川のほとり人の気配に、リヴァイは顔を上げた。
なんだ、あんたか。
ケニーだった。リヴァイは自分が落胆を覚えていることに気づく。エルヴィンかと、期待していたらしい。
ケニーは何も言わない。表情もよく見えない。リヴァイは勝手に喋ることにする。
ケニー、あんた、巨人化の注射、打たなくてよかったよな。アッカーマンは、巨人にならねぇらしい。巨人化をもたらすジークの脊髄液が、ワインに仕込まれていた。俺も部下達と同様に飲んだが、ビリビリ来ただけで体は変化しなかった。
ところで、あんた、何しに来たんだ?
まさか、俺を迎えに来たのか?
いや、そんなガラじゃねぇな。俺があんまり無様だから、可笑しくなって出てきたってとこか。そんなんだからてめぇはいくつになってもツメの甘ぇドチビのネズミなんだよとでも言いてぇか? ああ、その通りだ。
甘かった。獣の野郎を見くびっていた。意気地のねぇ奴と決め込んでいた。まさか命を惜しまねぇとは。
頭に血が上っていたのもいけなかった。あのクソ野郎、俺の部下を巨人に変えやがった。こんな腹の立つことがあるか? だけどもっと冷静でいなきゃならなかったんだな。
それ以前に、ちょっとでも秘策とやらに期待したのがバカだったな。まるまる信じていたわけじゃあねぇ。疑ってはいた。だが完全に否定できるだけの材料もなかった。それに、思っちまったんだ。秘策とやらを実行することが、あいつらに報いることになるんじゃねぇかと。あいつらの心臓を無駄にしないためには、秘策とやらが必要だったりするんじゃねぇかと。まんまと、騙された。共に戦ってきた仲間も、慕ってくるガキどもも、平気で裏切る野郎だ。信じちゃならなかった。
つけ込まれたんだな。
望みが叶う可能性。そんなものをちらつかせて、従わせる。そういう作戦だった。どこまでも卑劣な野郎だ。人をバカにしていやがる。人を人とも思わねぇ。ただ利用するだけ。そういう野郎だ。
俺だけじゃねぇ。この島で戦い続けてきた奴らそれぞれの胸にある希望に、つけ込んだんだ。
ここで終わるわけにはいかねぇ。獣のクソ野郎を生かしておくわけにはいかねぇ。あいつに、誓ったんだ。獣の巨人は俺が仕留めると。
なあ、ケニー。味方を誰か、呼んで来てくれねぇか? あんたはさっきからだんまりで、俺の声が聞こえているのかどうか、わからねぇが。
どうかしてるな、俺も。あんたにこんなことを頼むなんて。あんたはもう死んじまってるっていうのにな。藁にも縋りてぇ気分ってやつか。オイ、ケニー、どこ行った?
誰かに抱き起こされる。そうか俺はうつぶせになっていたのかと気づく。ハンジの声が聞こえる。「オイ 生きてるか」ああ、生きている! 答えるが、声を出せない。ひどい痛みだ。どこが痛いのかも分からない。だが、生きてるってことだ。俺はまだ生きる。生きてあの日の誓いを果たす。あいつらの捧げた心臓に報いる。