魔王の物語•愛 それは遥か東の地にあった。そこはかつて、神が最初に作った人間が住まう楽園の地と呼ばれていた。開祖の場所。楽園。追放された土地。そこから罪が生まれたと言われる。
その場所に、冴と潔はたどり着いた。
「ここ、だよな?」
「中に入らねえと解らねえ」
楽園と呼ばれた土地は今ではすっかり変わり果てた土地となっていた。岩の砦は風化しきっており、炎の熾天使はどこぞへと消え失せて。豊かな実りの木々は総じて枯れ木と化していて。清らかな水の川は涸れてただの地の溝となり。獣一匹すらも生息していない。
そもそもここが本当にあの楽園であるのかすらも甚だ疑問である。伝承は当てにならないということを、六年前に冴は学んでいる。隣を歩く潔によってだ。あまりにも豊かな地であったから人々が根拠も無くそう嘯いていた可能性が高い。そう仮定してもおかしくない程に荒廃していた。
26560