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    amaneazumaa

    @amaneazumaa
    使い方の練習も兼ねて書き散らかしています。
    魔道祖師はアニメ、陳情令視聴。翻訳版原作読了。ラジドラ未履修。江澄の生き様にもんどりうってる。

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    amaneazumaa

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    少年双傑話の続き。
    この話は夢と希望とねつ造に次ぐねつ造で出来ています。

    #曦澄
    #魏無羨
    WeiWuXian
    #江澄
    lakeshore

    ともしびを手に 3「長沢からの手紙だ」
    手紙を取り上げた江楓眠は、それを魏無羨へと差し出した。思いも掛けぬ江楓眠の言葉に、魏無羨は瞳を丸くすると身体の動きを止める。
    「……えぇ、と」
    口も固まってしまい、常は過分に回る少年とは思えない、歯切れの悪い言葉しか出てこなかった。
    長沢。魏長沢。知っている。
    父の名前だ。
    江家の家僕であり、江楓眠とは親しい間柄であったということは聞かされている。だから手紙の一つや二つ、残っていても何らおかしくは無いのだ。
    しかし魏無羨は今まで父の残したものを、己という存在以外に知らなかった。それが江家に迎え入れられて数年経った今になって急に現れたものだがら、本来であれば喜ぶべき筈なのに酷く戸惑った。
    「読んで……良いの?」
    「無論」
    まるで出会ったばかりの頃を思わせる、遠慮がちな声に江楓眠は微笑みかけると、魏無羨の手を取って手紙を握らせた。繊維の黄味が強い、少し毛羽立った手触りの手紙を受け取り、蛇腹になった紙をそっと開くと、雲夢江氏宗主江楓眠殿という書き出しが目に入る。
    少し角張った、几帳面な文字だ。とめもはらいもきっちりとしており、崩し書きをしがちな自身の字とはあまり似ていない。
    宗主に宛てる手紙だから殊更に丁寧という事もあるのだろうが、それを差し引いても常にこんな真面目で、実直さがありありと伝わる文字を書く人だったのだろう。一行半を書いたところで筆に墨を含ませ直している。すこし薄くなった次の文字は、また黒々としたものになった。
    どうしてか字の形や墨の色ばかりに意識が向いてしまい、手紙の内容が頭に入ってこない。それでもどうにか魏無羨は手紙の内容を読み進めていく。
    「おい、なんて書いてあったんだよ」
    すっかり動かなくなってしまった魏無羨に江澄が声を掛ける。その問いかけにややあって魏無羨は顔を上げると、つっかえがちに応えた。
    「――俺が、生まれたって、書いてある」
    少年の細い顎と声は、僅かばかりに震えている。
    「お前の、こと?」
    「うん」
    手紙はさほど長いものではなかった。しかし几帳面な文字は丁寧に、男児が生まれたこと、嬰と名付けたこと、安慶のほど近くにある朱家荘と呼ばれる場所にしばらく留まる事などがしたためられていた。そして現状報告以外にも蔵色散人が手慰みに作り、己も少しばかり手伝った他愛のない法器が、荘の人たちに随分と喜ばれたという内容も書かれている。
    「朱家荘に、どれくらい住んでいたの」
    「子どもが生まれて直ぐには動けないから、出産の前後で一年ほどは居たはずだ」
    「一年……」
    「何か憶えているの?」
    「ううん」
    気遣わしげな江厭離の言葉に、魏無羨は首を左右に振る。場所を聞いても記憶に思い浮かぶものは無い。両親の記憶は殆ど無いのだ。ましてや赤子の時の記憶など、頭の中のをさらっても少したりとも出てくることはなかった。
    それでも何か思い出しはしないかと、魏無羨は短い手紙を何度も読み直した。





    夜もすっかり更けた頃、江澄は自室の前に立つ気配を感じ取った。嘆息を一つ吐き出し、読んでいた本を閉じて立ち上がると自室の扉を開けた。
    「……よう」
    扉の前に立っていたのは案の定、魏無羨である。
    あれから魏無羨は気もそぞろであり、手紙の事を考えている事は明らかだった。そして手紙の内容が余程気に掛るのだろう、常であればしない失敗を幾つもしていた。
    「いつまで扉の前で突っ立ってるんだよ」
    流石に江澄であっても心配になっていたが、気遣う言葉のかわりに常の憎まれ口を叩くと、江澄は手を引っ張って魏無羨を部屋に引き入れた。
    魏無羨が引き取られてからは二人で使っていた江澄の部屋は、この春に魏無羨に部屋が与えられたので一人部屋に戻っていた。元々の形に戻っただけなのに、寝台や文机といった大きな家具が減った所為かすかすかとした印象が未だ拭えない。
    中央からややずれた位置のまま、直していない文机まで引っ張っていくと魏無羨を座らせ、江澄も文机を挟んで反対側に腰を下ろす。
    「何か話せよ、気持ち悪いな」
    「部屋を訪ねてきた客にお茶も出さないのかよ」
    「――ついこの前まで部屋に居座っていた、押しかけ野郎に茶が出ると思ってるのか」
    「じゃあいいよ」
    昼間からこのかた魏無羨はどうにもしおらしい。直ぐに引いてしまう、らしくもない態度にふんと鼻を鳴らすと、江澄は湯を沸かし始めた。
    朱家荘に行けば、父さんと母さんを憶えている人はまだ居るだろうか。
    湯が沸き、蓮の花に見立てた模様が浮かぶ青磁の茶碗に注いだ茶を一口飲んでようやっと魏無羨は口を開いた。
    つるりとした青磁の感触を指で撫でながら、江澄はどうだろうなと応える。
    「十年も前の事なんて俺は憶えていない」
    「俺も。でも、大人なら憶えているのかな」
    二人からしてみれば十年前はろくに話せもしない二歳の時だ。二十二歳の大人であれば十年前は十二歳だが、大人が十年前の事をどれだけ憶えているかは、子どもである二人には分からなかった。
    「母さんの話は、ちっとも聞いた事がないんだ」
    父である魏長沢は江家の家僕でもあったので江家でも話を聞くことは出来たが、山から下りてきた蔵色散人の事は姿を知る程度の者しか居なかった。
    江楓眠もあまり語りたがらず、虞紫鳶に聞こうものなら眦をつり上げるばかりで語ろうともしないだろうという事は、随分前から囁かれている噂を考えれば当たり前の事だろう。
    魏無羨はあの手紙を見つけてから、父母の事を知りたいという気持ちが急に強くなっていた。
    それは父が確かに父であった、母が確かに母であったという事が蓮花塢では見えない所為なのだろうか。大人顔負けの口達者と思考回路であると自負があれど、魏無羨はその心に掛かる霧の原因を明確化することが出来ていなかった。
    蓮花塢以外の場所で話を聞ければ、何かが分かるかもしれないとただ思うばかりだ。
    「朱家荘に行けないかな」
    茶碗を覗き込みながら魏無羨は呟く。江澄が注いだのは甘い香りとは裏腹に苦みの強い蓮子心茶で、徐煩安神の効能があると言われるが、飲み干しても心が落ち着くことはなかい。
    「……安慶は江氏の管轄の外だ」
    江澄の応えは渋い。結丹をし初陣も済ませたが、夜狩は護衛を付けた上で、雲夢の周辺までしか未だ許されてはいない。
    「安慶までなら長江で船に乗ればいい」
    江澄は魏無羨の顔を見る。真っ直ぐに見詰め返してくる眼差しは、質問が口先ばかりで、今すぐにでも朱家荘に行きたいと語っていた。
    「そんな遠い場所まで門弟が付いてきてくれると思うのか。第一、母さんが許可しない」
    「一人でだって平気だ」
    「邪祟や夜盗が出たらどうする」
    「もう結丹してるんだ。随便だって佩いてるし、御剣の術だって出来る」
    「子ども一人で宿が借りられるのか」
    「夏なんだから、外で寝たって凍えるわけない」
    「母さんにいやってほど怒られるぞ。もしかすると紫電で打たれるかもしれない」
    「覚悟してる」
    「途中で犬に出くわしたらどうするんだ」
    「う……」
    そこで初めてよどみなく応えていた言葉が途切れる。江澄は口をへの字に曲げて言葉を続けた。
    「犬を追っ払えるなら一人で行けよ」
    真に魏無羨が一人で行こうと思っているなら、こうして夜に部屋へと来るはずがない事を江澄は分かっていた。
    口では反対ばかりを告げながらも、江澄は魏無羨の言葉を待っていた。
    たんと音を立てて飲み終えた茶碗を置くと、江澄と同じく待っていた魏無羨はその手を掴んで告げる。
    「俺じゃ犬を追い払えないんだ、江澄」
    「またお前の尻拭いか、魏無羨」
    少年たちの口角はいつの間にか笑みの形につり上がっており、その瞳には悪童じみた輝きを湛えていた。
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     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
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    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
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     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
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     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
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     昨夜、なにがあったのか。
     夕食は藍忘機と魏無羨も一緒だった。白い装束の江澄を、魏無羨がからかっていたから間違いない。
     それから、江澄を客坊に送ろうとしたら、「碁はいいのか?」と誘われた。嬉しくなって、碁盤と碁石と、それから天子笑も出してしまった。
     江澄は驚いた様子だったが、すぐににやりと笑って酒を飲みはじめた。かつて遊学中に居室で酒盛りをした人物はさすがである。
     その後、二人で笑いながら碁を打った。
     碁は藍曦臣が勝った。その頃には亥の刻を迎えていた。
    「もう寝るだけだろう? ひとくち、飲んでみるか? 金丹で消すなよ」
     江澄が差し出した盃を受け取ったところまでは記憶がある。だが、天子笑の味は覚えて 1652