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    遭難者

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    遭難者

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    思追と景儀が含光君の癖を見つけちゃった話。

    #魔道祖師
    GrandmasterOfDemonicCultivation

    黒い衣に身を包み、長い髪を深紅で結い上げている青年の唇に白い装束から伸びる美しい白皙の指が近付く。伸ばされた指の背はそっと上唇に触れ、しばらくすると頬を滑り今度は指の腹で首筋に触れる。黒い衣の青年は眠ったままだ。おそらく、本当に優しく優しく触れているのだろう‥‥




    ーーーー含光君!!またですか!?





    含光君には癖がある。正確には癖が出来たと言うべきか。
    今日もまた僕達の前で披露されているあの癖、魏先輩の唇から首筋に指を滑らせるその癖の動きは余りにも甘くて、その場から逃げ出したくなる。というより、その場に居てはいけない気になる。

    お二人の仲は周知の事実であるし、色々あったであろうからこそ仲睦まじく幸せに暮らしてほしいと思う。思っているけれど、含光君の中衣を魏先輩が間違って着ていたり、たまにふと覗くあの…紅黒い跡と、歯形のような跡といい、さすがに見ているこちらが恥ずかしくなってしまうことが最近多すぎやしないだろうか。



    「思追、景儀、先に休む。」


    「「はい。含光君。」」


    今回の夜狩はすぐに終わる予定だったけれど、思いのほか時間が掛かってしまった。
    姑蘇からはそう遠くはないので帰れないことはないけれど、おいしい地酒があるらしい、と魏先輩が言っていたのを含光君が聞き逃すはずがなく、食事処付きの宿屋を見つけて一晩泊って帰ることになった。
    お二人と食事を共にすることはそうない機会だから、僕等もあれやこれやとたくさん質問してしまい随分と時間を使わせてしまっていた。最初、質問に答えるのは魏先輩ばかりでだったけど、だんだんと間隔が空き、回答は含光君が引き継いで答えてくれた。そんな会話が続き、ついには魏先輩はそのまま含光君の肩にもたれて寝てしまった。

    そして含光君はあの甘い癖を披露したのち、魏先輩の背と膝裏に手をまわしそのまま抱えて宿屋の二階に消えていった。


    二人を見送り、再び席に着く。


    「驚きだよなぁ‥‥」

    「え!景儀も気付いてた?」

    「あの『これ』だろ?」


    景儀は自分の 唇と首筋を触ってあの癖のまねをして見せた。
    全然甘くはなかったけれど。


    「いやぁ、含光君にも弱い所があるんだな‥‥意外‥‥」

    「え?」

    「だってあれ、魏先輩が生きてるか確かめてるんだろ?」


    景儀に言われてはっとした。確かに、思い返して見ればあの行動はいつも魏先輩が寝てしまった時だけに現れるものだった。いつも賑やかな魏先輩が静かになった時だけ。

    そして、あの指の動きを頭の中でたどってみる。
    指はふれた場所にしばらく留まっていたのを思い出した。‥‥指の背が上唇に触れしばらく‥‥それは鼻からの空気の流れを確認して呼吸をしているか確かめるため、そして指の腹で首筋に触れしばらく‥‥それはちゃんと脈を打っているか確認するためだ。  


    「含光君なら寝息くらい聴こえているはずじゃないか?」

    「‥‥触らなきゃならないほどまだ心配ってこと、なの、かな。」


    魏先輩、むちゃくちゃ強いのに?…と言いながら景儀は不思議そうに二人の消えていった方向を眺めた。


    景儀はまっすぐにものを見て、まっすぐに受け入れる。そのため、相手の策略に気付かないこともあるし、言葉をまろやかにせず喧嘩につながることもある。しかしそのまっすぐさは、いざという時に本当に大事なものを見つけるし、その言葉には本当に救われることを僕は知っている。


    「そういうところ昔から、敵わないんだよなぁ。」

    「へ?」


    今までの二人の空気を勘ぐって、色香のする甘い考えを巡らせていたいた自分が恥ずかしくなる。


    「景儀‥‥僕、恥知らずかもしれない‥‥」

    「え?!何で?!‥‥あーでも待てよ、あの二人の息子ならありえなくないことかも。」

    「え?!」

    「はははっ!思追のそんな焦った顔久々に見たな!」

    「はぁ、似たいのはそこじゃないんだけど‥‥僕、もっと強くなりたいな。」

    「へ?何だよ急に…」


    「景儀に言われて思い出したんだけど、あの含光君の癖、魏先輩が寝てる時だけにするんだ。魏先輩、ひとりで僕達の夜狩に着いてきてくれる時は、眠たそうな時はあっても安全だと確信がない限り実際に寝ることは余りない気がしない?」

    「‥‥確かに。」

    「けれど、お二人揃って同行してくださる時はかなりの頻度で寝てしまうことが多いんだ。」

    「あー、言われてみれば‥‥。」

    「信頼感がそうさせるのだろうけれど、僕等だけではまだまだ魏先輩が気を抜けないということだと思うんだ‥‥。」


    僕が強くなったところで、含光君の癖がなくなるわけではない。眠っている魏先輩はこの先も含光君の癖を知らないままかもしれない。不安が拭えるのかはわからないし、その不安に先輩は気付いてあげられないかもしれない。けれどせめて強くなることで少しでも二人が安心して幸せになれるように。僕にも出来ることがあるのなら‥‥


    「少しでも、頼られるようになりたい。」

    「‥‥おい、それなら『強くなろうよ』じゃないか?」


    不満げにこちらに視線を送る景儀を見る。二人の幸せを願っているのは僕だけではない。


    「そうだね!」


    隣に景儀がいると心強い。なんだかんだ人見知りがちの僕と人との間を縮めて繋げてくれているのはいつも景儀だ。


    「ところで、あの二人‥‥」


    ニヤニヤしながら二階を見つめる。友の考えてることは、同じ歳頃の僕にもわかる。


    「‥‥景儀、何考えてるんだよ‥‥」

    「強くなるためにはさ、藍家たるもの!俺達は耳も鍛えないとだろ?!」

    「‥‥景儀‥‥‥さっき僕に恥知らずとか言っておいて‥‥」

    「興味ないのか?」

    「‥‥なくは‥‥ない。」


    二人で顔を見合わせて、こっそりと階段を上がった。



    *************



    朝。


    「驚いたな・‥‥。」

    「‥‥‥うん。」

    「なぁ、あの癖、あれやっぱただ触りたかっただけなんじゃ‥‥」

    「え‥‥景儀が教えてくれたから、僕すんごい響いたんだけど!昨日の癖の理由の方がいい。」

    「なんだよそれ。」

    「それより、僕ら早急に強くならないと‥‥」

    「だな。魏先輩、ありゃ昼間眠いはずだよ。昼寝させてやらなきゃだめだ。」


    昨日の夜のことは胸にしまい。これからのことを景儀と決意する。


    「おはよう少年達!何だ?密談か?」

    「「魏先輩?!」」


    急に後ろから魏先輩が僕らの間に割り込んできた。
    肩を抱いてゆらゆらと揺さぶられる。


    「何だよ~急に黙って~。お前ら‥‥社会勉強でもした?」

    「「?!」」

    「なんてな~!じゃ、俺は藍湛と避塵に乗ってくから、お前らもゆっくり来いよ~。」


    最後に僕等の背中を思いっきりたたき、魏先輩は含光君に抱き着いて避塵に乗って飛んで行ってしまった。


    「ば、ばれてたのか?」

    「ばれてたみたい。」



    **********



    空より。

    「あいつら成長したなぁ、含光君の結界を超えて音を聞くとは。若い頃の好奇心と欲は思わぬ力を発揮させるよなぁ。」

    「魏嬰‥‥私は、彼らに心配させるほどか?」

    「‥‥俺、いつも言ってますけど?あいつらの言葉の方が響くのかよ。」



    おしまい。
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    chunyang_3

    TRAINING射日の戦いの英雄魏無羨ってつまるところ羿(げい、中国神話の英雄、弓の名手、太陽を落とす)だよなと思ってたんですけど、CQL1話で藍湛がいきなり月見上げてるし、二人の出会いも月見上げてたので、藍忘機って月に逃げなかった嫦娥(じょうが、羿の妻、羿を裏切って不老不死の薬を手に月に逃げる)じゃん!?となった感想のような忘羨知己です。THIS IS 知己(たぶん)
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    月に昇らじ 夜の風が竹林を通り抜ける囁くような音が聞こえてくる。風の音に藍忘機が琴を弾く手を止め、開け放たれた外へと視線を向けると、魏無羨は軒先から見上げた月の明かりに目を細めながら天子笑を呷っていた。
     静室の奥に座る藍忘機がじっと魏無羨の顔を見つめていると、魏無羨が振り向いた。藍忘機の琴の音が止まったことが気になったらしい。
    「藍湛、どうかしたのか?」
     月明かりに照らされた魏無羨の陰影の濃い輪郭に見惚れながらも、藍忘機は前々から気になっていた疑問を口にした。
    「好きなのか?」
    「ん? 俺が酒を好きなのは見てれば分かるだろ? 酒ならいくらでも飲めるなぁ」
     魏無羨の答えを聞かずとも、彼が酒を愛していていくらでも飲めることは良く知っている。
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