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    somakusanao

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    somakusanao

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    捏造ばかりの梵天のバレンタインの次の日の話。竜胆視点です。

    #ココイヌ
    cocoInu

    2月15日 今年も無事に十五日を迎えることができた。神様ありがとう。
     灰谷竜胆は、信じてもいない神に感謝した。それほど梵天の二月十四日は荒れるのだ。二月十四日。セントバレンタインデー。これは蟲毒かといわんばかりの愛人たちによるキャットファイトの一日である。
     今年は死人がでなくてよかったなぁ。しみじみと望月が呟いた。誰も答えなかったが、みな心はひとつだった。
     ちなみに死人は出たことはない。表面上で出たことはない。人知れず海に沈んだか、山に埋められたか、高級マンションで孤独死か。女ってえげつないと梵天をして言わしめるほどである。
     しかしその地獄のバレンタインデーも終わった。今日は平和だ。少なくとも今日だけは平和だ。神様ありがとう。神様というものがなんだかちっとも分らぬが、そう言っときゃいいんだろ。竜胆の足取りは軽い。
     竜胆がこれから向かう先はバレンタインデーチョコレート保管室である。誰がいちばんチョコレートを貰っているか。それは男の勲章である。バレンタインを蟲毒に喩えはしたが、それはそれ、これはこれ。
     食いもしないチョコレートだが、やはり目指すべきはてっぺんだ。
     ふんふんと鼻歌を歌いながら、竜胆は『マイキー』と書いてある部屋を覗いた。マイキーと書いてはあるが、これはマイキーの部屋ではない。マイキー宛てのチョコレートが保管してある部屋という意味だ。
     文字通り、山のようにチョコレートが積んである。マイキーがもらうのはチョコレートだけではない。薔薇の花束、貴金属、高級マンション、高級車、はたまた旅行チケットまで。若くして頂点にのし上がった美貌の王、マイキーは反社のアイドルなのだ。あちらの極道から、こちらのマフィアまで、なにかにつけてこぞって送り付けてくる。つまり男からの贈り物がダントツに多い。最初こそ三途は怒り狂ったが、マイキーが無反応であることに、留飲を下げたようだった。

    「うーん。やっぱマイキーは別格だな」

     無敵のマイキーはバレンタインでも無敵である。不動のナンバーワンすぎて、殿堂入りし、バレンタインチョコトップ争いから除外されることになっている。竜胆がそう決めた。
     次に向かったのは馬鹿でかいフロアだ。梵天の部下たちを一堂に集めることも出来るそのフロアに、チョコレートの山ができている。こちらが幹部へ送られたチョコレートの山だ。その差は一目瞭然である。

    「今年も明司か~」

     梵天の相談役である明司武臣が今年もナンバーワンであるらしい。三途が荒れるのも、毎年の恒例である。明司はなにしろ顔が広い。つまり手広い。老若男女問わず手を出す。本人にそのつもりはないのかもしれないが、うまいことを言って誑かす。これはもはや天性だろう。ふだんから愛人たちの刺した・刺さない案件もトップである。
     竜胆の個人的見解からすれば、明司も殿堂入りしていいんじゃないか。マイキーが反社のアイドルなら、明司は天性のクズだ。最初はなんでこいつが相談役かと思ったが、なるほど「相談役」である。

    「お次は誰かな」

     竜胆はぐるりとチョコレートの山を見比べた。チョコレートは乱雑に積んであるだけで、集計されていないため竜胆の独断と偏見によるが、うーん、これは。

    「鶴蝶かな……」

     蟲毒もかくやのバレンタインだが、鶴蝶はゆいいつバレンタインらしいチョコレートを貰っている。孤独な生い立ちの鶴蝶は女たちを支援してやっている。女だけではない。金のない若い衆を食わせてもいる。なぜあのイザナに育てられて、こうも健全に育ったのは最大の謎なのだが、鶴蝶に恩を受けた者たちはこぞって鶴蝶に感謝している。つい先日、鶴蝶がミスをして追われることになったが、鶴蝶ファンたちのつよい支援で無事に帰ってきたことは記憶に新しい。

    「あとは団子だな~」

     ざっと見比べてなんとなく九井が多いような気がするが、これは金策に走る九井が顔が広いということだろう。九井はあれで女にやさしい。「幼馴染」という禁句を口にしなければの話だ。切れた時の九井は怖いが、通常の九井はスマートな男だ。とはいえ、九井が抱える闇は深い。よっぽど馬鹿な女でなければ九井に手を出そうとは思わない。つまり九井あてのチョコレートは義理チョコが多そうだった。無難なチョコレートが並んでいるあたりからも、察しが付く。
     その点、望月は逆である。望月のチョコレートは一見少なそうに見えるが、よく見れば同じメーカーのチョコレートが多く、それでいて被りが少ない。つまり望月の好みを鑑みているうえで、愛人同志がうちあわせをして送っているということだ。望月には決まった女がいる。銀座。赤坂。六本木。渋谷。各所に女がいる。銀座の女は美しく、赤坂は頭がよく、六本木は心得ていて、渋谷は若い。反社らしいと言えば反社らしい。こういういかにも反社な男が梵天にいることは、安心感を与えるものだ。のべつまくなしに手を出す明司よりずっとマシだ。
     灰谷兄弟の数はほぼ同じである。灰谷兄弟はハニートラップ要員を飼っている。王道のパーフェクト美人から、ロリ巨乳、眼鏡美女、地味オンナ、人妻。女だけじゃない。薄幸の美青年や、天真爛漫な美少年。各種とりそろえ、相手の好みに合わせて送り込む。彼らに金を与え、美貌に磨きをかけさせるのが灰谷兄弟の仕事である。兄と夜な夜な飲み歩いているいるのは遊んでいるだけではないのだ。マイキーと年恰好のよく似た青年を見つけたときは、兄と手を合わせて喜んだものだ。これでいざというときの身代わりができた。そういう事情もあって、竜胆と兄のチョコレート数は同数である。
     最後になったが、三途のチョコレートは危険度が高い。某漫画に「スタンド使いはスタンド使いにひかれ合う」なる台詞があるが、メンヘラもメンヘラにひかれ合うのだろう。三途宛のチョコレートはオクスリ使用度が高かった。一見、普通の市販のチョコレートに見えたとしても、よくよく調べてみたら注射痕があったらしい。三途がふざけて海に捨てたら魚が浮いてきたという噂が梵天ではまことしやかに流れている。こわいこわい。

    「まあ、去年とほぼ同じだな~」

     竜胆の中で決着がついた。満足した竜胆が踵を返そうとしたとき、思わぬ人物に遭遇した。
     乾青宗だ。
     九井のおさななじみ。
     バイク屋に勤めている男がなぜここにいるのか。
     ビルにいることはどうでもいい。このビルは梵天の持ち物であるが、フロント企業であるため、さしてなにがあるわけでもない。だからこそチョコレートの山を築いているわけだ。
     竜胆が乾に気づいたのだから、乾も竜胆に気づいた。「すげぇな」とごく普通のことを言うので、竜胆も「だろ」と返す。

    「でも、なにが入っているかわからねぇから、食うことはないかな」
    「そうなのか」
    「オレらはね。鶴蝶や望月は食ってるみたいだけど。九井はオレらといっしょで、食わずに全部処理させてるな」
    「ココは用心深いからな」

     乾はぐるりと辺りを見回して、「九井」と札のついたエリアに気づく。呆れたような顔をして、山を見上げ、もういちど「すげぇな」と言う。

    「マイキーのはもっとすごいぞ」
    「まじで」
    「見る?」
    「見る」

     誘うとあっさり頷いたので、ついて来いと手招くと、「ちょっと待ってくれ」とストップをかけられた。ポケットから何かを取り出して、チョコレートの山に突っ込んだ。

    「なに、いまの」
    「ココ宛のチョコレート。処理されるんなら、オレがあげてもいいかなと思って」
    「ふぅん」

     乾の立場は微妙だ。九井のおさななじみで、そして。
     拗らせているのは本人たちだけで、まぁようするに九井の愛人だ。
    「待たせたな」と言って乾はにっこりと笑って、竜胆の後に続いた。マイキー宛のチョコレートの部屋を見て、ひとしきり笑って、「ドラケンに見せるから、画像撮っていい?」と言われたので、許可した。乾の滞在はほんの三十分にもならなかっただろう。あっさりと帰っていった。



     さて竜胆は九井に呼び出しを食らった。麗しのクールビューティ様の髪が乱れているのは、チョコレートの山をひとしきり探ったからだろう。用心深い九井は、乾の動向を常に見張っている。GPSに盗撮、盗聴器。ありとあらゆるものを使って乾の行動を監視し、今回の悪戯に気づいたのだろう。嫌がらせかもしれないが、竜胆にとってはどちらでもいいことだ。

    「竜胆、おまえ、イヌピーのチョコを見ただろ」
    「うーん。一瞬だったからな」
    「いますぐに思い出せ」
    「うーん」
    「おまえが欲しがっていたマンションを買ってやってもいい」
    「マジで? えっと、こんくらいの四角い、ティファニーっぽい青い箱のやつ」
    「リボンは」
    「ついてなかった」
     
     それだけ聞くと九井は飛び出していった。すでに候補をあげていたのだろう。竜胆の証言が決定打になったということか。九井のことだから、チョコレートだって逐一チェックをしていただろう。十四日以降に増えたチョコレートなんて、たいした数じゃないだろうし。

    「ま、がんばってこいよ」

     たったひとつだけのチョコレートがほしい。そんな気持ちがわかるときがオレにも来るのかな? 
     竜胆は肩をすくめて、兄のもとに向かう。今日はなにして遊ぼうか。チョコレートより兄と遊ぶ方がたのしいのだから、竜胆が九井の気持ちがわかるようになる日はまだまだ先のことだろう。
     

     

     


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    mocha

    PASTドラケンが暇つぶしに作ったキュウリ製のバイクを持ち帰ったイヌピーが赤音のことを思い出してモヤモヤする話。同棲しているココイヌ。未来捏造、両片思いのすれ違いネタ。ココはイヌピーと付き合ってるつもりで、イヌピーはココに赤音の身代わりにされているつもりでいます。
    ココイヌ版ワンドロ・ワンライのお題「お盆」で書いたものです。
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     どこからかそんな話を聞いてきたらしい龍宮寺堅が、乾青宗に渡してきたのは馬ではなくバイクだった。キュウリを使って作ったバイクは、馬よりも早く死者に戻ってきてほしいという意味らしい。
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