ハート売りの話ラーはヒュンの事が出会った頃から好きでした。けれども、良い友であり続ける為にその想いはずっとひた隠しにしていました。
ある日、買い物帰りに一人で海が見える道を歩いていると怪しい老婆が話しかけてきました。
「魔族のお兄さん。恋煩い苦しそうだね。これは好きな相手のハートだよ。特別に無料で譲ってあげよう」
そのハートは紫色でキラキラ光って美しく、ラーはとても欲しいと思いました。
「砕いて飲み物に入れて飲みなさい。相手はそなたの物になる」
老婆はひたすら勧めてきます。
しかし
「仮にそれが本当の話だとしても本心ではない愛などいらん」
彼はきっぱりと断り、友の所へ帰っていきました。
「おかえり、ラーハルト」
友は微笑んで迎えてくれましたが、ラーは彼を見て驚きました。
金色のハートを持っていたからです。それはたった今、ラーが断って受け取らなかったハートと色違いでヒュンは大事そうにそれを持って行ってしまいました。
ラーは彼の様子をそっと覗いてみる事にしました。
金色のハートは恐らく自分のだとラーは直感でわかりました。
ヒュンは鞄から金槌を取り出してハートの上で振り上げました。暫くその姿勢のままじっとしていた彼は、深いため息をつき金槌をしまうと金のハートを抱きしめました。
「こんなに綺麗な物を壊す事などオレには出来ない」
彼は小さな宝箱の中に金のハートを入れて鍵をかけ、そっと鞄へ仕舞い込みました。
それを見たラーは思わず声をかけました。
「砕いて、飲み物に混ぜて飲んでも構わないぞ。そうしたら、お前に手を出した時の言い訳に使えるのだが」
ヒュンは驚き青ざめました。
「お前はこれが何か知っているのだな」
「許してくれ、こんな間違った事をしようとしたオレを。お前の心はお前の物だ」
ヒュンは宝箱の中から金のハートを取り出しラーに渡すとその場を去ろうとしました。
ラーはその腕を掴んで引き止めます。
「お前がそのハートを持っていなければ、オレはお前を諦めただろう」
「お前は知らなかっただろうが、オレのハートはとっくにお前の物だ。いくらでもくれてやる」
ヒュンを抱きしめそう言うと、金のハートが突然砕けてサラサラと粉になって消えていきました。両思いの二人にはもう必要ないからです。
「オレのハートだって、お前の物だ」
二人は抱き合い、お互いの体温を感じながら幸せだなあと思いました。
この瞬間から友人だった関係が恋人に変わったのです。