翻弄する熱うだるような暑さの夏の日のことだ。
スッパはハイラル人の行商人に変装しカラカラバザールで店を出していた。
団内にゲルド地方の果物を卸す行商人を新たに選定することになり、スッパは目を付けた人物の身辺調査を命じられていた。
じりじりと照り付ける日差しの元、スッパの周りではここ数日顔ぶれの変わらないメンツが水辺を囲むようにして店を出し、敷き布の上にじっと座っていた。
ホシは二つ隣の中年の男。今のところ怪しい人物との接触どころか、この暑さのせいで誰一人として客が来ず、ピクリともせずにじっとしていた。
隣では宝石を並べたゲルドの老女が眠っているかのように座っている。 時々意識をやって前に倒れ込む体をがくりと直すので、かろうじて生きていることがわかった。
遠くの風景がゆらゆらと歪み、じりじりと日差しが照り付ける。
身体からはぼたぼたと蛇口を閉め忘れたように汗が溢れ続けていた。
竹で編んだ笠の下に顔を隠すように垂らした白い布を、スッパの吐く息が熱波となって揺らす。
この暑さで生き物が息絶えてしまったかのように、誰一人として動くものがいなかった。
じっと地面を睨み付けていると、ふいに視界の中に真っ黒な短い影が入ってきて、スッパの前で立ち止まった。逆光の中目を上げると、そこにはいつの間に現れたのかゲルドの衣装を纏った一人のリトが立っていた。
「もし、行商人さん。ひんやりメロンを一つ頂けます?」
上半身は女のように胸だけを覆い、腰には長い布を巻き付け横で結んでいる。嘴には銀糸を織り込んだ透け感のある布を引っ掛けていた。
ゲルドの女性達のように高い位置でひとつに括られた毛先が項のあたりで揺れる。
だがうっそりと細められた翡翠色の瞳はスッパのよく知る男のものだった。
イーガ団に所属する唯一のリト、リーバル。
コーガがいつの間にか拾ってきて、そのままイーガ団に居着いたのは随分と昔のこと。
明るい日の元で見ることなど滅多にない白い腹が眩しく、スッパは目のやり場に困った。
どういうつもりでやってきたのか、薄いベールを透かした先でリーバルの嘴の端が二ィと上がる。
スッパは黙ってルピーを受け取ると、好きなものを持っていけと出来の悪い小ぶりなひんやりメロンを指し示した。
だがリーバルはそれに見向きもせず、敷き布の横に回った。
歩く度に、腕や首に巻き付けた細い銀の鎖がシャラシャラと微かな音を立てる。散りばめられた小粒のサファイアがチラチラと反射してスッパの目を眩ませた。
リーバルはそのままスッパの隣に来ると足を崩して売り子のように座りこんだ。
スッパは思わず隣の老女を伺うが、特に反応はない。
リーバルはそのままごろりと仰向けになり翼を投げ出すと、スッパの膝に頭を預けた。
「おい…」
「部屋を取ろうとしたらリトの旅人がしつこくナンパしてくるから、ハイリア人の恋人がいると言ったんだ」
日除けの下でも赤い瞼を眩しげに伏せ、嘘か真か分からぬことを言う。
このリトはいつもそうだ。何を考えているのか分からない。
知っているのは体だけだ。ある夜突然襲われて、そのままズルズルと関係が続いている。
他にも相手がいるのか、なぜ自分なのか、問いただすにはあまりにも曖昧な関係。
スッパはちらりと宿に目を向けると、諦めたようにナイフを取り出し、小ぶりなメロンを半分に割った。
ねっとりとした甘い香りがして、熟しすぎて半分液体のようになった果肉が顔を出す。
リーバルは膝の上でまどろむように目を閉じかけている。
このリトはなぜここにいるのだろう。リト族は暑さに弱いからと、普段はゲルド砂漠での任務は極力避けているというのに。
汗みずくの自分と打って変わって、汗腺のないリーバルは羽毛に包まれているというのに涼しげに見える。
だが、微かに上下する胸元を見ていると、普段のリーバルよりも呼吸が浅く、早くなっているような気がした。
スッパは口元のベールを破らぬようそっと捲ると、僅かに開いた嘴に匙で掬った極柔らかい果肉を差し入れた。
暑さで参っているというのなら、これを食べさせれば少しは緩和するはずだ。
力なく開いた嘴の端からトロリとそれが零れる。
左手にベール、右手には匙。
両手が塞がっていたスッパは逡巡する間もなくリーバルの顔に影を作ると、零れ落ちる果肉を口で受け止めた。
唇に触れるコツンとした嘴の感触。今更言い訳もないと開き直って果汁まで余さぬよう舐め上げると、触れた嘴の端が笑うように上がるのが分かった。
目を開くと、至近距離で布越しにこちらを見る楽しげな瞳と目が合う。
罠にかかったような釈然としない気持ちがして、スッパは半分になったメロンを掴むとリーバルの嘴の上でギュウと絞った。
嘴を開けたリーバルは笑いを堪えるようにくつくつと喉を鳴らし、与えられた甘すぎる果汁を飲み干す。
「君にメロン農家の才能は無いね。熟しすぎじゃないか。大丈夫、これ?」
「文句を言うな」
スッパはリーバルの嘴を片手で握り閉じさせると、その根元に吸い付いた。
脳が痺れるような甘い味がする。
リーバルの嘴の隙間に、スッパの額から汗がぽたりと零れた。
ん、ん、と訴えるように身を捩るので嘴から手を離すと、意外だと言うような顔をしたリーバルが「甘い」と呟いた。
抱きたい。今すぐに。スッパの頭を劣情が支配する。肩と膝の裏に腕を差し入れて抱き上げると、羽根のように軽い身体はふわりと浮き上がった。
リーバルの両腕がすぐに首に巻き付いてきて、2人は背後に立てた備品が置いてあるテントになだれ込んだ。
リーバルを木箱の上に乱雑に降ろし、下半身を押し付けながら羽毛に包まれた身体を性急にまさぐる。
「はぁ….、はぁ……」
ギシギシと木箱が軋み、お互いの息遣いが狭いテントの中を満たす。
「ちょっと…、スッパッ….、がっつきすぎ……ッ、」
嘴の根元に口付けて、そのまま唇を赤い瞼に滑らせる。膝をついて腰に巻かれた布の中に顔を突っ込むと、その頭をリーバルの鋭い鉤爪を持つ脚がガシリと掴み拒んだ。
事を急ぎすぎた。少し冷静になると、暑さを思い出した体から途端に汗が噴き出してくる。
逃さぬというようにリーバルの腰を抱き、スッパは口を開いた。
「…なぜここに来た」
すると、リーバルはなぜか考え込むように少し口を噤んだ。横目でちらりとスッパの様子を伺った後で、ニヤリと笑う。
「実は、君を行商人から引き離すために誘惑しに来たんだ」
スッパはリーバルから目を離さないままクナイを持った腕を上げると、後ろ手にテントに小さな傷を付けた。
開いた穴から外の様子を確認する。動かない行商人、船を漕ぐ老婆。何一つ変わりはない。
「…って言ったらどうする?」
挑むようなリーバルの瞳にスッパの姿が映る。
リーバルがもしハイラル側の諜報員だったら?筆頭幹部である自分と関係し、イーガ団を内部から破壊する…。さもありそうな筋書きだ、面白い。だが。
「なぜお前はいちいち人をからかって遊ぶのだ」
リーバルはそれを聞くと、もう興味はないというようにふいと視線を逸らす。
「安心しなよ。流石の君も滅入ってるだろうからって、監視を一人連れてきたのさ」
リーバルはスッパの胸に頭を預けもたれかかった。
「だから…邪魔しに来た。それとも、君が聞きたいのはこれ?僕が来たのはただ…会いたかった」
リーバルの語る言葉にどれだけの真実があるのか。真に受けるだけ無駄なことは知っている。スッパは掌でリーバルの瞼を覆い、自分の胸にぐっと押し付けた。
どれだけ嘘をついても構わない。正直な身体に聞いてしまえば、大抵のことはわかってしまうのだから。
「たまには本当のことを言え」
そう言うとリーバルは少し黙り、「お互い様じゃないか」と言ってハイラル人に化けたスッパの顔を覆う布を引っ張った。
ボン、と2人を煙が包む。それが晴れると、スッパは赤い装束に白い面を付けた普段の姿になった。
「ハハ……暑そう」
「望みだろう」
「それも本当の姿なの?どうだか」
リーバルは剣呑な目をしてスッパを眺めた。
そうか。このリトも不安になることがあるのか。
いちいち自分を試すのも、そういうことなのかもしれない。
いつも自分だけが一方的に翻弄されているのだと思っていた。だがそうでないのだとすれば、この関係は一体何と名付ければいい。
スッパはリーバルの身体を敷き布に押し倒した。
散りばめられたサファイアよりも遥かに美しい翡翠の瞳が、これから起こることを期待するように熱を帯びる。
仮面を少し上げ口元だけを晒すと、しどけなく身体を投げ出したリーバルの首筋に噛み付いた。足の間に膝を割入れ、剥き出しの白い脇腹を撫でる。
身体から吹き出す汗がじっとりとリーバルの身体を湿らせた。
あまりにも暑い。
スッパは腕に巻いた赤い包帯を解き、手袋の先を歯で咥えると、汗で張り付くそれを引きちぎるようにしてバチンと外した。
そういえば、と思い出したスッパは手近にあった木箱の蓋を落とした。中にはメロンを冷やしていた溶けかけの氷がまだ入っている。
スッパはその氷をいくつか取り、口に含んだ。
リーバルの嘴に親指を差し入れ開かせると、その中に氷を押し込むように舌を入れた。
リーバルの先の細い舌が冷気を求め伸ばされる。瞬く間に氷が溶けて、やがて2人の熱い舌が絡み合った。
「ふっ………はぁ、熱…、もっとっ……」
スッパはねだるリーバルに再び氷を含ませ、口内を蹂躙した。
互いの身体が燃えるように熱い。
リーバルの下腹部に手を伸ばし、薄い布地をたくし上げその奥に指を這わせる。スリットにひたと指を当てさすり、その更に奥に秘めた火傷するほどの熱を想像した。
「はっ…ぁ……っ、」
リーバルの中に納まる性器からあふれたものでスッパの指先が湿る。ぬぷっと音を立てて指を入れると、リーバルは眉をひそめてこらえきれないように声を上げた。
「外に聞こえるでござる。声を出すな……」
なだめるような声色とは裏腹に、スッパは2本に増やした指でリーバルの性器を左右から挟みこみ圧をかけてなぶるように擦った。
リーバルは自分の翼で嘴を塞ぎ、うるんだ瞳で抗議するようにスッパを睨みつけている。空いている方の手を下に伸ばすと、スッパの下衣を下げ現れた性器を掴んだ。
その手に誘われるように、スッパの立ち上がった男根がリーバルのスリットに触れる。
条件反射のようにずるずるとそれを擦りつけるとリーバルも腰を揺らして応えた。
体温のように熱い空気が互いの境界線を曖昧に溶かし、湿度を帯びた肌は触れた部分がぴたりと密着するようだった。
強く擦り付けるうち抵抗もなく中に入り込んだ性器を、リーバルの胎内が吸い付くように隙間なく包み込む。
動くのが名残惜しい程に心地良い。互いの間に存在するすべての隙間を埋めたくて、スッパはリーバルをその腕に掻き抱いた。
柔らかな羽根がスッパの身体に沿うように変形し、まるで一つになったかのような。
「…暑い、スッパ、……ん、んぅっ…」
胸の中くぐもった声で抵抗するリーバルを押し留め、身体を付けたまま抽挿を開始する。抜ききらずに最奥の近くで小刻みに動くと、繋がっている部分からヌチヌチと粘度の高い音がした。
「……ぁ、……っ、」
狭いテントの中、いくら声を我慢しても互いの性器を擦り合う水音はやけに大きく響き、羞恥に耐えられないように瞼を伏せたリーバルのらしくもない様子にスッパの欲望は硬さを増した。
リーバルの身体をうつ伏せにし、背後からのしかかるように再び挿入する。
「ぁっ…ん、んっ……」
「ハッ…、ハァ、」
揺すぶられる剥き出しの背中にスッパの身体からぽたぽたと汗が滴り、リーバルの羽根に染みを作った。
スッパはいい加減意味をなさなくなった上衣を乱雑に脱いだ。リーバルの身体の下に腕を入れて引き寄せ、その胸をぐいと逸らさせる。首筋に顔を埋めると、暑さで濃くなったリーバルの匂いを吸い込んだ。
「っ……、う、ぁ、あっ、イく…、」
「ハァッ、まだっ、ダメだ……」
スッパはリーバルの首筋に噛み付いた。
止まった律動を咎めるようにリーバルが腰を振りスッパの男根を擦る。
気をやりそうになるのを堪えながら、スッパはリーバルの身体を起こし膝立ちにさせると、先程作ったテントの裂け目にリーバルの顔を向けさせた。
「見えるか?どうなってる?」
「……変わらない、誰も動いてない、あぁッ」
外を見せながら思い切り中を突くとリーバルの腰がびくりと震え、いい声で鳴いた。黙らせるよう嘴を掴み、膨れた睾丸を尻に打ち付けると、じっとりと濡れそぼり完全に寝てしまった羽毛に当たり言い逃れの出来ない音が鳴る。
パンッ パンッ、パチュ、
「…… うぅんっ、ンッ、、」
「ァ、……、クッ……」
搾りとるようにリーバルの中が収縮したのと同時に、スッパはドプリと精液を吐き出した。
最後の一滴まで注ぎ込むよう小刻みに腰を振ると、リーバルはがくりと上体の力を失い、肘を床に付けてビクビクと身体を震わせた。
***
容赦なく照り付ける日差し。鳴り続けるジージーという音は虫の声なのか耳鳴りなのか判断がつかない。
スッパは数刻前と変わらない行商人の格好で敷き布の上に胡座をかいていた。
横を見れば完全に眠りこけている老婆。二つ隣にはぐったりと項垂れる動かない行商人。
目の前の水場からバシャリと涼し気な音がした。
見ればゲルドの衣装を着たまま水に潜ったリーバルが水面に顔を出し、プルプルと羽根を震わせている。
散りばめられたサファイアがキラキラと太陽を反射して光った。
綺麗だ。誰にも見せたくない程に。
その時、宿の方から飛んできた旅装束のリトがリーバルの傍に降り立った。
何事か話しかけ、リーバルはそれに答えている。
どうやら邪魔しに来た、というのだけは真実だったらしい。
スッパは腰を上げ、余計な虫を追い払おうと水場に向かった。