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    jodyheavn

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    月島お誕生日おめでとうと言いたかったのだけど、誕生日にたどり着いていないよ!な前半です。
    めちゃくちゃ途中ですが、とりあえず上げます!すみません!

    #鯉月
    Koito/Tsukishima

     5年ぶりの桜まつり。例年開催時期よりも開花が早くなり、まつり期間中には葉桜となり始めていたのだが、今年はどうにかライトアップ中も花が残っているようだ。

     通りがざわめく金曜の夜、鯉登にはそれに気づくこともなく重たい足どりで恋人の待つ家へとむかっている。


     前世からの因縁の相手である月島と出会った瞬間、2人は再び恋に落ちた。その日その場所ですれ違うことが定めであったか、視線が合ったその時に全てが始まり、そしてその後の全てが決まった。
     吸い寄せられるように手を取り合った2人は周りの目も気にせず往来で互いの名前を呼び、溢れる涙が頰を濡らした……

     のがもう3年も前のこと。
     その翌日には鯉登のマンションで朝チュンを迎える嵐のような展開でもって今世の2人の関係は幕を開けた。
     百数十年前からの慕情と信頼はもはやチートと呼ぶにふさわしく、たいていのことは阿吽の呼吸でなんなく乗り越えてこられた。

     だから今回のピンチもなんとかなると思っていたのだ。



     春である。
     桜は早くも盛りを過ぎ、歩道の端を風で散った花びらが埋めている。
     出勤前に通った時よりも明らかに淋しくなった枝を見上げて、それとはまるで関係のないため息が漏れた。
     川向こうの公園では、残り僅かな花を少しでも「映え」させようと、ぼんぼりの下で若者たちが不自然なポーズで写真を撮っている。
     その無邪気な滑稽さにさえ心がざらつくのは今の自分に余裕がないからだ。

     いかんいかん、こんなささくれた気分で帰っては月島に何かあったかと気をつかわせてしまう。

     前世で生涯を共にした優秀な我が右腕は、あいかわらず何を言わずとも一で十どころか五十も百もこちらの状況を察してしまうのだ。不用意な態度で不信感を抱かれてはいけない。

     そう、3日後に迫る月島の誕生日に贈るプレゼントがまったく決まっていないなんて、けっして知られるわけにはいかない。


     去年一昨年と、プレゼントは有名な米どころに近い温泉への一泊旅行で、朝晩お櫃いっぱいの白ご飯を存分に味わった。
     年度明けからこんな贅沢いいんですかね、とかなんとか言いながらも明治から変わらぬ好物を週末の2日間しっかり楽しんで、月島も、計画した私も満足の行く旅行だったと思う。
     とはいえ3度目も同じというのも面白みにかけるような気がしていたのと、月島の出張が年明けから数回続いていたので、今年はゆっくりと家でお祝いしよう!と鯉登から言ったのだ。それがまさかこんなことになるとは思いもせず。

     自身の行きつけの伊◯丹に行けば、すぐにこれだとは決められずとも、何かヒントくらいは見つかるだろう。ましてや互いを知り尽くした関係なのだ、プレゼント選びなんて簡単。
     そんな軽い気持ちでいたのに、実際はまるで違っていた。

     月島の好きな物って、なんだ?

     何を見ても、どこへ行っても、結局はそれがわからないから「正解」にたどり着けない。

     趣味は筋トレと温泉巡りだが、器具を使ったトレーニングはジムでしか行わないし、温泉旅行は今回は選択できない。
     家の風呂を楽しむための入浴剤は、炭酸が強くて無香料のタブレットを気に入って定期的に購入している。しかしこのタブレットの「高濃度炭酸」が好きなのか「無香料」が大事なのかを私は知らない。
     好きな食べ物はもちろん白ご飯だが、付き合って3年目の誕生日プレゼントが米やご飯のお供もというのは…盆暮れの挨拶でもあるまいに。

     定番の小物類もあらゆる店をはしごして見て回ってたが、日頃から「あなたの感覚では高級品にはならなくとも、私はちょっと普段使いはできないですね…」とやんわり金銭感覚の違いを指摘されているので、プレゼントだからと奮発しても喜ばれる気がしない。
     そもそも月島が服やらカバンやらを買いたいと言ったら一緒に行って見立てているが、鯉登が勧めるものを値札だけ確認してそのままレジに持って行くので、彼自身がどういうファッションが好きなのかを考えたこともなかった。

     一緒に住むと決めた時もインテリアについて月島が何か言うことはなかったし、よくよく思い返してみれば家の中にあるもののほとんど登の趣味や独断で決めていた。
     月島がこだわったのは炊飯器と風呂椅子の高さくらいで、リビングや寝室の家具やカーテン、キッチンの鍋つかみまで、すべて「これがいい!」と言ったのは鯉登の方だ。
     
     冷静に考えて、これはちょっとよろしくない関係なのではないだろうか。
     よろしくないというか、まずいというか。
     出会った時から今までずっと月島は何も言わずに鯉登の好きなようにさせてくれていたのだ。
     そして私はそのことに気づくどころか、ろくに感謝もせず当然のように受け止めていた大馬鹿者である。
     大馬鹿者だから百年も前から一緒にいる恋人が好きな物もこだわりたいことも何も知らない。

     半月近くプレゼントを探してわかったことはただ一つ、己の愚かさだけだった。


     とはいえ誕生日は月曜、どうあがいてもあと3日でやってくるのだ。この週末になんとか月島にバレないようにプレゼントを見つけないといけない。
     インポッシブルにも思えるミッションだが、明日1人で出かけられればまだ十分に可能性はある。
     そうだ、諦めるには早すぎる。まだまだ遅くないぞ鯉登音之進!
     よしっと口の中で呟くと、花見客の間をすり抜けるように家路を急いだ。
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