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    遊兎屋

    @AsobiusagiS

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    遊兎屋

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    【宿伏】

    #宿伏
    sleepVolt

    宿伏版ワンライ
    (箱庭)
    ショタ宿×セラピスト伏
    伏を狙うショタ宿と狙われた伏のお話








    目の前にはなにも入っていない箱が置いてある。
    その横にはさまざまな種類の人形や家具を模様したフィギアなど、小さなものから大きなものまで。
    白く塗りつぶしてある部屋の中、俺とセラピストの男だけの空間に玩具というには些か抵抗のあるそれは異様に目立つ。

    「宿儺、好きに置いてみろ…自由に」
    「…」

    少し緊張を浮かべる瞳を覗き込めば俺が困惑しているのだろうと思ったのかにっこりと慣れない笑顔を浮かべるセラピストが言う。
    自由に…などと、自由を知らぬ奴がよく吐ける。

    「箱庭療法というやつだろう」
    「え…」

    俺の言葉にびくりと肩が跳ねるのが見える。
    その動きに目を細めればしまったと顔を歪めた俺に目線を合わせるためにしゃがみ込む。
    まさか年端も行かぬ子供がそんな単語を知っているとは思わなかったのか折角作った笑みはぎしりと歪んでいる。
    どうするかと考えているだろうセラピストの男の瞳がうろうろと彷徨っていて、その幼稚さに思わず口が緩む。
    俺と人形を行き交う翡翠のような瞳が綺麗で、きめ細やかな肌が白く、ライトに照らされて輝いているように見えて手を伸ばす。

    「宿儺?」
    「わかった…好きにしてやる」

    お前がそう望むなら…
    手のひらに触れた頬は少し冷たくて首を傾げるセラピスト…伏黒恵を見詰める。
    俺の様子にスッと眉を寄せた伏黒恵が声を落とす。

    「やりたくないならやらないていい、これのことを知ってるなら尚更…やる必要もないだろ」
    「まぁ、見ていろ」

    滑らかな肌の感触を楽しんでするりと撫でれば口を閉じた恵は見守ることにしたようだ。
    その様子を確認して、まずは、と目を走らせる。

    …まずは赤
    各色ごとにバケツに入った砂を見て赤色の砂を箱へと敷き詰める。
    それから中心に少し山を作り、その周りを囲うように適当な人形をばら撒く。
    人間の形や動物の形、さまざまな人形を山を囲うように撒いていく。

    「これでいい」
    「もう…終わりか?」
    「ああ」

    砂がついた手を何度か叩いて赤を落としていく。
    その間に伏黒恵が分からない、と表情に浮かべながら首を捻るものだから思わず笑い声が漏れる。

    「けひっ」
    「この周りに散らばっている人形は?」
    「人形だ」

    不思議で耐えられなかったのか俺の箱庭を指差す伏黒恵へと答えればますます首を捻る。
    言葉の通りだ…
    人形
    それが全てだ。
    人間でも獣でも、その全てに俺は興味が無く心底どうでも良い…
    それ故の人形

    「この山は?」
    「そこは俺の特等席だ」
    「?」
    「ここには伏黒恵…お前が立つ」

    人形は取り敢えず置いておくことにしたのか、次は山を指差して聞いてくる。
    山の上にいるのは俺、そしてその真正面…山の下に立つのは伏黒恵
    そうして砂を指で突いて示す。

    「…なんで人形を立てない?」
    「言っただろう、人形は人形でしかない。俺にとってお前は違う」

    困惑する表情に目を細めれば納得したのか納得していないのか曖昧な頷きが一つ落とされる。

    「そうか…。おやつにするか」
    「…」

    砂で汚れた手が引かれる。
    冷たい手が俺の手を掴んで白い部屋から抜け出す。
    伏黒恵が立ってしまえば俺の位置からでは綺麗な翡翠を覗き込むことが出来ず、ただ跳ねる黒髪が揺れるのを眺めるだけになる。



    この施設へ来たのはセラピーを受けるためだ。
    俺が発見された当時、5人ほどの大人が倒れ臥している中に立っていたそうだ。
    周りは血溜まりで悲惨な現場だったと聞いた。

    聞かなくても覚えている…実際に手を掛けたのは俺なのだから。
    心配そうに俺を見下ろしてくる大人たちは俺にとって人形でしか無く、血溜まりに倒れたそれも人形でしかない。

    凄惨な場に居たからと言って俺に目を向ける事もなく、犯人探しが始まる。
    全くと言っていいほどに無意味で無価値な行為に何度となく嘲笑した。
    その後、捨て子だという俺は孤児院へと入れられてそこでの生活を送りながら定期的にこの施設でセラピーを受けることになった。
    そうして現れたのが伏黒恵だった。
    何人目かの担当の交代…さて、伏黒恵は何人目だったか。

    「今日から担当する伏黒恵だ」

    子供に対して笑みも浮かべずたったそれだけの自己紹介だった。
    椅子に座る俺へと向けられた瞳が真っ直ぐと俺を視界に入れていて、見られていると意識させられた。
    目があったんだと自覚した時には綺麗な翡翠は瞼で覆われてしまって資料を確認しているのか俺ではなく紙を見る。
    それがどうしようもなく歯痒くて、俺を見て欲しいと思った。

    「…宿儺」
    「?」
    「俺の名だ…伏黒恵」

    気付けば久しぶりに震わせた声門から言葉を発していて不思議そうにまた俺を見てきた伏黒恵の瞳にゾクリと知らない感覚が背筋を這う。
    内心で困惑しながらも、見逃さない様にもう一度俺の姿が収められた瞳を覗き込めば、スッと細まり伏黒恵が柔らかく微笑む。

    「そうか…よろしくな、宿儺」

    息を呑むほどに美しいと思った。
    そう感じたのは初めてで人形と一括りにするのは惜しいと思えた。
    もっと名前を呼んでほしい…
    もっと俺を見ろ…
    手に入れたい…
    そんな欲がたった数分で湧いてくる。



    「…宿儺?」

    伏黒恵の声で意識が引き戻される。
    目の前にはなにも入っていいない箱ではなく、クッキーが数枚とココアが置いてあって目の前に座る伏黒恵が首を傾げて俺の顔を伺う。
    子供扱いされているなんて当たり前な事に憤りを感じながら無言で大人しくクッキーを齧りその甘さに内心で舌を打つ。

    「体調が悪いなら早めに言えよ」
    「…ああ」

    全くもって見当の外れた伏黒恵の言葉に頷き、もそもそとしたクッキーをココアで流し込みながら伏黒恵を眺める。
    人形でないのだから壊せば元には戻らないだろう…
    今のままでは子供として、伏黒恵の庇護欲から逃れる事は出来ない。
    どうすればこの男を俺だけのものに出来るのか。
    考えを巡らせる。
    まずは保護や庇護が要らないようにならなければならない…
    歳は縮まらないにしても、立場や関係なら幾らでも縮められる。
    ああ…愉しみだな

    「伏黒恵、好きだ」
    「ん?俺もお前の事は好きだよ」

    俺の言葉に資料を捲る手が止まって苦笑と慈愛の満ちた声が向けられる。
    俺のものとは全く違う清らかなその言葉に、予想外なんてなくてそうだろうなと内心でため息を吐く。

    「此処に来るのはもう止める」
    「…嫌になったか?」
    「そうだな…此処にいても無意味だ」
    「そうか」

    前々から考えていた事を伝えればただ寂しそうに頷いただけでまた資料を捲る。

    「…止めないのか」
    「言っただろ、お前の好きな様にすれば良い。」

    つれない素振りを見せる伏黒の言葉に気付けば机に乗り上げ伏黒恵の滑らかな頬に手を当てる。
    驚いた様に顔を上げた伏黒恵の瞳を覗き込んで吸い込まれる様に距離を縮めて唇へとキスをする。

    「っ」

    息を飲み込んだ伏黒恵に目を細めて唇を離せば赤く染まる頬に満足する。
    俺の知らない一面…
    初めて見る表情に心が躍るのが分かる。

    「な…お前…っ」
    「俺の好きにしていいと言った…。俺はお前を必ず手に入れるぞ。嫌なら精々もがいてみせろ」

    口元が緩むのが抑えられない。
    将来、伏黒恵を捕まえる日のことを考えれば色褪せた世界は変わらずとも手を伸ばす光が差して見える。

    見下ろした伏黒恵には揶揄いと受け止められたのか、少しの怒りが浮かぶ翡翠が俺を見上げてくる。
    ああ、その表情も堪らない…



    「伏黒恵、待っていろ」








    end.

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