時代劇凛潔♀️(一)――――本当にどこまでも腹正しい、クソ野郎な兄貴だぜ。
我儘で横暴な兄の存在に、糸師凛は腸が煮えくり返る思いであった。
凛には兄がいる。四年前に隠居した父の代わりに藩主になった兄だ。その追随を許さぬ流麗なる剣技を持つ天才、『日ノ本の至宝』と呼ばれている、あの若き藩主である。その実態は、暴言をまき散らし我儘し放題家老の進言すら跳ねのける暴君こそが兄…糸師冴の本性であることを、十五歳になった凛はよくよく思い知らされた。おそらく…いや確実に、糸師冴の専らの被害者は、実弟である凛なのは間違いない。身内に対しても兄は毎日暴言三昧。兄から浴びせられる冷えた暴言を浴び続けた凛は、やがて兄を潰すのはこの俺だと憎悪を募らせるようになっていた。
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