ゲドウ④イーガ団本部にアストルという顔色の悪い占い師が出入りするようになった。
聞けば、以前リトの村を襲った小型ガーディアンを連れているという。
コーガはアストルがリーバルに接触するのを好まず、リーバルが本部に行っても追い返されるようになって、リーバルは大層機嫌が悪かった。
スッパからの協力要請を受け、ラネール地方へミファーとダルケルを従えて神獣の調整に赴くゼルダ一行を空から確認したイーガ団装束のリーバルは、先回りして宿場町に潜んでいるスッパの元へ向かった。
「なんで今襲うのさ。暫定英傑が2名も揃っちゃってるんだよ?…ついでにリンクも。英傑1名の戦闘力は兵士100名に匹敵すると言われている。あ、因みにそれはガセじゃないから」
「例の占い師が今日の戦闘は勝てると踏んだのだ」
「フン。あの見るからに怪しいヤツ。リトの村を襲ったのはアイツの差し金かもね。コーガはなんであんなやつの言うことを聞いてるんだ?おかげで本部には帰れないし、僕は嫌いだね」
「大義のためなら誰のことでも使うのがコーガ様だ」
「君も少しイラついてるんだな、そうだろ!」
リーバルは笑いながらブワリと風を巻き起こすと、空高く舞い上がった。それを確認し、イーガ団は戦闘態勢をとった。
「姫付きの騎士は己がやる。散れ!」
スッパは叫ぶと、疾風のごとく屋根を駆け、宿馬街に入ってきたリンク目がけて刀を振り下ろした。
ギン、ギンと刃物がぶつかり合う重たい音が響く。リンクはスッパの止まることのない猛攻に、少しずつゼルダ姫の近くから引き離されて行った。
(コイツは他のイーガ団とは違う。今ここで叩く)
壁を使い、上から飛びかかってきたスッパの白刃を見上げた時、その更に上空を旋回する黒い影に気が付いた。
(イーガ団にもリトが居るのか?ただの偵察?)
リトは攻撃に加わる様子はなく、ただ戦場を観察している。
「余所見は禁物でござる」
飛び込んできたスッパに凪払われ、リンクは地面を滑るようにずり下がった。
「後ろから5人。1人になるなよ。君、東に曲がって援護だ」
リーバルは札を使って声だけを転移させる術を持っていた。戦場を見渡し、的確に仲間に指示を送る。
「ん…」
リーバルはリンク達が入ってきた門の方向を見た。
「スッパ!間もなくハイラル側の援軍が到着する。ここが潮時だよ」
スッパは最後の足掻きとばかりにゼルダ姫にクナイを投げ付けた。それはリンクの盾によってギリギリのところで弾かれる。
「未来とは容易く変わる…。撤収だ!」
「あーあ。やっぱりダメだったね。あの占い師のやつやっぱりデタラメじゃないか」
リーバルは本部に走るスッパに並んで飛んでいた。
「不甲斐無いでござる」
自分が戦闘要員として共に戦っていれば、結果は違ったかもしれない。だが、それを言うのはリーバルにとってタブーだった。
リーバルが正式にイーガ団の諜報員兼偵察として配属されてからしばらくたった後、イーガ団とシーカー族との間で大きな衝突があった。
偵察として常に戦場の状況を仲間に共有するよう言われていたが、その命を破って覚えたての小刀を携え、手近な敵の懐に突っ込んだ。逆にやり返され、リーバルは捕らえられた。先陣を切って立ち回るはずだったスッパはリーバルの救出を優先し、戦闘力不足の中央部隊は壊滅。いつの間にか退路を塞がれていたイーガ団は大きな損害を被った。
それは、リーバルにとっては二度目の、死を身近に感じた夜だった。
さっきまで雄たけびを上げ、躍動していた肉体が、突如体温を失い永遠に沈黙する。仲間の死も、自分の死も、敵の死すらもどうしようもなく恐ろしかった。両親が死んだときはどうだったっけ?あの時は無我夢中で、感情が動く隙もなかった。それにコーガが救ってくれた。
今までリトの偵察など存在しない中で団が存続してきたのだから、何もリーバルだけの責任ではない。スッパに頼りきりの戦闘部隊や現地調査の不足、その他もろもろの条件が重なって起こったことだ。コーガはそう言ったが、リーバルはどうしてもそのことを消化できないでいた。
死に対処するにはどうしたらいいのかと仲間に尋ねると、生に一番近い行為をすることだと教えられ、リーバルはある夜スッパの元に行った。
「皆に聞いたよ?君が一番生命力に溢れてるって。あと、ナニがでかいって。ヤらないと、殺すぞ」
スッパの顔の傍に小刀を突き立て、焦点の合わない瞳でリーバルはすごんだ。そのくちばしを、スッパは黙って撫ぜてやったのだった。
自分が偵察として機能することで仲間の生存率は大幅に上がり、任務の成功率も上がる。リーバルはそう自分に言い聞かせ、今の立ち位置にいる。