レッスン後に始まったアマミネくんの誕生日パーティーは、僕たち3人と偶然事務所にいた人たち、途中からHigh×Jokerのみんなやぴぃちゃんも合流して大いに盛り上がった。みんな俺のこと好きすぎって笑いながら、アマミネくんは机いっぱいのプレゼントをどんどん開けていく。僕はいたたまれない気持ちを隠しながら、その光景を眺めていた。
アマミネくんには日付が変わったタイミングでLINKを送ってある。プレゼントもパーティーが始まってすぐ、マユミくんと一緒に先週買ったブランドのスニーカーを手渡した。これまで友達にもたくさんしてきたことの反復。僕とアマミネくんが付き合っていなければ、何も問題ないはずだった。
欲しがりそうな物の見当はある程度ついていたし、そもそもアマミネくんは優しいから、何を贈っても喜んでくれるのは分かっていた。それでもちゃんと恋人らしく…いちばんになりたくて、秋の初め頃からずっと悩み続けていたけれど、結局正解に辿り着けないまま、当日になってしまったのだった。
僕はいつも上手にできない。アマミネくんがっかりするだろうな。ため息が出そうになるのを堪えて、楽しそうに伊瀬谷くんたちと写真を撮り合っているアマミネくんから目を逸らした。
賑やかな会場をこっそり抜け出してキッチンで片付けをしていると、後ろからアマミネくんがやって来た。手伝います、と洗い物をしていた僕の隣に並ぶ。
「主役がこんなところにいていいの?みんな心配するし、先に戻って大丈夫だよ。」
「百々人先輩こそ1人で片付けとか気使い過ぎじゃないですか?俺はトイレ行った帰りだし。それに2人の方が早く終わりますよ。どうせ最後にまとめてやるんだし、ある程度スペース空けたら戻りましょう。」
アマミネくんはそう言うけど皿を拭く動作は鈍くて、漸く2人きりになりたかったんだなと気付いた。
「プレゼントありがとうございます。やっぱり先輩たちセンス良いですよね。来年のハードル上がるな…。」
「あはは、良かった。前の撮影のとき、あのブランドのスニーカー気に入ってたでしょ。お店に同じのは無かったけど、こういうのも好きそうだねってマユミくんと相談して決めたんだ。」
たわいない話を続けた後、アマミネくんは手を止めて、覚悟を決めたように言った。
「あの、百々人先輩。」
「なあに?」
「先輩達からのプレゼント凄い嬉しいです。でも、俺は先輩個人からも何かあるんじゃないかって、…期待してるんですけど。」
「…」
アマミネくんのこういうところが苦手だ。
恋人なのに誕生日に何もあげられなくて、悪いのは僕で、謝らないといけないのに。あんなに沢山貰ったのにまだ欲しいの、なんて身勝手すぎることを思って胸が苦しくなる。
僕も手を止めて、アマミネくんの方へ立ち直る。そして、まっすぐ僕を見つめる顔が柄にもなく強張っているのに気づいた瞬間、謝罪も言い訳も全部吹き飛んで、僕はアマミネくんに口付けていた。
「誕生日プレゼント」
…やってしまった。頭が真っ白になって心臓がバクバクうるさい。そんな自分の動揺を必死に誤魔化して笑いかける。アマミネくんは…、真っ赤になってうわ、とか、マジかとか呻いてるけど、なんだか満更でもない様子だった。まずい、このまま苦し紛れのキスで納得されちゃいそう。そう思ったらびっくりするほど素直に言葉が出てきた。
「嘘。…ほんとはプレゼント、まだ用意できてないんだ。天峰くんが何をいちばん喜んでくれるか…分からなくて。ごめんね。」
アマミネくんはきょとんとした後、何か言いかけて黙り、しばらく僕の顔を眺めて、にやにや笑い出した。
「何」
「いやなんか、漫画みたいなことされて正直ビビったんですけど、百々人先輩らしいなって。もしかしてずっと悩んでたんですか?百々人先輩からなら何貰っても嬉しいのに。そんな真剣に俺のこと考えてくれたんですね。」
「それは…そうかもしれないけど、当日に間に合わなかったら意味ないでしょ。」
「そうでもないですよ。俺いま最高にいい気分です。あ、それじゃ次のオフ1日ください。色々周って、それで気に入った物あったら買ってください。」
さっきのとデートがプレゼント、恋人っぽくていいんじゃないですか。そう言ってアマミネくんは悪戯っぽく笑う。僕は自分が情けなくて、でもそれ以上に胸が温かくて、なんだか無性に泣きたくなった。
「…わかった。ありがとうアマミネくん。改めて、誕生日おめでとう。」
僕もキミみたいに優しくなりたいな。
これは悔しいから言わないけれど。僕はアマミネくんの目をしっかり見て、肩を掴み、もう一度ゆっくり顔を近づけた。