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    dokoka1011056

    @dokoka1011056

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    dokoka1011056

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    あてられた訳じゃない

    ※言葉遣いが下品。腐向け強め。

    #distortion
    #リクミキ
    #R-15

    フェアリーテイルしとしとと雨が降る、肌寒い秋の日が、ここ何日か続いていた。その日も、今にも大降りになりそうな鈍色の雲が広がるなんとも気が滅入る天気だった。特筆すべきこともない、静かな、退屈な日になる予定だった。

    最初にそれに気が付いたのは、マックスの読書感想文に必要な本を探すのを手伝っていたグーフィーだった。城から少し離れた別棟にある第2図書室で、ある事件が起きていた。





    「ここです。王様」

    第2図書室は、広さ50m×50m高さ4.5mの平屋で、緩やかなアーチの屋根に10m×10mの天窓が4つ付いた造りになっている。すぐ側には大きな楓の木が立っていて、四方に伸びる枝が、図書室に降り注ぐ陽射しを防ぎ、秋には鮮やかな紅葉も楽しめる。
    城内の第1図書室には、歴史書や魔導書など、主にデータを持った本が収められている。対してここ第2図書室には、物語や画集などの読み物が収められている。

    「本当だ。ひびが入っているね…」

    梯子の上で、ガラスの状態を見る。普段なら灯りをつける必要がない程に採光してくれる青みを帯びた窓ガラスが、真っ赤な楓の葉に埋め尽くされている。おかげで室内は1ブロック先も見えない程暗い。
    おそらく、落葉時期の異例な雨で、アーチ状の屋根を滑り落ちる筈の葉が窓枠などの溝に貼り付いて、積もりに積もった結果、窓ガラスの強度が限界を迎えたのだろう。3日後に、屋根の清掃・点検、改修作業が行われる予定だったのだけど、間に合わなかったようだ。

    「ほんと、大事故になる前に気付いて良かったですねぇ」

    梯子から飛び降りる。トッと軽い音が室内に反響する。グーフィーの言う通りだ。ここには意外とたくさんの人が出入りするし、2日置きに蔵書数のチェックも入る。見つけたのは小さなひびだが、もし割れたら、人も本も、大惨事は免れない。スケジュール的には厳しいけど、この後すぐにでも、点検作業をしなければならない。

    「はぁ………」

    リクが周りを見回して感嘆の声をあげる。360°どこを見ても本だ。ディスティニーアイランドには大きな図書館は無いのかな。
    知識に飢えた若い瞳が、きらきらと輝く。吸い寄せられるようにふらふらと本棚に歩み寄っていく様子は、好奇心旺盛な子犬みたいで、微笑ましい。見ていたいけど、今は我慢。先にしなければならないことがある。

    「さぁ、リク、グーフィー。できるだけ人をたくさん呼んできて!」

    今まさに、一冊の本の背表紙に指をかけようとしていたリクが、はっと我に返ったように振り返る。

    「ボクは騎士隊のみんなを呼んできます。リクはソラ達を呼んできて、ドナルドに魔導師達を集めるように言っておいて」

    たった一言で僕の意図を理解したグーフィーは、てきぱきと小走りで本棚の陰に消える。取り残されたリクは、ワンテンポ遅れて言葉を呑み込んだようで、すぐに微妙な面持ちになった。ソラ程では無いにしろ、顔にすぐ出る辺りは、まだまだ子供だなと思う。

    「ミッキー…まさかとは思うが……」

    「これからガラスを外すからね。覆い隠すくらいじゃ湿気から守れないし、全ての本を城内に移動させるんだよ。」

    嘘だと言ってくれと、顔に書いてある。ごめんね、嘘じゃ無いんだよ。





    ガヤガヤと、たくさんの人が行き交う。一つしか無い入り口にみんなが殺到するので、ごった返しで、誰が誰だかわからない。本を持って出て行く人と、本を取りに来る人がぎゅうぎゅうになりながら入れ替わっている。流石に指揮を一人で執るには限界があった。全く指示が通らない。

    (効率が悪過ぎることに誰か気付いて〜!)

    「これ魔法とかでなんとかなんないのー?!無理だってー!!」

    人と扉の間で押し潰されているソラが、断末魔のような切実な叫びをあげる。ソラを外に引っ張り出そうとしているドナルドが、「なんだってー?!」と聞き返す。人が多過ぎて、大声を出さないと会話すらままならない。

    魔法を使って本を移動させられないのには、いくつか理由がある。
    一つは、城内での魔法の使用には制限があるから。有事の対応を除いて、基本的に城の中では魔法の使用が禁止されている。なぜなら、城の中には、空間に働きかけるタイプの魔法を使った、防犯システムが張り巡らされているからだ。下手に引っ掛けでもしようものなら、城下町にも響き渡る程のけたたましいブザーと共に、大量の近衛騎士隊が配備されることになる。すごく迷惑で、びっくりする。(まぁ、システムに引っ掛からないくらいの小さな魔法なら、みんな使っているけど。)
    今回の場合、これだけの本を動かすには、かなり大掛かりな魔法を使う事になってしまう。システムを一旦解除してみては?という意見も出たのだけど、チップとデール曰く、「再設定するとブレーカーが落ちるかも」との事。よって、この方法はボツ。

    もう一つの理由の方が、一番の要因だ。
    ここに納められている本は、実はかなり価値のある物が多い。一冊で、家が何件も建つような恐ろしい値段の物や、数百年前に著された物もある。装飾が脆くなっている危険性もあるので、一気に移動させて傷をつけるわけにはいかないのだ。

    作業開始から3時間。現在の進行状況は…

    「4割…まずまずのペースだね。」





    結局、午後から雨が降って来たり、途中から分類がバラバラになっている事に気が付いたり、修繕が必要なボロボロな本が見つかったりして、何度か作業が中断された為、全ての本を移動させるのに10時間程かかってしまった。すっかり日も暮れてしまったが、自分たちの仕事ぶりに対する達成感は大きかった。誰からともなく拍手が沸き起こり、グーフィーの提案で、最後は僕の一本締めで終わった。





    その後は各々が家や持ち場に帰っていき、何人かが本を読むためにその場に残った。ソラとカイリとドナルドは夕食をとりに、僕とリクとリア、それからグーフィーは本を読むことにした。
    本を移動させた部屋は、謁見の間と同じくらいの広さで、西と東の壁に細い窓が一つ。もう何年も使われていなかったため、家具が一つもなく閑散としていて、照明器具さえ取り外されているが、掃除が行き届いた清潔な部屋だった。
    特別な装飾が施されている本は、床一面に敷かれた柔らかい布の上に、倒れたドミノのように、少しずらして重ねてある。一方、装飾が無い本は、壁際に塔になってそびえ立っている。

    さて、どれから読もうか。と視線を巡らせていると、視線の端で何かがきらりと動いた。驚いてそちらを見ると、本の塔の最上階から金色の光が僕の目を射抜いた。眩しくて首を傾けると、背表紙に金字で印されたタイトルが、沈みかけの真っ赤な夕日の破片に瞬いている。
    ちょうど良いと思い、塔に近づいてから、踏み台が無ければ手が届かないことに気付く。つくづく自分の身長が恨めしくなる。諦めて別の本を探そうとした時だった。白い人影がすっと屈んだかと思うと、膝かっくんされるような形で片手で抱えられ、いきなり高度が上がる。

    「ちょっと、リク!」
    「これ取ろうとしてたろ。」
    「えっあ、ありがとう…。」

    本を手渡されると思いきや、どこで読む?とリクが僕を抱えたまま歩き出す。いきなり方向転換するぞわっとする感覚に、彼の頭にしがみつく。
    床に置かれた本や、座って本を読む人の間を縫って歩き回る。よく見ると、本以外にも誰が何処から持ち込んだのやら、ソファーや洒落た間接照明があり、ちょっとした憩いの場と化している。
    リクが選んだのは人が少ない東の窓際のソファー。座る気が無いのに持って来たのか、自分はもう満足したのか、ソファーの主らしき人物は周辺に見当たらないので、座らせて頂く事にした。
    いつも通り膝の上に乗せられて、本を手渡される。振り返ると、さぁどうぞ読んで?とでも言うような顔でリクが微笑む。仲間内の空間では無いだけに、膝の上というのは多少の居心地の悪さを感じたものの、室内に射す薄オレンジ色と、大量の本が創り出す非日常的で、ノスタルジックな雰囲気に飲み込まれ、すぐに気にならなくなった。

    インクに浸したような真っ青な表紙に、金色の糸で上の方に小さく『fairy tale』とだけ。作者も出版社も無い。表面を撫でると不自然なざらつきを感じる。傾けて光の当たる角度を変えると、薔薇を象った凹凸があるのがわかる。特殊な装飾が施されているが、流れ作業の中では気付かれずに、塔の最上階まで上り詰めたのだろう。読み終わったら床に置いておこう。

    開く。
    本編を読み始める前に、背後からの視線と、抱き締められる腕の熱さに気が付く。

    (変に意識する前に集中してしまおう。)





    内容は、ありきたりな泥沼恋愛劇。中世をモチーフにしたようだが、時代背景などはあまり凝っていない、オリジナリティの強い物語だ。
    作者は何を思って『fairy tale』と題したのだろう。
    愛というテーマに付き従う、崇高さや甘さ、心震わす恋の片鱗すら無い、ただ恋敵に向けられた叩きつけるだけの憎しみ。まるで複数の人間が筆を取ったかのように、登場人物の想い・感情を綴ったきめ細やかな、ある種の透明さが垣間見える文章。
    腹上で踊る白濁、拭っても拭っても滲み出る赤、喉の奥に絡まる嗚咽、あまりに生々しい描写に眩暈がした。

    (文字がセックスしてるみたいだ。)

    こんな人前では言えない、低俗で品の無い表現すら、この濃密なインパクトを持った作品の前では、子供の言葉遊びのように感じる。頭がおかしくなりそうだ。そういう意味で、『fairy tale』というのは、合っているのかもしれない。




    肩越しに本を這っていた彼の視線が意識の外に弾き飛ばされていた事に気が付いたのは、余韻に浸っていた時だった。背後からは、すーすーと穏やかな寝息が聞こえる。肺に古い空気が澱のように残っているような、どこか息苦しい感じがする。
    彼の腕をそっと解き、立ち上がり、窓を開けた。東からせり上がってくる明るい夜も、時が止まった部屋も、冷たい大気によって、エントロピーを増大させていく。
    仄暗い気分を振り払いたくて、彼の肩に手を置いて、顔を覗き込んで見た。
    彼はぱちりと音がするほど唐突に、意識を取り戻した。月光を吸い込んだような銀色の睫毛に縁取られた、浅瀬の海のような瞳と、見つめ合う。お互い言葉も無く、唇が重なった。
    何故そうしたかはわからない。誰かが見てるかもなんて考えるよりも、そうするべきだと感じた。あの瞬間、一瞬ではあったけど、確かに僕らはお互いの区別を無くして、一人一人じゃなくて、同一の存在だった。


    0距離の温もりと、むせ返るような雨上がりの匂いだけが、未だ靄がかかった頭に、初めての現実として刷り込まれていく。
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