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    ぐらぐらする秀百々の書きたかったところだけ
    面白いのかわからなくなってきたけどせっかく書いたので上げます

    #秀百々
    xubai

    無題「じゃあ僕、お風呂入ってくるね」
    「ちゃんと温まらないとダメですよ。先輩、いつもカラスの行水みたいな速さで出てくるんだから」
    「はいはい。今日は湯船に浸かるよ」
     ゆっくりしてて、と言い置いて、百々人は風呂場に向かった。
     残された秀は、ほとんどBGMと化していたテレビを消し、すっかりぬるくなったココアを一口飲んだ。晩夏のある夜、二人の暮らす部屋には穏やかな空気が漂っていた。
     空になったマグカップを台所に持っていこうかと思ったところで、テーブルの上で何かが震えているのに気づいた。百々人が置いていったスマートフォンだった。断続的に震えているそれは、電話の着信を告げているようだ。
     そう思った時には、電話をかけている相手の名前が目に入っていた。正確には、百々人が電話帳に登録した名前。
     『かすみちゃん』という表示に、秀は眉根を寄せる。先ほどまでのまったりした空気が霧散する。
     というのも、百々人の電話帳は、プロデューサーや鋭心、そして秀、事務所の面々を除いて、すべてフルネームで登録してあるはずだ。
     なぜそんなことを知っているのかと言えば、以前百々人が自分でそう言っていたから。曰く、「ニックネームとかで登録すると、いろいろ勘違いされて面倒だから」と。その言葉に秀は、恋人の交友関係が広く浅く、そしてその中から彼に懸想する人が次から次へと発生しているらしいことを思い出した。誇らしい反面、たまに気が気でなくなるその事実だが、百々人自身は一線を引いているのだと知って嬉しかった。
     しかし、この『かすみちゃん』なる登録名はどういうことか。こんな名前の人物は事務所にいない。プロデューサーの本名ということもない。
     ということは、つまり…と、そこまで考えたところで、ようやっと呼び出しが終わった。ブラックアウトしたスマホを見てはっとした秀は、ぶんぶんとかぶりを振った。今頭に浮かんだ、とんでもない想像を振り払うかのように。
    きっと何かしら事情があるのだろう。それに、結果的にスマホを盗み見ることになったのもバツが悪い。恋人とはいえ、プライベートは確保されて然るべきだ。
     我知らずため息をついて、秀は百々人とお揃いのデザインのマグカップを台所へ運んでいった。

     またある日、外で落ち合った百々人と喫茶店に寄った時のこと。お手洗いに立った百々人が不用心にも置き去りにしたスマホがブルっと一回震えた。先日の件を連想した秀がこっそりと明るくなった待受を見ると、そこにはLINKのメッセージ通知が着信していた。
     差出人は『かすみ』。
     どこかでその可能性を想定していた秀は、素早く自分のスマホを起動しそれを撮影した。
     どうしようとも思っていない。少なくとも、今はまだ。
     けれど、この“証拠品”がさらに充実した時。自分はどうしたいのだろう、と秀は自問した。
     百々人との関係は順調だ。少なくとも、秀はそう思っている。けれど、自分はどこか他人の気持ちに鈍感な部分があるというのは、最近やっと自覚し始めたところだった。知らぬうちに地雷を踏んだという可能性も捨てきれない。もしくは、単なる倦怠期。けれど、二人はちゃんと会話もするし、たまに喧嘩までするし、ちゃんと仲直りもする。秀にはその可能性はないように思えた。
     けれど、結局のところ、心のうちなんてものは他人には推し量れない。百々人はあれで秀に飽き飽きしていて、今度は女の子を好きになってしまったのかもしれない。
     自分の想像に打ちのめされながら、悶々と考え続けていた秀は、ふと違和感に思い当たった。
     いくらなんでも、無防備すぎやしないか?
     普通(とは言っても、フィクションからの知識でしかないが)、浮気をする時はバレないように細心の注意を払うのではないか。あんなふうにスマホを放り投げて風呂に入ったり、席を立ったりするものだろうか。相手からの連絡を想定していないという可能性もあるが、秀がたびたび目にしたように、連絡はけっこう頻繁に来ている。百々人がその可能性を考えないのはおかしい。
     これはなにやら怪しい。そう思ってからの秀の行動は早かった。ついさきほどまで打ちひしがれていたとは思えないほどきびきびと、とある計画を立て始めたのだった。

     それからしばらく経った、静かな秋の夜。すっかり夏の気配がなりを潜め、朝晩はもう肌寒いくらいになっている。
     先に仕事が終わって帰宅していた秀が作った料理を二人で食べて、食後のお茶を飲んでいる時だった。
    「『かすみちゃん』とは親しいんですか」
     秀は脈絡なくそう切り出した。コップを持った状態で百々人の動きが止まる。そのまましばらく、時間が止まったかのようにどちらも身じろぎしなかった。
     しばらくして、百々人がコップを机に置いた。
    「…バレちゃったか」
     そうぽつりと呟いて、百々人は続ける。
    「アマミネくんは、浮気は許す人? それとも、許せない人?」
    「言い訳しないんですか」
    「だってもう、証拠があるんでしょ? キミなら絶対そうするもん」
    「俺の事に詳しいんですね」
    「…わかるよ。だって僕、キミの恋人だもん」
     凪いだ瞳に、そこではじめて悲しみの色が交じる。
     それを見た秀は、よりいっそう恋人を責め立て…はしなかった。むしろ呆れをにじませて言う。
    「いや、自分で仕掛けといてなんですか。浮気なんかしてないでしょ、アンタ」
     百々人の目が見開かれる。しめっぽい空気が一気に霧散した。
     ここからは反撃の時間だ。名探偵・天峰秀は、直球で証拠品を突きつけることにした。ポケットからあるものを取り出して机に置く。
    「ネタは上がってんですよ。でも隠し場所がベッドの下って。ベタか」
     証拠品として提示されたスマートフォンは、百々人が前に使っていた機種だ。SIMは今使っているほうに移されているはずだが、画面には電波を受信している表示がある。秀はそれを見つけたときに呆れた。わざわざ通信契約を結んでまでこの茶番は仕掛けられたようだった。
     これまた杜撰なロック(秀の誕生日でちょっとうれしかった)を解除して中を見れば、あの電話とメッセージの発信記録がばっちり残っていた。
    「一番怪しかったのは、必ず先輩のいない時に着信があったこと…この古いスマホで電話をかけたり、メールを送っていたんですね。名探偵には全てお見通しです。神妙にお縄についてください」
    「…何か始まっちゃった」
    「容疑者は静粛に」
    「ええ…」
     おほん、とわざとらしく咳払いをして、秀は続ける。
    「そして極め付けは、あたかも俺に見せつけるかのように置き去りにされたスマホ…最初は着信中は画面がついて、名前の見付けられやすい電話。次はメッセージ。この順番も、計画づくなんでしょう。先輩は俺にこれを見つけさせたかったんですよ」
     しかし、まだわからないことがある。「動機」だ。
    「で、『かすみちゃん』を作ってまで、何がしたかったんですか?吐いてください、全部」
    「そこは推理しなくていいの?」
    「いや、それがメインじゃないんで…どうなんですか、言ったほうが楽になりますよ」
    「……。」
     黙り込んでしまった百々人を前に、秀は内心気が気でなかった。
     浮気が事実でなかったのはいい。けれど、この一連の茶番に意味がないとはとても思えない。順当に推測するなら、それの行き着く先はひとつしかないように思われた。そして、それを無視してはこの騒動は収まりがつかない。
    「…別れたいってことですか」
     それは、思いの外弱々しい声になってしまった。
     探偵だの容疑者だの、バカバカしいごっこ遊びでデコレーションしてみたものの、本質は変わらない。百々人を追求するにあたって、秀は清水の舞台から飛び降りるくらいの覚悟を決めていた。このまま別れ話に発展する可能性が高いと思ったから。
     だって、そうだろう。遠回しに過ぎると思うが、一連の出来事は秀に百々人の浮気を疑わせて、別れ話を切り出させるために仕組まれているようにしか思えない。つまり、百々人は秀と別れたいと思っているのだ。
     だから、次の言葉には仰天した。
    「…別れたくない」
    「は!?」
     思わず特大の声が出てしまった。
    「でも、いつか別れることになるなら…まだキミに失望されてない今がいい」
    「…………………………え?」
    「きっとアマミネくんも、そのうち僕に愛想が尽きるよ。そうなる前に、幸せなうちに終わったほうがいいかなって、そう思ったんだ。浮気なら、キミも後腐れなく振れるでしょ」
     そういうこと、と百々人は締めた。今のがこの騒動の理由らしい。
     しかし、秀には何を言っているのか全くわからなかった。
    「…今は幸せってとこですか?」
    「うん。他人と暮らすのって、こんなに楽しかったんだなって思ってる。おかえりって言ってもらえるのも、ただいまって言えるのも…幸せすぎて、こわいんだ」
     そう言って、百々人は眉を八の字にして笑った。
     秀は呆然とした。百々人は幸せだという。だのに、いつの日かそれを失う想像をして、今の幸せを放り投げようとしている。その及びもつかない空想にはまったく共感できないし、そして何より、秀を侮辱していると思った。いつもは必要以上に他人の機微に聡い百々人が、なぜそれには気づけないのか。
     次第に怒りが湧いてくる。結局百々人は楽なほうに流れようとしているだけだ。もちろんどんな場面でも逃げるななんてことは言わない。でも、今回は話が違う。
    「…俺の気持ちはどうなるんですか」
     そう言えば、百々人が気まずげに目をそらす。
    「きっとキミも、いつか思うよ。幸せなうちに終わっといたほうがよかったって…」
    「それは言い訳でしょ。そう思わないとアンタが罪悪感に耐えられないだけ」
    「…そうかもね。僕はね、こういう卑怯な人間なんだよ」
     だから別れたほうがいいのだと、そう言いたいことは言葉にされずともわかった。わかったが、納得できるかは別だ。秀は全く納得できない。
    「そんなのとっくに知ってますよ。先輩は小さいことにうじうじ悩んで、辛いことからは逃げがちで、あとでそんな自分が大嫌いになるんだ」
    「よく知ってるね」
    「だって、恋人だから。もうそれなりに付き合いも長いし。そんなのわかったうえで、俺はアンタがいいんです。知ってました?」
    「……。」
     百々人は答えないが、通じていないとは思わない。でも「わかった」とは言えないのが百々人なのだ。
    「不安になったら、言ってください。そのたびに言いますよ。俺はどんな先輩でも好きだって。いまさら幻滅なんてしない」
    「…言葉だけなら、なんとでも言えるよね」
    「キスしてほしいって素直に言えば」
    「そんなこと言ってな…」
     秀は不意に机に乗り出して、反対側に座る百々人のおとがいを掴んだ。そのままキスをする。しばらくして顔を離したら、ぽかんと呆けている百々人の顔が見れて、スッと溜飲が下りた。
    「うそ。俺がしたかっただけ」
    「…そういうとこあるよね」
    「どういうとこ?」
    「はあ…なんか、悩んでるの馬鹿馬鹿しくなってきた。多分ほんとに浮気してても、アマミネくんは別れてくれそうにないや」
    「やっとわかったんですか? ということは、一件落着ですね」
     秀がやれやれと椅子に座り直すと、百々人が「…ねえ、アマミネくん」と言った。
    「僕は自分を信じられそうにないから、キミのことを信じるよ」
    「そうしてください。俺が期待を裏切ったこと、ありました?」
     百々人は少し間をおいた後、「生意気」と言って笑った。

    おわり
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