ゲドウ⑦漆黒の羽根をはためかせるイーガ団装束のリーバルは、本部の裏口を警備しているイーガ団幹部の背後に音もなく舞い降りた。
「ヒッ!?」
スッと小刀をその首に沿わせると、幹部の口から情けない悲鳴が飛び出す。
「前から思ってたんだけどさあ、なんでこっちの警備は手薄なんだろうね?君以外誰もいないじゃないか」
「リ・・・リーバル・・・」
はあ、とため息をついたリーバルはあっさりと幹部を開放した。
「ちょうどよかった。聞きたいことがあるんだよねえ」
リーバルは幹部の顎を指先でそっと押し上げて自分を見るように促すと、逆の手でその男の股間を優しく撫で上げた。
「や・・・やめろ!かわいそうだが、お前を入れないように言われているんだよ!」
「だからさあ、なんで僕を締め出してるわけ?コーガはどういうつもりなの?」
壁際に追い詰められた幹部は、迫ってくるリーバルになすすべもなかった。公言はしないが、筆頭幹部の色だということは公然の事実として皆が認識している。もしこんな場面を誰かに見られでもしたらまずいのだ。
リーバルの柔らかな羽根が首に巻き付き、耳に寄せられたリーバルの嘴がかすれた声で囁く。
「ねえ、仮面をとってよ。このままじゃキスできない」
「いや・・・ダメだろ・・・それは・・・」
「なんでよ。誰もいないよ?」
悪魔のような囁きと、やわやわと揉みしだかれる股間が思考を乱し、自らの吐く興奮した呼吸だけが頭の中にこだまする。最後に女を抱いたのはいつのことだったか・・・。幹部は後先考えずリーバルを抱き込むと反転して、誘うような赤い舌に吸い付いた。
バン、と裏口の扉が開く。出てきたのは間の悪いことにスッパだった。
「・・・リーバル・・・貴様・・・」
地を這うようなスッパの声に、リーバルはつまらなそうに幹部の腕から逃れた。
「残念。見つかっちゃったね」
「スッパ様・・・!これは・・・!」
「職務怠慢だ。こいつを入れるなと言っただろう」
焦った幹部がおざなりに風斬り刀を構えると、その切っ先をすり抜けて背後を取ったリーバルが囁いた。
「何も言うなよ。そしたらまた遊んであげる」
「リーバル!」
こぶしを振り上げて怒り心頭のスッパに、リーバルは瞬時に風を集めて真上に飛び上がった。
「バーカ!」
やれやれ、と首を振るスッパが中に戻ったのを確認すると、リーバルは一旦その場を飛び去った。
***
その夜。スッパは自室で眠りについていた。どこからともなく現れた仮面をつけたリーバルは、気配を頼りにゴソゴソと布団に潜り込んだ。
仰向けで眠っていたスッパは抱き慣れたぬくもりに気付くと、身体を反転させてリーバルを抱き寄せた。
「どこから入った…」
「さあ」
「何しに…」
「夜這いだよ」
「もう寝ろ・・・」
スッパが目を瞑ったまま眠りかけのかすれた声でつぶやくと、リーバルは眠る気配もなく布団に潜り込んでごそごそと不穏な動きをし始めた。
「リトの村に行ってきたのだろう。あそこにも恋人がいただろうが」
村で会った巨大なリトの姿を思い出すと、リーバルは簡潔に「恋人じゃあない」と何でもないように言った。
ひとしきりスッパの陰茎を弄び、好みの大きさまで育て上げると、リーバルはスッパの上に腹をつけて乗り上げた。
屹立したそれに自らの孔を擦りつけ、大きく張り出したカサの部分が引っ掛かる度に吐く息が徐々に乱れていく。焦れたスッパがその細腰をわし掴むと、リーバルはそれを制した。
「僕はまた捨てられるの?」
「…何故そう思う」
「来るなって言うし、コーガも君も僕のことが嫌いなんだ」
動くのをやめたリーバルは、目の前の逞しい胸にべたりと頬をつけた。虚しさが胸に込み上げてくる。こんなことをして、一体なんの意味がある?背中に回された、味方のふりをした重たい腕。
スッパはリーバルの軽い身体を持ち上げると敷布団に押し付けて、腕の中に閉じ込めた。
「そうではない。皆お前のことを好いている」
「君は?」
スッパは何も答えず、リーバルの仮面をそっとずらした。廊下から漏れでるロウソクの頼りない明かりが、迷子のように不安げな瞳の輪郭を映し出す。
仮面を取り上げて枕元に置くと、スッパはその瞼に唇を寄せた。
羽根を整えるように柔らかく身体を梳く手が、そのうちリーバルの服を器用にはぎとり、嘴の上を唇が滑る。
普段は口付けすらろくにしないというのに、あまりにも丁寧なその仕草にリーバルは戸惑った。
「誰彼構わず誘惑するのは、もうやめろ」
絶えず吐息を漏らすリーバルの嘴に、差し入れられた肉厚な舌が絡みつく。
「そんなこと言われる筋合いはない」
口付けから逃れようと抵抗する隙に、陰茎をねじ込もうとするスッパをまたもリーバルは制した。
「なんでコーガは僕を遠ざけようとするんだ?」
「あの方は常にお前のことを1番に考えている。今言えるのはそれだけでござる」
リーバルは腑に落ちないというように「期待外れだな」と呟くと、抜け出そうとしたがスッパはそれを許さなかった。
「ちょっと、離してよ」
スッパは動かなかった。生来の夜盲でその表情はわからない。
「どうしたの?」
いつもと違う様子のスッパの頬を柔らかな羽根に包まれた手で撫でると、スッパは「責任は取っていけ」とだけ言った。
今にもはち切れそうな巨大な質量が身体の中に入ってゆく。
スッパは獣のような息を吐き、リーバルを翻弄した。
、と嬌声をあげるリーバルの嘴を乱暴に掴んで閉じさせると、音にならないくぐもった声が寝室に響いた。
全身を密着させ、その華奢な身体を全身で擦り上げながら激しく揺さぶると、リーバルは生理的な涙を流しながら痙攣した。
リーバルの変化の術の集中が途切れ、羽根の色が群青に戻っている。
孔が収縮するのも構わず、力任せに性器を突き入れその涙を舐め取ると、潤んだ翡翠の瞳が見えない男を探して揺らいだ。
身体はこんなにも求めてくるというのに、その孤高の魂はあまりにも自由で、誰のものにもならない。
ズン、ズンと重たく突き上げる度に跳ね上がる身体を無理やり押さえつけ、寸前で陰茎を引き抜くと、スッパは快楽に歪んだ美しい顔に子種をぶちまけた。
***
「羽根が濡れるのは嫌だって言ってるのに」
絞った手ぬぐいを顔に当てるリーバルはそう愚痴った。
「もういい。どこへでもいけ。行ってしまえ」
寝床に突っ伏したスッパは、しっしっとリーバルを片手で追い払った。
機嫌を直したらしいリーバルは、あんなに情熱的にまぐわったというのにもう涼しい顔をしている。
「そうだ。デートに誘いに来たんだよ。君が出てくる分にはいいだろ」
「うるさい…今度な」
リーバルは寝息を立て始めたスッパをつまらなそうに見ると、部屋を出ていった。