Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    遊兎屋

    @AsobiusagiS

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 😍 😘 💚
    POIPOI 42

    遊兎屋

    ☆quiet follow

    【虎伏】原作軸
    怖い夢を見た伏と、伏を離したくない虎のお話

    #虎伏
    ItaFushi

    ワンライお題【夜/温度】







    息苦しさと恐怖感にバチっと目が覚め勢いよく起き上がる。
    荒い呼吸が徐々に落ち着いてきて息を吐きながら両手で顔を覆う。その手が覚えのない恐怖で震えてるのが分かる。

    深呼吸…
    ふわりと甘い匂いがしてきて、すんっと匂いを嗅げばしっとりと澄んだ匂い
    ああ、窓を開けたまま寝たのか。
    ぼんやりする頭で携帯をタップすればパッと明るくなった画面に2:00と文字が浮かぶ。
    今回の任務で少し無茶をしたせいか筋肉が悲鳴を上げて軋む身体にまた息を吐く。

    「…くそ」

    ガシガシと頭を掻いて何に対してか悪態をついて起き上がる。
    何か夢を見ていた気がして、思い出せないそれにもイラつく。
    悪夢だ…別に思い出さなくても良い内容だ…
    そう言い聞かせてイラつきを追いやる。
    じんわりと身体に広がる寝汗が気持ち悪い。
    着替えようかと考えていれば、ふわりと柔らかい風の入り込んでくる窓に目が行く




    ざりっと砂利が靴底に擦れて小さく音を立てる。
    春の夜
    空気が澄んでいて少し冷たい風が気持ちいい
    高専に咲いている桜がゆらゆらと揺れて花びらが舞う。
    戻っても寝れそうにないしな…
    眠気が戻ってくるまで此処で適当に時間潰しでもするか…
    そう思って近くのベンチに腰掛け、1人のシンっとした空間に脱力する。

    「……玉犬」

    かたかたと、未だに震える手をするりと擦り合わせて、自然と形を組み、呼び出す。
    ずるっと影から這い出してきた式神がすぐに足元に擦り寄ってきてアォンと小さく鳴く。
    まるで心配しているかのようなそれに優しく頭を撫でてやる。

    「ありがとな…大丈夫だ」
    「くぅん」

    目を伏せ耳を倒す玉犬に緊張が解れて詰まった息を吐き出す。
    ザーッと葉が擦れる音が大きく聞こえ強く風が吹く。
    目を瞑り強風をやり過ごす。

    「あれ?伏黒?」
    「……虎杖」

    風が過ぎ去ったと同時に声が聞こえてタンクトップに半袖姿の虎杖が立っていた。
    流石にまだ寒いだろ、その格好
    馬鹿は風邪引かないを地でいきそうな虎杖に小さく息を吐く。

    「なにしてんの?寝れない?」
    「…お前こそこんな時間に何してんだ」

    首を傾げながらタッと走り寄ってきた虎杖が玉犬の目の前でしゃがみ両手で撫で始める。
    夢見が悪くて飛び起きました。
    なんて素直に言うにはプライドも羞恥心も無駄に聳え立ち、さらりと質問を質問で返す。

    「さっきまでホラー映画見ててさ!なんか部屋に居づらくなっちゃったからちょっと散歩」

    呪術師がホラー映画見て怖がってたらわけねぇな。
    そう思いながらもへへっと照れたように笑う虎杖が眩しくて目を細める。

    「そうか、あんまり夜更かしすんなよ。明日に響くぞ」
    「明日休みなんだなーこれが」

    よすよすと玉犬を撫でるのに満足したのか、どかっとベンチの横に座る虎杖を横目で見てそうかと小さく返す。
    撫でてくれと目で訴えてくる玉犬に小さく笑ってしまう。遂に撫でられ癖がついたのか。

    「伏黒も明日休み?」
    「ああ」
    「なんか用事ある?」
    「いや」
    「…………デート、しませんか」

    ぱたぱたと尻尾を振る玉犬をゆっくりと撫でながら虎杖の短い質問に簡単に返事をしていく。
    少し間があって緊張で硬い声が聞こえてきて、驚きで横を向けばじっと見つめてくる虎杖と目が合う。

    「…だめ?」
    「…駄目とは言ってない」

    伺うような目でこっちを見てきているのに恥ずかしくなって顔を逸らし答える。
    恋人同士になってもう暫く経つしヤることやってるはずなのに、何でこんなに気恥ずかしいのか。

    「やった!じゃあ早く帰って寝ようぜ!」
    「さっきのしおらしさはどこ行ったんだ?」
    「だって伏黒、あの顔弱いでしょ?」
    「おまっ」

    勢い良く立ち上がった虎杖が俺の前に立って手を伸ばしてくる。
    さっきの捨てられた子犬のような顔からは想像できない切り替えに嫌味を吐けば、にっと悪戯が成功したかのように笑って言われる。
    その言葉に驚きで顔を上げれば思った以上に近くに虎杖の顔があって、あっと思った時には唇に体温を感じる。

    「ん!」

    ちゅっと音を立ててすぐに離れたそれに一気に顔が赤くなるのが分かって俯いて腕で顔を隠す。

    「可愛い」
    「可愛くねぇ」
    「そう言うことにしといてあげる。…帰ろう、風邪引いちゃう」
    「ッ、お前の格好で言われたくない」

    虎杖の差し出された手が俺の手を握って立ち上がるのを促す。
    虎杖の手のひらの熱さがじんわりと広がってきて、いつの間にか手の震えが収まっている。
    玉犬が嬉しそうに後をついて来ていて空いている手で頭を撫で、術式を解く。

    「ね、伏黒さん一緒に寝てくれませんか」
    「は?1人で寝ろ」
    「いやー、俺ホラー映画見た後よっ!?しかも今、丑三つ時って言うじゃん!?」
    「お前可愛こぶっても駄目だぞ」

    ゴリラの癖に何言ってるんだか。
    呆れを含んだ目で虎杖を見ればさっきとまるで同じ捨てられた子犬のような顔で俺のことを見ていて思わず笑ってしまう。
    種明かししたばっかりのおねだり顔で言われてもな。
    寮までの道を手を繋いで歩きながら笑い合って歩く。
    たわいも無い話をして、明日のデートは何をするのか、何処に行きたいのか、そんな少し進んだ未来の話をする。
    小さな幸せを感じながら、大きな手を握り返す。
    絶対に離さない…
    離したく無い…

    結局、部屋の前に着いて手を離そうとしても全く外れなくて、必死な虎杖に俺が折れる形で虎杖の部屋に招かれる。

    狭いベッドにぎゅうぎゅうになって、向き合って横になる。
    体温の高い虎杖の身体が近くにあるせいか、布団の中がすぐに温もり心地いい。
    うとうととし始めた俺をジッと見てくる視線に顔を上げて虎杖を見る。

    「ん?いたどり?…はやくねろ」
    「うん、伏黒、おやすみのチューしていい?」

    布団の中でするりと虎杖の足が絡んで来て、腰を抱き寄せられ距離が近づく。
    眠気で回らない頭が虎杖の言葉を処理しきれず、全てを理解する前にこっちから虎杖にキスを送る。
    色気も何にも無い、まるで子供に送るような、唇を押し付けるだけのキス

    「ねろ…」
    「うん、伏黒…」
    「…なんだよ」
    「好き」

    満足したのか、嬉しそうに擦り寄ってくる虎杖の頭を撫でて半ば夢の中に片足を突っ込む。
    柔らかく落とされた言葉に目を瞑って、回らない舌で答える…。
    きちんと伝わったのか、確認する前にすっと意識が落ちていく。







    ホラー映画を観ていたのはほんと。
    ただ、隣から小さく聞こえてくる唸り声にテレビの音量を落として様子を窺っていた。
    チラリと時計を見れば針は2時を指していてシンっと静まり返った部屋から、小さく聞こえてくる音を注意深く拾う。
    暫くしてドアが閉まる音が控えめに聞こえたから、テレビを消して、後をつけた。
    少し距離をとって歩き、伏黒の後をついていけば高専に咲く大きな桜の木の下で伏黒がぽつりと立っていて、なんだか落ち着かない気持ちで眺めていた。
    月明かりに照らされて、夜桜を見上げる伏黒は綺麗で、ごくりと喉が鳴って見入っていた。
    桜の樹の下には屍体が埋まっている。
    爺ちゃんが昔、俺を怖がらせるためにそう言っていた。
    「夜桜は気を付けろ、攫われてしまうからな。」

    ブワッと強く吹いた風で桜の花びらが舞って、目を瞑ってしまい伏黒の姿が見えなくなる。
    目を開いた時には姿がないかも。
    そんな一抹の不安があって焦って目を開けてみれば、伏黒がベンチに座っていて安心する。
    攫われてしまう前に、そう思ってすぐに声を掛ける。
    出来るだけ自然に
    ホラー映画にビビって寝れないと可愛い嘘を吐いてまで離れたくなかった。

    少し顔色の悪い伏黒を心配しながら、さりげなくさりげなく罠を掛ける。
    伏黒の弱い顔を駆使して、予定を捻じ込んで、俺の布団にまで押し込んでしまえば、やっと安心できた。
    ひんやりとした伏黒に体温を分け与えるよう身体を抱き寄せて、離さないように近付く。

    うとうとと寝入りそうな伏黒を眺める。
    もう呂律も回ってない様子が可愛くて力一杯抱き締めたくなる。

    「好き」

    寝る前にどうしても伝えたくて、聞こえてるか分からないけれど一言伝える。
    うっすらと目を開いた伏黒の瞳がゆらりと揺れたかと思えば、伏黒が小さく笑う。

    「ん…おれも」

    微笑みながら寝息を立て始めた伏黒に、心臓が握り締められてるんじゃないかと言うほど苦しくて、可愛くて愛しくて、もうほんと、この子は!!
    なんて1人で興奮する。
    ドキドキと高鳴る心臓で、暫くは寝れそうに無くて、安心しきった顔で眠る伏黒を眺めて過ごそう。
    何枚か写真撮ってもいいよな…
    起きない程度に、伏黒の髪の毛や頬を触りながら、睡魔がやって来たら目を閉じる。
    伏黒の少し低い体温が、ちょっとずつ温まって来ているのを感じて満足する。
    まるで体温でマーキングするみたいに…
    攫われないように腕の中に抱き締める。










    END
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    👍❤💖😭💞
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works