、これほど苦しめることもなかっただろうに。
     それでもまだ彼を愛している、その愚かさを幾度となく突きつけられていた。
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