原点「ポケモンといえば〜?」
「ポケモンといえばぁ!!」
ある昼下がりの公園内。人がまちまちいる中で、2人の少年が漫才を始めた。それに立ち止まった見てるのは1人の少女。
「いろーんなポケモンに会いましたね〜」
「会ったね〜」
「その中でもやっぱりすごかったのはパルキア、ディアルガ、ギラティナ、シンオウの伝説ポケモンに会ったこと!」
「うんうん。伝説ポケモンに会ったね〜もぐもぐ」
「その伝説ポケモンだけど、って、おい!ダイヤ!なんでまた食べてんだよ!練習中に!」
口をもぐもぐさせている相方に、うがー!、と怒鳴ったパール。彼の幼なじみで漫才の相方、ダイヤはのんびりとおにぎりを頬張っている。
「いやあ、お腹がすいてさ〜。今いい時間だもの。お昼時」
「だからって、今食うかよ……」
ダイヤの言い訳に顔を手を当て、途方に暮れる。それにクスクスと笑う少女、プラチナ。
「おふたりは相変わらずの関係でよかったです」
「まぁそうだけ、うお!?」
パールがプラチナに答えているさなかに、急に自分たちの周りが光った。
「なんだ!?敵か!?サルヒコ!」
「エンペルト!」
「るー!」
パールがすぐ対応して、サルヒコを出し、続いてプラチナとダイヤもポケモンを出した。いつもマイペースなダイヤがしっかりと応じたのを見て、パールは彼もまた何かこれは緊急事態だと感じたのだと、自分の警戒をよりあげた。
だが、すぐに光は収まった。3人の目の前にはいつもの公園の風景。
3人はまだ力を抜かない。抜いたら、どこからか奇襲があるかもしれない。
「今のは……?」
「さぁわからない」
プラチナの声にパールは答えながら、もうひとつボールを出す。
「トラヒコ!」
ボールを投げてトラヒコを出す。すくっと立ち、パールを見る。
「周りになにか隠れてるかもしれない!お前の目で確認してくれ!」
パールの指示を聞いて、トラヒコは頷いて、目を光らせてサーチする。そうしていくと、トラヒコの目になにか捉えた。それを見て、思わずクールなトラヒコが驚きの一声をあげた。
「どうした、トラヒコ?」
パールはトラヒコの様子に気づいて尋ねた。すると、トラヒコはサーチしていた目をやめると、警戒している3人と3匹にその状態を解いて、というように促した。パールはそれに応じて、サルヒコを戻した。プラチナとダイヤもそれぞれのポケモンを戻す。それを見て、トラヒコは歩き出した。
「お嬢様はオレたちの間に」
「オイラたちがお嬢様を守るからね」
「ええ。ありがとうございます」
プラチナの実力を知らないわけではないが、彼女はベルリッツ家の令嬢。何かあればまたセバスチャンに言われることもあるかもしれない。なるべく、2人で抑えられるならと考えて、ダイヤとパールはプラチナに言った。そして、それにすぐ承諾し身を預けた。
トラヒコの案内は公園の外へ。すると、すぐトラヒコは立ち止まって、自分の影に隠れて見るように3人に指示した。
3人はその指示に不思議に思いながら、影から見て、思わず声を上げかけた。それをトラヒコのしっぽがどうにか抑えた。
「あれって…」
「オイラとパール?」
目を点にしながら、2人は自分たちだと確認した。おそらく5歳くらいの自分たち。声は聞こえないが、漫才の練習をしている。パシっ!とパールがダイヤを叩く音がそこまで聞こえた。
「どういうことでしょうか。なぜ、おふたりの小さい頃が」
「……まさか」
パールは光った瞬間を思い出していた。彼の観察眼はたとえ小さいものでも不可解なことでも見逃さない。そして、よくよく思えば見た事のある技であること。
「ときのほうこう、だ」
「ディアルガの?」
「ああ。でもなんでオレたちにときのほうこうを?オレたちの過去を見せたかったのか?」
パールはディアルガの意図がわからず、腕を組む。
「ということは……私の幼い頃も見れると?」
プラチナはパールに聞く。それに頷くパール。すると、プラチナはやや顔が固くなり、公園の方に戻ろうと足を動かす。
「お嬢さん?どうしたんだよ」
「いえ。原因はパールが掴んでくれたことですし、どうにかして元の時代に戻りましょう」
やや早口になっているプラチナに、ダイヤとパールは一瞬顔を見合せ、じっとプラチナを見た。
「なにか隠してるだろ、お嬢さん」
「いえ。隠してることなど」
「オレたちに」
「嘘はつかないんじゃなかったの?」
2人に迫られ、プラチナはぐっと表情をより固くした。だが、2人の視線の圧には耐えられず、息を吐いた。
「……私は小さい頃からずぅっと勉強をしているばかりで苦であることはなかったのですが、一時、勉強に耐えられない時がありまして。それがこの頃です。振り返るだけでも恥ずかしいのです」
目を伏せながら言うプラチナに、パールはあちゃあと顔を覆った。確かにプラチナにとってはあまり見たくない過去だろう。
「でもなんでその時はいやだったの〜?」
ダイヤの問に、パールはギョッとしてダイヤを叩いた。
「ばか!おまえ、なんてこと聞くんだよ!お嬢さんは思い出したくないって」
「でもさ、その後はしっかり戻ったんでしょ?だからなんでかなあって」
ダイヤの疑問に、パールも思わず確かに、と同意してしまう。プラチナは才女とはいえ、当時は同じ子供。嫌になれば、そのまま嫌になることだってある。どういうきっかけでまたしっかりと学び直したのか。
パールにも見つめられ、プラチナは困惑した。
「実は……顔が思い出せないんです」
「えっ?」
「人に会ったことは覚えているんです。ただ、その人”たち”は今やってる事は無駄じゃない、いつか救えることだってあると」
「たち?」
プラチナの言葉にパールは聞き返す。聞き返されて、プラチナははっとする。
「そうです!2人組でした!ただ、とても奇天烈な格好で、私はかなり困惑しましたが……」
当時のことを思い出しながら話すプラチナが、さらに驚く顔になって、パールとダイヤを見た。不躾になってしまったが、それぞれを震える手で指さした。
「そういえば……お声が……おふたりに似ていました」
「えっ!?」
パールとダイヤは揃って驚いた。自分たちと同じ声が小さい頃のプラチナを救っている?そして、こうやって今過去に来ている。これは何か運命じみている。
「と、とにかく!お嬢さんの家に行こう!そこ行けばわかるはずだ!ダイヤ!おまえは何かオレたちだってわからなくなるもの、さが」
「もしかして、お嬢様が見た奇天烈ってこれかなぁ?」
そう言ってダイヤが取り出したのは、彼が好きなタウリナーΩのコスプレ服。プラチナの目が点になるのを見て、それが正解なのかとパールは理解すると共に落胆した。これだけは着たくなかったと思っていたのに、まさかこれとは。ただ四の五の言ってられない。
「すぐわかったところで行くぞ!お嬢さんの家に!」
ダイヤはパールと共にトラヒコに乗って、プラチナはギャロップに乗り2人を案内するために前に出て、マサゴタウンのベルリッツ家に向かった。
着いた途端のパールの様相には、思わずプラチナも盛大に吹き出してしまった。ダイヤは以前、シンジ湖に行く時に訪れたことがある。
「そんなに驚くことですか?」
「いや、お嬢さんってことはわかってはいるけどさ」
「相変わらずでっか〜い!」
さすがはシンオウ地方の名家だ。広さが尋常ではない。ここから探すのは普通は至難の業だが。トラヒコのサーチで小さい頃のプラチナを探す。プラチナ曰く、よく庭に出て隠れていたとのこと。 探すこと10数分。トラヒコが小さいプラチナを見つけた。
「じゃあ行こうか〜」
タウリナーΩのコスプレしたダイヤがトラヒコから降りる。その後でパールも降りる。ふたりの奇天烈姿にプラチナはどうにかこうにか笑いをこらえていた。
パールとダイヤが近づいていくと、なにか声が聞こえた。
「なんで私はこんなにも勉強をしなければならないのですか。みんなからずっと勉強しなさい、しなさいと言われ続けて……私はもう嫌です」
年相応に嫌がっているのを見て、お嬢様もこんな時があったんだなぁとしみじみと思う2人。隠れているプラチナへひょこっと覗き込む。すると、小さいプラチナは見つかった相手が見たことも無い格好の者で驚きで悲鳴をあげかけたが、パールがそれを手で制した。
「ごめんな、オレたちは怪しいものじゃない」
「大事なことを伝えに来たんだよ」
睨みつけるプラチナをなだめ、パールとダイヤは視線を合わせるためにも屈んだ。プラチナの目はまだ敵意丸出し。
「……何者ですか。私はプラチナ・ベルリッツ。この家の者です。侵入者はここにはどうやっても入れないはずです」
彼女の言葉はその通りだが、未来のプラチナ
(と言っても、パールとダイヤにとっては現在のプラチナだが)がやってきていて、入るのには造作もなかった。
「名前は言えないけど……なぁ、えーと……プラチナお嬢さん、今は勉強が嫌か?」
パールの問いに、プラチナは目を逸らした。
「嫌じゃありません。何を言っているんですか。私はベルリッツ家の者です。いずれは旅に出て、1人前になるのです」
思えば、出逢った当初はプラチナはプライドが高かった。そのため、この小さいプラチナも自分の威厳に関わることは否定するだろう。パールは別の言葉を選ぼうとすると、となりからダイヤがおにぎりをプラチナの前に出した。
「その前にさ〜お腹すいてない?」
「お腹など空いてなど」
そう言うプラチナの腹の虫が2人にも聞こえた。羞恥で真っ赤になる。
ダイヤの差し出したままのおにぎりを黙って受け取り、口に運んだ。
「食べながら聞いてくれ。オレたちはさ、無理に勉強しなよって言いに来たわけじゃない」
「そう、もぐもぐ、だよ〜」
「だから食いながら言うなって」
パールはダイヤにパシンと突っ込む。でもこれがダイヤだ。ひとまず、続ける。
「嫌な時は逃げてもいい。けど、お嬢さんが頑張らないとさ、あとで助かる人が大勢いるんだよ」
「あとで?」
パールの言葉に小さいプラチナは首を傾げる。
「そう。あとで、だ。お嬢さんが勉強しているおかげで、助かる人が大勢いるんだ。今やっていることは無駄じゃないんだ」
「そうだよ〜。お嬢様はすっごく頑張っているから、とても感謝されるんだよ」
「……感謝なんてされてません」
小さいプラチナはダイヤの言葉を否定した。
「誰も私に感謝なんてしていません。ただ未来のために勉強しろと、学べと言います」
「そうだよね〜。大人は本当そう言うよね〜。でもさ」
ダイヤはコスプレの目穴からしっかりとプラチナを見る。
「その未来がお嬢様の手で救えるとなったら、すごいことだよ。お嬢様の学んだことはひとつも無駄なことなくて、いつかの未来を救うことになるものになるんだよ」
穏やかではあるが、確信する言い方に小さいプラチナは怪訝そうに2人を交互に見る。
「あなた方はいったい私に何をしろと言うのです」
「いや。ただ励ましに来ただけだ」
「うん」
尖った声に2人は穏やかな声で返す。小さいプラチナは警戒心を解かないものの、何かこの2人は自分には嘘は言っておらず、本当に自分を励ましに来たのだと感じた。
「……いつかの未来とはいつなんですか」
問う。自分が本当に未来を救えるのなら、それはいつのなのか。この問いにはパールは悩んだ。具体的に言ってしまうと、おそらく何か不都合を生じるのではないかと。
ダイヤもそれは少し感じていたものの、パールほど深くは悩まず答える。
「君が旅に出た、その歳の時に」
パールは真っ直ぐ伝える。その真っ直ぐさに小さいプラチナは小さく頷いた。
「わかりました。私は……旅にで、るま、で……」
小さいプラチナは途切れ途切れに言うとその場にうずくまるようにして、眠ってしまっ
た。それを見て、パールはダイヤを見た。
「ダイヤ!?おまえ、なにしたんだ!?」
「ん。べーが持ってた実で作った安眠薬を入れたの。お嬢様になんでそんなにぼんやりなんだろうなって聞いたら、その会話の後はなぜかベッドの上だったって聞いて。だから、いまいち思い出せなかったって。それにこのお嬢様はあまり寝てなそうだったから」
「いつの間に……」
パールは呆れ果てたが、でもこれでプラチナはまた戻るだろう。
2人は小さいプラチナを誰かが気づくようにわかる場所へと移動してから、誰にも見つからないように、庭から出た。
ただそこに、プラチナはいない。
「あれ!?お嬢さん、どこ行った!?」
「えー!」
2人は大慌てで辺りを探し出そうと動こうとする。だが、その時自分たちの体が光出した。
「え、なにこれ、パールー!」
「もしかして……たぶんだけど元の時代に戻るんだと思う!」
「お嬢様は!?」
「どうしようもねぇよぉぉ!!」
2人はプラチナを置いていってしまったという罪悪感を感じながら、自分たちが光に包まれていくのを見るしかなかった。
光が収まった後は、漫才を披露していた公園。パールとダイヤは肩を落として、近くの遊具に座った。
「どうしよう……オレたち、お嬢様と帰ってこれなか」
「どうしました?」
後ろから声が聞こえて、パールとダイヤはびっくりして振り返る。プラチナがきょとんとした顔で2人を見ていた。
「急に戻りましたね。そちらは上手くいっ、きゃ!?」
プラチナは2人が抱きついてくるのを予想できず、目を白黒させた。
「お嬢さん、どこ行ってたんだよ!」
「いなくてびっくりしたよ〜!」
2人の心配様に、自分のふとした行動がそうさせてしまったと気づく。
「すみません。私は私で小さいあなたたちに何かお伝え出来ればと思って」
「オレ・オイラたちに?」
言葉が重なりながらパールとダイヤはプラチナを腕から解放し、尋ねた。それにふふ、と優しく微笑した。
「そうです。あなたたちが小さい私をまたやる気にさせてくれた、そのお礼に」
そう言うプラチナにパールは腕を組んだ。その頃、プラチナのような人に出会ったか、記憶は無い。
「ダイヤ、なにか心当たりあるか?」
「うん、たぶん」
「ほんとか!なんだ!?」
ダイヤの言葉にパールは迫る。ダイヤはパールのひっ迫さに動揺せずに口を開く。
「ダイヤに見せたでしょ、手紙」
「手紙……?なんかあったか、てが、み……」
パールも何やら思い出したらしく、目を見開き、ばっとプラチナを見る。
「お嬢さんだったのか……」
「はい」
にこやかな顔で答えるプラチナ。それを見て、パールとダイヤは嬉しそうに顔を見合せ、プラチナの手を引っ張って座らせてから、彼女の前に立つ。
「それじゃさっきの続きやるから見てくれよ!」
「はい。お願いします」
「いくぞ、ダイヤ!」
「オッケ〜。ポケモンといえば〜?」
「ポケモンといえばぁ!」
2人の漫才が再度始まる。その後の掛け合いに、プラチナはクスクスと面白そうに笑う。
彼女が小さい彼らに宛てた手紙。その中身は。
『あなたたちの漫才は最高のものです。これからも諦めず続けてください。 2人の1番のファンより』
自分たちは小さい頃のお互いを鼓舞していた。その事実。3人の絆はこれからも堅い。