真夏の反射光 まるで蒸籠の中を歩かされているような登校日の帰り道、川べりを歩いていると、耳に入るだけで体感湿度が爆上がりしそうなびちゃりびちゃりという水気満載の足音と、騒がしい声が耳に届いた。
「……なにやってんの、アナタたち。川にでも落ちたのかしら?」
口から溢れる鈴のような、見た目のわりに落ち着いた声に滲むのは呆れ。
「あ、ばーちゃん! 今河川敷でクロと水鉄砲してたんだよ」
「こんにちは彩芽さん。今日も暑いですね」
「アナタたち見たら湿度が20%は上がった気がするわ」
べっしょべしょの姿で生温い水を滴らせ、髪や服に泥やら草やらを鬱陶しくまとわりつかせて歩いているのは、曽孫の次ぐらいに(但しその間には越えられない壁がある)可愛がっている青年と、その弟子。どちらかというと、青年のほうがより酷い姿だ。いやどっこいどっこいか。せめてタオルで拭いてこいと思う。
「水鉄砲でどうやったらそんな状態になるのよ。タンクを何度空にしたわけ?」
「だってクロが大量破壊兵器使ってきやがって」
「先生が極悪改造水鉄砲用意してくるのなんてわかりきってましたから」
「……ほーんと、お似合いの師弟だこと」
手先が器用かつくだらないところで姑息な師と、とびきりの知性と身体能力を盛大に無駄遣いする弟子。なんていいコンビだろう。半分皮肉で、半分本気。青年が生まれてから20年以上、こんなにも全力で遊び合える相手がいないまま育ってきたことを知ってるのだから、尚更そう思う。丹己はどうしたってラムネを弟のように甘やかしてしまったし、自分も、彼の師も、大事にしていたとはいえ同じ目線で一緒に遊んであげるような大人ではなかった。
弟子ができて張り切っているのは見た目にも明らかで、きっと彼なら甘っちょろいところや危なっかしいところもありつつも、少年にとって良き師であるだろう。どういう経緯があったのかを彩芽は知らないが、きっと、まだ始まったばかりの彼の人生を、良い方向へと導く出会いだったに違いない。けれど、もしかしてそれ以上に、ラムネにとっては。
涼しさの欠片もないほど水浸しになりながら、お互いに文句を言い合いながら、けれどその金色には、かつて自分たちが誰も与えてあげられなかった何かがきらきらと輝いて、水飛沫に反射して見えた、ような気がした。