映画 あのベストセラー小説の初恋三部作の映画が公開された。クラスで既に観た子達は連日のように映画の感想で盛り上がっていて、わたしも観てみたいなぁと思い、みちるとひかるに話すと、
「そこはやっぱり男子と行きなよー」
と、男の子とのデートで行くべきだと言われてしまった。男の子とかぁ……わたしにとって身近な男の子と言えばやっぱり幼馴染である玲太くんだ。玲太くん、こういうの好きかな、と思いつつ、玲太くんに電話すると、
「ああ、付き合う」
と、あっさりOKしてくれたので、次の日曜日に一緒に初恋三部作を観に行くことになった。
そして、日曜日。玲太くんと一緒に映画館へ向かう。玲太くんが買ってくれたポップコーンを間に二人で並んで座る。
「そう言えば、おまえと映画に行くの初めてだよな」
「うん、そうだね」
「しかもラブストーリーなんてさ」
「えっ、もしかして、違うのが良かった?」
「むしろ正解」
玲太くんは意味深に笑う。どういうことだろうと聞こうとしたら、
「ほら、始まるぞ」
上映が始まり、玲太くんの声でスクリーンに目を移す。
「……」
気づけば、ポップコーンを食べることも忘れて夢中で観ていた。ベストセラーに相応しいストーリーで目が離せなかった。玲太くんはどうかな? と隣の席の玲太くんに目を移すと、真剣な表情で映画を観ていた。良かった、玲太くんも気に入ってくれたのかな、と思ったそのとき、手に何かが触れる感触がした。ちょうどクライマックスのシーンで玲太くんがわたしの手を握っていた。感情移入しちゃったのかな……? いつかバイトで偶然手が触れ合ったときのようにドキドキしたけど、映画の影響なのか何なのか自然とわたしもそっと手を握り返した。
映画が終わり、外に出た。
「今日の映画、最高だったね!」
と、玲太くんに話すと、
「ああ、それにしてもさ、俺たちの境遇にかぶせちゃうよな!」
玲太くんも気に入ったようで良かった。すると、玲太くんは不意にわたしの名前を呼んだ。高校で再会してから彼には苗字でしか呼ばれていないので、驚いた。
「入学式の日は、タイミング逃したけど、昔はこうだったよな?」
「うん、そう呼んでくれたね」
「だからさ、俺たちにはこっちの方が普通。……だろ?」
玲太くんは昔のようにわたしをまた名前で呼ぶと言う。これも映画の影響なのかな。それとも……でも、玲太くんにこうしてまた名前で呼ばれるのは嬉しいから、
「うん、そうだね」
「だよな」
玲太くんも嬉しそうに笑った。
「よし。じゃ、行くか……あっ」
玲太くんが歩き出したときに気づいた。そう言えば、映画館からずっと手を繋ぎっぱなしだった。
「俺はもう離す気ないよ」
「わ、わたしも……このままがいいかな」
玲太くんとずっとこうして一緒にいたい、そう思った。
「映画やドラマの幼馴染はすれ違いになるけど、俺たち真逆だよな」
「そうだね」
と、玲太くんと笑い合う。
映画館での出来事は二人が前より少し近づけた、そんなきっかけだったかもしれない。