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    秀百々って言うと殴られそう…なうえに、筆力が足りなくて秀百々パートまで書ききれなかったやつ。中途半端なとこで終わります!

    #秀百々
    xubai

    イマジナリーフレンド「百々人先輩」
     聞きなれた声をかけられて、百々人は愕然とした。
     そこは百々人の自室。レッスンが終わって、一人で暮らすこの部屋にさきほど帰り着いたばかりだ。ダンスレッスンで疲弊した体をベッドに預けて、うとうとしていた時のことだった。
     一気に眠気が飛ぶ。慌てて体を起こせば、ベッドのそばに見慣れた、しかしここにあるはずのない後輩の姿があった。
    「今日のレッスンは散々でしたね」
     絶句する百々人に構わず、「それ」はひとりで勝手に喋りだす。
    「リズムに乗れないし、体はぶつかるし」
    「……。」
     次に来るだろう言葉に想像がついて、百々人はぐっと拳を握りしめた。
    「先輩、才能ないですよ」
     俺と違って、と言外に含ませながら、「それ」は秀の顔をして百々人をあざけった。

     百々人には、友達がいる。
     ただし、その友達は百々人にしか姿が見えないし、声も聞こえない。俗に言う、イマジナリーフレンドだった。
     はじめて「それ」が現れたのがいったいいつのことだったのか、はっきりとした記憶はない。気が付いたら「それ」は百々人のそばにいて、あれこれと話しかけてきた。なんの疑問も持たずそれに答えていたら、母親から「おかしな真似はやめて」と金切り声を上げられて、百々人は「それ」の存在を他人に知られてはいけないことに気づいた。幼稚園の頃のことだった。それ以来、周囲に人がいない時に「それ」は現れるようになった。
     「それ」は、優しかった。泣いていたら慰めてくれて、面白い話をして気を紛らわしてくれた。習い事が上手くいかなくて罰として自室に閉じ込められたとき、百々人は「それ」と会えるのが楽しみでさえあった。「それ」は姿をよく変えたが、たいがいは少し年上の男の子の姿をしていた。百々人が買ってもらえない、クラスで流行っているゲームに詳しくて、百々人はよくその話をねだった。「それ」がすごく楽しそうに話す様を見るのが、百々人は好きだった。
     様子が変わったのは、小学校中学年になった頃のこと。
     ある日、作文コンクールで「入賞」という成績を与えられた百々人は、母親から「どうして一番をとれなかったのか、反省文を書きなさい」と自室に閉じ込められた。
     学習机に向かい、作文用紙と筆記用具を準備した百々人は、しかし反省文を書きだせず、母親の前ではこらえていた涙で視界をにじませた。
    「…っう、ううっ…」
     必死に嗚咽を飲み込む。声を上げて泣いてしまえば、「泣いてもどうにもならないのよ!」とまた母親に言われてしまう。あのヒステリックな表情が、金切り声が、百々人は一番好きになれなかった。だから、部屋の外には聞こえないように泣かなければいけない。
     ぼたぼたと涙をこぼし、洟をすすり上げながら、百々人は必死に感情の嵐が過ぎ去るのを待った。そのまましばらく、静かに泣き続けると、次第に涙が止まってきた。名残のように横隔膜を震わせながら、ティッシュで涙だか洟だかわからない液体を拭っていると、ふっと背後に「それ」の気配を感じた。今日も百々人を慰めに来てくれた。この涙も、また楽しそうなゲームの話を聞いているうちに乾いてしまうだろう。なけなしのプライドで、百々人は笑顔を作って振り返った。
     そこにいたのは、いつもの男の子ではなかった。百々人を差し置いて、作文コンクールで「大賞」を獲得したひとつ年上の女子生徒だった。
    「…なん、で」
     百々人は瞠目する。「それ」は慈悲深く微笑みながら、驚く百々人の様子には目もくれず、「百々人くん、辛かったね」といつものように慰めの言葉を口にした。
    「……。」
    「でも、百々人くんはよく頑張ったよ。本もたくさん読んだし、前回の大賞作品も研究してた」
    「…うん」
    「作文も何回も書きなおしたよね」
    「…うん」
    「すごく偉かったと思うよ」
     予想外の姿に動揺してしまったが、話してみればいつもと同じだった。百々人も次第に警戒を解き、いつもの調子を取り戻してきた。今日はゲームの話はしてくれないかもしれないが、慰めてくれるなら構わない。「それ」が笑うのにつられて、百々人もぎこちなく笑おうとした。しかし、次の瞬間、百々人は凍りつく。
    「でも、がんばっても入賞しかできないなんて、才能ないんだね」
     さきほどまでの慰めの言葉とは打って変わって、「それ」が笑い含みに言う。それはまるで、百々人を明確に傷つけようとするナイフのような言葉だった。
     呆気にとられる百々人に構わず、「それ」は続ける。
    「だって私、そんなにがんばってない。たまたま勧められてコンクールに出しただけだったのに、大賞取っちゃった。研究とか、何回も書きなおしたりとか、ぜんぜんしてないよ。百々人くんの十分の一も努力してないのに、一番になれたの。みんなすごく褒めてくれた。天才だって。ねえ、どう思う? 私は才能あるかもしれないけど、百々人くんは…」
    「やめて!!」
     とうとうと続く演説に耐え切れず、百々人は耳を塞ぎ、目をつむって、そう叫んだ。
    「いやだ、聞きたくない! 消えて、消えてよ!!」
     目も耳も閉ざしているので、「それ」が演説を続けているのか、どんな表情でいるのかはわからない。しかし百々人は、瞼の裏に、にやにやといやらしく笑いながら、未だにいかに百々人に才能がないかを語りかける「それ」を思い描いた。「才能ないよ」「私にはあるけど」「一番になれなくて残念だね」「私が一番だったよ」と、頭の中で声がする。それをかき消すように、可能な限り声を張り上げて、百々人は「言わないで!」「やめて!」と言い続けた。
     永遠かのようなその時間を終わらせたのは、母親の絶叫だった。
    「百々人!!」
     不思議とはっきりと聞こえたその声に、百々人は我に返る。
     はっと顔を上げれば、部屋の入口に百々人の一番好きになれない表情の母親がいた。
    「なんだっていうの!? 私への当てつけ!?」
    「お、おかあさ…」
     激昂する母親は、百々人の弁解を聞く気はないようだった。顔を真っ赤に紅潮させ、まくしたてる。
    「叫び声が聞こえると思ったら…おかしくなったフリ? 勘弁してよ。一番になれない程度の努力しかしてないくせに、ストレスが溜まったとでも言うの!?」
    「おか…」
    「ねえ、ちゃんとしてよ! そうでないと、私の育て方がおかしいと思われるでしょ!」
    「ご、めんな、さ…」
    「これ以上、私に恥をかかせないでよ!!」
     ひとしきり叫ぶと、母親は手荒くドアを閉めた。後に残されたのは、放心する百々人と、すっかり静寂を取り戻した部屋だけだった。いつの間にか「それ」は姿を消していた。
     それからというもの、「それ」は時折、百々人が喉から手が出るほど欲しかった「一番」をさらっていった人々の姿で現れるようになった。
     ピアノコンクールの優勝者、サッカー大会の得点王、将棋大会の優勝者…など、年齢も性別も多種多様だった。しかし、決まって言うことは同じだ。誰もかれも、いかに百々人に才能がないかを、にやつきながら語るのだ。
     はじめこそ動揺していた百々人も、いつしかすっかり慣れてしまって、その姿で現れた「それ」には反応しない術を身につけた。「才能ないよ」「かわいそう」と言われても何も言わず、姿を視界から消せば、しばらくして「それ」は消えていった。そうして百々人が中学を卒業する頃には、その姿も、そうでないものも、「それ」は現れなくなっていた。
     イマジナリーフレンドとは、概してそういうものだ。幼いころに作り出され、成長とともに消える。百々人もそれはわかっていたので、特に驚くこともなかった。
     高校生になっても、相変わらず百々人は一番になれなかった。少し変わったのは、いつしか母親がヒステリックに叫ばなくなったことだった。一等賞でない成績を報告しても「そうなの」と言うばかりで、もう百々人を罰したりはしない。そしてある時、ついに百々人は解放された。母親からすれば見放したということになるが、百々人にとっては解放に他ならなかった。
     だが、これからどうすればいいのかはわからない。親に捨てられた自分の生きる価値とは何か、これから何のために生きればいいのか、皆目見当がつかなかった。
     いっそ、死んでしまおうか。
     しかし、価値のないトロフィーと一緒に、人生も投げ出してしまおうかと思っていた百々人は、不意にすくいあげられた。その手にすがって、まだ辛うじて生きている。

     同じユニットを組むことになった秀と鋭心は、優秀な人間だった。
     二人についていくのは大変だったが、それなりに毎日が楽しかった。ここには、百々人が一番になれなくても叱る人間はいない。「次、頑張ればいい」とみんな前向きに励ましてくれ、百々人が遅れても追いつくのを待ってくれた。ここでならやっていけるかもしれないと思えた。
     しかし時折、言い知れぬ恐怖を感じることがあった。
     鋭心は、百々人より年上だ。両親が有名な俳優というバックボーンもあり、初めから百々人の敵う相手ではない。しかし、秀は違う。ユニットを組む前から、百々人はその名前を知っていた。一年生に、とんでもない男子がいる、という噂が他校にまで轟いていたのだ。入学早々、生徒会選挙で会長の座を射止め、勉学も優秀、芸術方面にまでセンスを発揮している。なんでもできすぎて、将来何になるのかわからない。それが百々人の聞いた秀の評判だった。それを聞くたびに、百々人の、心の柔らかいところがちくちくと痛む。秀はまるで、百々人の欲しかったものを、年下のくせしてすべて持っているようだった。鋭心のように特別なバックボーンがあるわけでもないのに、だ。しかも、それにふさわしい自信まで備えている。「俺、天才なので」と、一見思い上がりにしか聞こえないセリフが、秀にはよく似合っていた。百々人はそれを聞くたびに、心臓がぐっと収縮するのを感じた。秀のその姿勢は、百々人が欲しくて欲しくて、でも絶対に手に入れられなかったものだった。実力と、それに伴う自信。百々人にはどちらもない。
     三人を見比べたとき、一番足を引っ張っているのは間違いなく百々人だ。このまま落ちこぼれてしまえば、優しい人々にもいずれ愛想を尽かされるかもしれない。その時の光景が、百々人にはありありと想像できた。秀が言うのだ。「先輩、才能ないですよ。俺より年も上のくせに、こんなこともできないんですか」と。そして百々人は立場を追われ、ふたたび「何者でもない」百々人に逆戻りしてしまう。そうなってしまえば、今度こそ這い上がるのは不可能に思われた。それが百々人には怖い。
     もちろん、すべては想像に過ぎない。しかし百々人は、その想像に最悪の形で実体を与えてしまった。
    「もう、アイドルなんてやめたらどうですか?」
    「……。」
     秀の姿と声をした「それ」の言葉に、百々人は答えない。
     すでに部屋の電気は消され、百々人は布団に入っているが、まだ「それ」は消えなかった。部屋の隅に座り込んで、たまに思い出したように話しかけてくる。その内容はすべて、「百々人にはアイドルの才能はない」というものだった。
     布団を頭まで被って、ぎゅっと目を閉じる。それでもぼそぼそと百々人を責める声は続いたが、いつの間にか百々人は気絶するように眠っていた。

     朝、目が覚めると「それ」の姿は消えていた。
     百々人はほっと胸を撫でおろした。あれは悪い夢だったのかもしれない。疲れていたし、どこかのタイミングで知らぬ間に寝ていたのかも。きっとそうに違いない。そうであってほしい。しかし、百々人のその願いは呆気なく散ってしまった。
     「それ」はことあるごとに、どこにでも現れて、百々人の精神を蝕んでいった。よく出てくるのは、なんらか上手くいかなかった日、帰り着いた自宅でだった。最初の時と同じように、いつの間にか部屋に現れて、いかに今日の百々人がダメだったか、アイドルとしての才能がないかをとうとうと語る。百々人はそれに返事をしなかったが、そんなことはお構いなしだった。自分が上手くやれなかったことなど、百々人が一番よくわかっている。その傷をえぐられるのがつらかったし、そして何より、秀の顔をしている「それ」に言われるのが苦しかった。
     これはすべて、百々人の妄想だ。そんなことは百も承知だ。しかし、しだいに百々人の中に疑念が芽生える。
     秀も、同じようなことを考えているのではないか? と。
     秀は分別のある人間だ。間違っても「才能ないですよ」なんて口にはしないが、内心でどう考えているかなど、百々人には知りようがない。
     言えば百々人が傷つくと思って、口にしないだけなのではないか。本当は、もうすでに百々人のことを疎ましく思っているのではないか。あまりにダンスも、歌も上手くいかない。人の倍練習して、やっとついていけてるレベルだ。そんな百々人を、秀は軽蔑しているのではないか。
     考え始めると止まらなかった。そこに、「それ」が秀の声で言う。「先輩、才能ないですよ」と。百々人と違い、才能にあふれる年下の男の子の姿で。
     ある日、百々人は「それ」を正面から見つめた。
    「アマミネくんはいいね。僕と違って、才能があって」
     「それ」はにやりと不敵に笑んで、こう言った。
    「当たり前です。俺は天才なんですよ」

     翌日から、百々人は不思議と体が軽くなった。
     相変わらず「それ」はことあるごとに現れては百々人を批判したが、いちいち心が痛むことはなくなった。事実、百々人はよく失敗をしたし、的外れな批判ということもない。普通は面と向かって言われないことを言っているだけではあった。
     他に絶対誰もいない場所、それはだいたいにおいて百々人の自室だったが、そういうところでは、百々人もぽつぽつと「それ」と話をする。
    「あそこの振り付け、また失敗しちゃった」
    「先輩はほんとにダメですね」
     うん、僕はダメなんだ。うなずいて、百々人の心はむしろ軽くなる。
     事務所のみんなは優しいから、百々人がなにか失敗しても責めたりしない。しかし、本当は思っているはずなのだ。「また失敗か」と。今までもずっとそうだった。百々人はなにひとつ成功させられなかった。一回も期待に応えられたことがない。いつもいつも、惜しいところまではいくのだ。でも、絶対に完璧にはなれない。その罪悪感が、「それ」の言葉で許される気がする。
     百々人はまったく完璧ではない。しかし、仕方がない。秀のように天才ではないから。鋭心のようにバックボーンに恵まれているわけでもない。同じようには、できないように作られている。
    「先輩には、才能がないんですよ」
     その批判が、百々人には心地よかった。



     百々人がことさら気を付けていたのは、「それ」と本物の秀を混同しないことだった。
     口を開かなければ、見分けはつかないに等しい。だから、うっかり「それ」を秀だと思って話しかけたりしてはいけない。空想上の存在と話すなんて異様だし、百々人だって他人がそんなことをしていたら怪訝な視線を向けてしまうだろう。幸い、「それ」が現れるのは多くの場合、百々人の自室だった。だからだんだんと、百々人の警戒はゆるんでいった。
     ことが起きたのは、何かとレッスンが上手くいかなくて、百々人が数日間寝不足になっていたある日のことだった。
     ダンスレッスンのときに、あろうことか足をもつれさせて転んでしまった百々人は、トレーナーと鋭心、秀、さらに偶然訪ねてきたプロデューサーの全員から休憩を言い渡された。反論しようにも言い逃れの余地はなく、百々人はレッスンルームの隣にある小さな控室に閉じ込められた。本当の意味で閉じ込められたわけではない。ただみんなは、「しばらく横になっていなさい」と百々人をソファに寝かせただけだ。だが、百々人にとってそれは、幼少期に母のお達しで自室に閉じ込められた記憶とぴったり重なった。
     ぼうっとソファに寝そべりながら、百々人は昔のことを思い出していた。母はことあるごとに、罰として百々人を部屋に閉じ込めた。百々人の部屋は、珍しく外から鍵がかかる作りになっていて、泣けど喚けど、外に出ることは叶わなかった。百々人もしだいにそれを学習して、無駄なあがきをすることもなくなった。おとなしくしていれば数時間で外に出してもらえたし、それになにより、いつの頃からか「それ」が現れるようになったため、さほど退屈もしなかった。
     懐かしいわけでもなく、ただただ記憶をたどっていた百々人は、近くに気配を感じた。そちらを見ないまま、小さな声で「それ」に話しかける。
    「今日も上手くいかなかったな。最近、輪をかけてダメになってるかも」
    「無様にこけてましたね」
    「ふふ、そう。あーあ、今まではなんとか取り繕えてたのに…」
    「だって先輩、才能ないし」
     そう。百々人には才能がない。だから、人一倍努力が必要だ。だというのに、最近の百々人はそれさえままならない。
     日々、見捨てられる恐怖におびえている。優しい人たちに、いつ「もうアイドルになれないよ」と宣告されるかわからない。そう考えると夜も眠れなくて、さらにパフォーマンスが落ちて、さらに夜眠れなくなって、またパフォーマンスが落ちる。そんな悪循環に陥っていた。
     「それ」さえも、元気がなくなっているように感じる。まるで、今の百々人は責める価値さえないと言っているようだった。
     それも当然と言えば当然だった。百々人は知っている。他人を叱責する人は、相手に覇気がないと見るや、その攻め手を緩めるのだ。全員が全員そうではないのかもしれないが、少なくとも百々人の母はそうだった。
     我ながら滑稽だった。イマジナリーフレンドとは普通、自分の心を慰めるために作り出す存在だ。だというのに、百々人の「それ」は、かけらも優しい言葉をかけてこない。それどころか、百々人を責め立てるばかりだ。まるで母の代わりのように。しかし、そのほうが百々人は楽になる。自分には被虐趣味でもあるのだろうか。
     どうでもよかった。どうせこれはすべて妄想に過ぎないのだ。百々人は頭がおかしい。それだけが事実だった。
    「…僕、もうダメなのかな」
    「……。」
    「ねえ、言ってよアマミネくん。僕はダメだって…そうしたら、僕…」
    「…先輩?」
     秀の声がする。しかし百々人はわかってしまった。それが、本物の秀の声だと。
     はっと体を起こせば、部屋の入口に汗をしたたらせた秀が立っていた。「それ」の姿はない。
    「えっと…調子どうかなって」
    「……。」
    「あの…さっきのってどういう意味ですか?」
    「……。」
     百々人の背に冷や汗が伝う。秀の言葉からして、さきほどの「独り言」を聞かれてしまったようだった。しかも、よりによって「それ」を「アマミネくん」といつもの癖で呼んでしまった。
     やってしまった。気を付けていたのに、ついにバレてしまった。それどころか、秀本人に見つかるとは。
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     「なんでもないよ」と言うつもりで口を開いて、百々人はこう言った。
    「アマミネくん、すこし、話をしようか」
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