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    takami180

    @takami180
    ご覧いただきありがとうございます。
    曦澄のみです。

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    曦澄ワンドロワンライ
    第十一回お題「香、香り」

    本編終了後、付き合ってないけど体の関係はある曦澄。(支部の雨路を通う、の二人です。単体でも読めます)
    阿瑶の名前が出てきます。ご注意ください。

    #曦澄

     藍曦臣の袖からふわりと広がった香りに、江澄は眉根を寄せた。
     白檀にかぶせるようにして、甘い気配がただよう。常であれば清涼で透明感のある白檀の香が、まるで霞がかっているかのようだ。
     かつて、江澄が金鱗台を訪れたときには親しんだ香りだった。常に金光瑤の隣に立つ藍曦臣からただよっていた香りそのものだ。
    「今日は姑蘇からいらっしゃったのではなかったか」
    「いいえ、金鱗台から参りました。本当は一昨日には雲深不知処に戻っているはずだったのですが、あいにく雨に降られてしまって」
    「それは災難だったな」
     藍曦臣は微笑んで窓から空の様子をうかがった。
     長い黒髪が重たそうに揺れる。
    「また、雨ですね」
    「ここのところ雨続きでな。しかし、弱い雨だ。明日には上がるだろう」
    「ええ……」
     江澄は机について、藍曦臣にも座るようにうながした。
    「それで、今回はどのようなお話かな」
    「次回の、清談会のことで」
     そう、とつぶやく藍曦臣は机の前ではなく、江澄の隣に座る。どういうつもりかと尋ねる前にぱっと手を握られた。
     白檀と同時に甘い香りが江澄にまとわりついた。
    「江宗主、今晩は雨です」
    「そうだな」
    「街に下りるのも大儀ですので、こちらに泊まってもよろしいでしょうか」
     江澄は藍曦臣を見ない。じっと見つめてくる視線を感じながら、あえて前を向いたまま答えた。
    「もちろん、客房を用意させよう」
    「できたら」
     藍曦臣の手に力がこもる。
    「こちらに泊まりたい」
    「ここは俺の房室だ」
    「知っています。だから、清談会のご用で私を呼んだのでしょう?」
     にっこりと笑む藍曦臣は江澄の手を持ち上げて、軽く腕を引いた。
     江澄も逆らわずに、すっぽりと袖の中におさまった。

     「じうじうはらんそうしゅとなかよしなの?」
     「仲良しなどではない」
     「でも、おじうえはらんそうしゅとなかよしだよね」
     「そうだな。金宗主と藍宗主はいつも一緒にいるだろう?」
     「いっしょにいる!」
     「同じ香りがするだろう?」
     「する!」
     「それは仲良しだからだな」

     江澄は夜闇の中に身を起こした。
     懐かしい夢を見た。
     あの頃の自分が聞いたら目を向いて怒りそうだと江澄は苦笑した。まさか、その香りに囲われるようなことになっているとは。今でも幻想ではないかと思う時がある。
     しかし、隣で眠る人のぬくもりは幻想にはほど遠く、体に残る重みと痛みはいやに生々しい。
     江澄のため息は、蓮花湖に落ちる雨音にかき消された。
     弱かったはずの雨足はいつのまにか打ちつけるほどになっていた。
    「江澄……?」
    「ああ、すまない、起こしたか」
    「いえ……、どうかしましたか」
     伸びてきた手のひらが江澄の頬に触れた。ほどいた髪をすいて、背中をやさしくなでていく。
    「体が痛い?」
    「いや、ふと、目が覚めただけだ」
    「そう……」
     江澄が横になると、再び腕が腰をつかまえて引き寄せる。
     藍曦臣のまとう香りはまだ消えず、さわやかなはずの香りが、やけに重たく感じる。
    「おやすみなさい」
     体をぴったりとくっつけて、まるで大切なものを閉じ込めるように抱きしめられる。
     藍曦臣のくせである。
     江澄は再びため息を落とした。
     こんなふうに扱われては、本当の恋人にでもなったように勘違いしたくなる。けしてそうではないと知っている身には少々つらい。
    (でも、明日には)
     これで、甘い香りは消えているだろう。そうして、江澄の部屋の香りが、きっと少しだけでも移ってくれる。
     雨はいつまで降るだろう。雨の間は藍曦臣は蓮花塢にとどまるしかない。
     江澄は目をきつく閉じた。
     雨が長引けばいいとは、とてもではないが願えなかった。
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     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

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    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
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     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
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    「怪我はありませんでしたか」
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     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
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     その印は江宗主が東瀛へと船を出している商人から献上されたもので、可愛らしい鳩の絵と「江晩吟」と宗主の姓と字が彫られたものだった。なんでも八月十日にのみ作ることが許されているという特別な物らしい。ただ、あまりにも鳩が可愛らしいものだから、江宗主の通常業務では利用することが憚られ、また子ども受けが非常に良いこともあり体操専用の印となっているとのことだった。
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