乾いた心に、愛情いっぱい がらり、温かさを感じる灯りの漏れる横開きのガラス戸を開くと、ふわりと食欲をそそる匂いが忠の鼻腔を擽った。
「いらっしゃいませー」
出迎えた明るい声に小さく会釈を返すと、勝手知ったるとばかりに空いた席に座る。あまり広くはない店内の、一番端のテーブル席。向かいの椅子に書類とPCで厚みを増した鞄を置くと、壁側の椅子に座る。特にこだわりがあるつもりはないが、空いている時はいつもこの席に座る。なんとなく、落ち着くのだ。
「ご注文は?」
人懐こい笑顔を浮かべた少年が、水の入ったコップとおしぼりを手に聞いてくるのを見て、空腹を感じながら口を開いた。
「……いつもので」
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元々、捌いても捌き切れない量の仕事を、過労死ラインを越えるのも気にせずに必死にこなしていた真っ黒な勤め先で、労働改革という余計なお世話でしかないキャンペーンが突然開始された結果、指定された退社時間まで粘っても終わらない仕事を持ち帰り、帰宅してもひたすら仕事をする日々が始まった。
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