ゲドウ②ゲルド地方の岩山に巧妙に隠されたイーガ団のアジトの入口に、白い仮面を付けて臙脂色の衣装を身にまとった、全身濡羽色をしたリトが降り立った。長い髪は高い位置でひとつにくくられ、裾は肩より下の辺りで艶やかに揺れている。
慣れた様子で入っていくと、出迎えたのは身長2mを優に超す大男、スッパだった。
それを目がけて、鉄製の装具をかしゃんかしゃんと落としながら、黒いリト、もといリーバルは早足で近付いていった。
「帰ったか。ちょうど話が …うわっ?!」
男の目の前で突然ひざまずいたリーバルは、その股間に性急にくちばしを擦り付けた。
「ここでして。今すぐ。」
「リーバル。いつも言っているがお前は家族だ。こういうことは」
「そういうのが好きな人もいるらしいけど?」
しつこく股間をねぶるうちに、素直なそれはみるみるうちに質量を増し、極薄い布越しにカリの段差までくっきりと浮かび上がった。邪魔な布を引っ張ってお目立てのモノだけを露出させると、リーバルはニヤリと笑った。
「おい、誰か来たら…」
そんな苦言も聞かず足をかけて押し倒すと、既に熟れた自らの穴に引っ掴んだ性器を捩じ込んでしまった。
「まったく…!」
***
「…コーガ様が今夜報告に来るようにとの事だ」
限界まで搾り取られたスッパは、だがその疲労を感じさせない様子で腕を組み、頬ずえを付きながら石段に腰掛けるリーバルを見下ろした。
「畏まらなくてもいつでも会いに来てあげるのに。あの人、寂しがってなかったかい?」
「お前…、これもいつも言っているが、コーガ様に対してその態度はなんなのだ」
また説教が始まった。リーバルはフン、とくちばしを上げるとアジトの奥の方へ行ってしまった。
夜になって、リーバルはコーガの待つアジトの最深部へ向かった。
歩きながら、変化の術で擬態した黒い羽色が指先から鮮やかな群青に色付いてゆく。
あぐらをかいて座り、何やら書簡を捲っているコーガの御前に辿り着く頃には、すっかり元の姿に戻っていた。
コーガはリーバルの姿を認めると、おぅ、と声をかけ少し身を乗り出すようにした。
「しかし…いつ見てもアレだな。お前の羽根色はどのリトよりも見事なものだ。あの雛鳥がこんなにも美しく成長するなんてな」
リーバルはその言葉に照れたように目を伏せる。
「僕の成長を間近で見たかったら、諜報員じゃなくて側近にするべきだったね。実力も申し分ないだろ」
「違ぇねえ。だが、ま、お前の能力はここにいるだけでは身につかなかっただろうな。俺様の配剤ってやつよ。しかし、…まさかここまでやってくれるとはな。これで例の騎士に一歩近付けたってわけだ」
「うん、王国の中枢にもね。あいつ、ぼくに興味があるみたいだ。隙だらけで笑っちゃうよ」
嘴を上げて語ったリーバルは、そう言うと少し黙った。嘘だ。本当は、興味があるのは自分の方だけではないのか。リーバルの実力に眉一つ動かさなかった、言葉少ななあの男。
リーバルは勿体ぶったようにコーガの傍に寄ると、身体を近づけて嘴を寄せた。
「…最近あの騎士のことばかりだね。邪魔なんだろ?僕にアイツをどうしてほしいか言ってみなよ。お慕いしております、…コーガ様」
翡翠色の瞳を妖しく光らせ、うっとりと瞼を細めると、薄い布地に包まれたその首筋に嘴を擦り付けた。
その直後、いく枚もの札がブワリと舞う。見上げると、ワナワナと身体を震わせる筋肉ダルマの見慣れた男。それは変身したスッパだった。
「お前の忠誠心はいやというほどに分かったでござる。この色情狂が」
憤慨したようなスッパに、リーバルはやれやれと溜息を付いた。
「大袈裟だなぁ。身も心も捧げてるって示しただけじゃないか。
でも…いい加減抜き打ちテストはやめにしないか。時間の無駄だよ、僕ももうここにきて10年近くになるんだからさ」
「諜報員は定期的に忠誠心を確かめることに決まっているのだ。これは大事なことだぞ」
「お小言はいいって…」
「どこから気付いていた?仮にもコーガ様に向かってあのようなマネを」
「コーガだったらいつも最後まで言わせてくれないのにさ、止めないから燃えちゃった。ねぇ、今度あの姿でヤろうよ」
「あいわかった。今すぐに叩き切ってくれる、そこになおれ」
「スッパがご乱心だ、助けて、コーガ様!」
リーバルがわざとらしく自らの身体を抱きしめると、ドロン、と何も無い空間に煙が発生し、今度こそ本物のコーガが現れた。
「はぁ…はしゃぎすぎだぞ、お前たち。
リーバル。俺様の役に立ちたいのはよくわかってるが、お前は何もするな。ようやくここまで辿り着いたんだ、今まで通りただの一リトとして振る舞うだけでよろしい。
例の騎士とは親交を深めとけよ。いざという時に切り札になる。
あと、あまりスッパを困らせるな」
「フン。分かってるさ。久々に里帰りしたのにハグもなし?」
「そんなに久々でもねぇだろうが。来るなと言っているのに通ってきやがって。ほれ」
リーバルはしがみつくようにコーガに抱きつくと嬉しそうに目を瞑った。
そうして満足したのか、あっさりと離れたリーバルは、スッパの脇を通り過ぎる際に
「ねぇ、今度ハイリア人の格好で会いに来てよ。ハイラルの城下町を案内してあげる」
と言い残し、上機嫌で下がって行った。
「まったく…少し甘やかしすぎましたね」
スッパが呆れたように肩を落とす。
だがコーガはその言葉にかぶりを振った。
「いいや、いくら甘やかしても足りねぇよ。元はといえば俺様がアイツを連れ帰ったことが元凶なんだからな。お前には苦労かけるが」
二人の会話が聞こえたのはそこまでだった。
扉の裏でこっそりと聞き耳を立てていたリーバルは、今度こそその場を後にした。