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    dokoka1011056

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    魔法が解けたあと

    #distortion
    #リクミキ

    R.I.P秋の終わりのよく晴れた寒い朝だった。窓ガラスに出来た氷細工の繊細な模様が、オレンジ色の朝焼けを未だ暗い馬車の中に投影した。


    深夜、城に電話が来た。数日前にご容態が悪化したとの連絡を受けてから、祈るように日々を過ごしていたが、死の誘いから逃れることは、終ぞ叶わなかった。葬儀は郊外の小さな教会で執り行われる事になったらしい。厳かな儀式に水を差さぬ為にも、ミニーと話し合って、葬儀には僕一人で行く事にした。王と女王二人での参列となれば、護衛が厚くなり、他の参列者も気を散らせかねないと考えたからだ。
    エルーカさんに、よろしくね。とミニーは言った。彼女は僕らと同い年だが、母親を幼い頃に亡くし、兄は、数年前に隣町の貴族の家に婿入りしてしまったため、夫のいない彼女が次の家主になる。兄の嫁ぎ先との仲は悪く無いようなので、目は掛けて貰えるだろうが、暫くは周囲の者の支援が必要だろう。最愛の父を亡くした彼女の心情は、察するに余る。
    沈んだ気持ちで、自室に戻る気分にもなれず、気付けば客間のドアをノックしていた。縋るような気持ちで2度、返事はなかった。寝顔だけでもいいと思い、ドアを開けた。
    月明かりが照らす窓辺に、仰向けに横たわる彼を見て、予習をするような錯覚に陥りかけ、はっと声をかける。ぱちりと彼は目を開けた。本番では無いが故に。
    思いもよらない幸運に、甘えた気分になった僕は、つい彼の腕の中で寝入ってしまい、浅い眠りから醒めると、時計の針は4:00を指していた。起こさぬよう静かに腕をどかし、来た時と同じように、小さく開けたドアの隙間にするりと身体を滑り込ませた。

    誰もいない廊下を歩く間、世界中、僕以外の時がみんな止まっているような気がした。光が差す前の水色の朝すら、突き放すようだった。

    普段とは違う藍色のモーニングに身を包み、数人の護衛をつけて馬車に乗り込む。
    秋の終わりのよく晴れた寒い朝だった。窓ガラスに出来た氷細工の繊細な模様が、オレンジ色の朝焼けを未だ暗い馬車の中に投影した。


    小さな教会の中で、牧師さまのお話の後、掠れるほど小さな声で賛美歌を歌い、外に出ると、少し離れた所に栗毛の2本の長い耳が見えた。

    「エルーカさん。」
    「あら、おはようございます。王様。」

    「この度はお悔やみ申し上げます。」その先に続く言葉が見つからず、暫しの沈黙。彼女は唇をきゅっと結び、瞬きを2度した。そして、「今日は父の為に来てくださり、ありがとうございます。」と少し震えた声で告げ、お辞儀をしたあと、棺の積み込まれた馬車の方へ、足早に跳ねていった。顔を上げた時、長い睫毛が光ったのが、嫌に焼き付いた。

    その後、近隣の村を通過し、墓地へ向かう馬車の中で、彼に関する記憶を反芻した。

    初めて会ったのは、王に即位する2週間前。ブラウンのスリーピースに、サーモンピンクのプレートのループタイが印象的だと思った。「まぁ、頑張りたまえ」と悪戯っぽく笑いながら去っていく背中に、少しむっとしたのを今でも覚えている。
    1つ思い出せば後は数珠繋ぎに記憶が溢れてくる。
    会う度に身長をからかわれた事。真っ二つに折れたステッキを糊で修理して使い、頻繁に下半分をどこかに落としていた事。国の財政が傾きかけた時、机上の知識に頼り切っていた僕の意識を、社会に向けてくれた事。民の暮らしを考える目が、他のどの政治家よりも真剣だった事。服装はループタイに合わせていた事。タイは父の日の、エルーカさんからの贈り物だという事。エルーカさんの話をする時、いつもよりずっと優しい声になる事。
    記憶が鮮明になるほど、気分は沈んでいった。鼻と喉の奥が、つんと痛んだ。

    考えているうちに墓地に到着し、ぼうっとしたまま葬儀は進み、最後の別れを交わした後、彼は永遠に土の中に眠った。

    みんな教会に戻ったが、僕は午後から予定があるので現地解散する事にした。誰もいない墓地で、僕は石の前に立っていた。
    涙が出なかった。凄まじい喪失感で、心は切り裂かれている筈なのに。
    僕はなんて薄情なんだと、失望した。


    この下にいるのが友達だったら、僕は泣けるだろうか?


    ぞくりとして、突然浮かんだ危ない思考を慌てて振り払う。異常だ、と思った。同時に腹立たしかった。無意識のうちに、僕は仲間を信頼していなかったのか、と。

    (でももし…)

    その考えは、消そうとするほどしつこく振り返した。

    僕はその考えに既視感を覚えた。戦いに赴く前、あるいは最中、機械的に敵を薙ぎ払う手足とは別の場所で、ちらちらと意識の端に映る光景。
    あぁ、あれか。と僕はすんなり納得した。安心して忘れたふりをしていたんだ。幾重にも重ねた慟哭が、本番では無いが故に。

    あの光景は恐らく、今日の日と同じ、冷たい石の下に彼等がいるという物。背水の陣の代わりに、自分を奮い立たせる為の妄想。暗い土の中に幾度も彼等を閉じ込めて、幾度そのR.I.Pの前に跪いただろうか。模範的な一般化された恐怖を背に、幾度最悪のパターンをこの手で掻き分けて来ただろうか。

    その後、街で用事を済ませ、帰路についたのが13:30頃。帰城したのが15:00。護衛の者に労いの言葉を掛けて別れ、くたくたの身体を引きずってラウンジに向かう。朝から何も口に入れてない。空腹感が一周回ってただの吐き気と化してる。昼になり暖かさを増した黄色い大気と、真っ青な空が、鬱っぽい気分を少し晴らしてくれた。
    ラウンジに向かって長い廊下を歩いていると、甘いチョコの匂いがしてきた。そういえば丁度おやつ時だなと思い、知らず足が早まる。
    扉を開けると、ぎゃあぎゃあとした喧騒が視界いっぱいに広がる。テーブルの周りを、チョコケーキの乗ったお皿を持ったソラが走り、ドナルドがそれを追いかけている。元気だなぁと思いながら、ソファに座りそれを見ているリクとリアに話しかける。

    「ただいま。」

    「おかえり。」

    何気無い会話も、ずいぶん久しぶりに感じる。脇の下に手を差し込まれ、膝の上に乗せられる。初めは、年下をたぶらかす様で抵抗があったし、ドナルドも、不敬罪だ!と怒ったりしていたが、今では、リクの膝に収まる僕、という絵面も見慣れた物になった。
    そのまま手に温かいボリュームのあるチョコケーキが乗ったお皿が渡される。が、抱きすくめられて体の動きが制限される。肩に顔を埋めたリクの頭をぽんぽんと撫でながら、どうしたの?と聞いてみる。

    「…だって、朝起きたらいないし。城にもいないし…。」

    寂しかった。と拗ねた子供の様に言ったリクは、本当に心の底から愛おしかった。
    隣に座るリアが、くくくと笑って、

    「こいつ朝からミッキーが足りないーって叫びまくってうるさかったんだよなぁ」

    と言った。それは言わない約束だっただろう!とリクが少し赤くなった顔を上げる。

    「…僕もリクが足りなかったなぁ」

    とお返しのように言うと、リクはぽかんとしてから、満面の笑みで、そうか〜とまたじゃれ付いて来た。リアの、リア充爆発しろというセリフは聞こえないふりをして、今度こそ、僕はケーキにありついた。




    大好きな人たち。見送る側になんてなってたまるか。
    僕が生きてる限り、全員首根っこ引っ掴んででも引きずり戻してやるから覚悟しろ。
    安らかな眠りなんて存在しない事を、思い知れ。
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