本当はもう終わりにしたい チャペルの中は静まり返っていて、パイプオルガンの音が厳かな雰囲気を作り上げる。
カメラマンが構えるカメラも、スマホを構える参列したゲストも、みんなが入り口の大きな扉に注目していた。
扉が開く。一斉に押されるシャッターの音が鬱陶しい。
一歩、一歩。新婦が歩んでくる。一番通路側の席からは、新婦の顔がよく見えた。
「かのちゃん先輩!みーくん、すっごく綺麗だね」
隣のはぐみちゃんが耳打ちしてくる。
美咲ちゃん。
真っ白なドレスを纏う彼女の顔は緊張していて、恥ずかしそうで、でも幸せそうだった。
慣れないドレスに慎重に歩いてくる美咲ちゃんが、私の目の前の通路にやって来る。
距離にして1メートルにも満たない。手を伸ばせば、その手を掴むのは容易だった。
(掴んだら、どんな顔をするかな)
驚くかな。それとも幻滅するかな。
それでもそうしなかったのは、目が合った美咲ちゃんが、気恥ずかしそうに微笑んだから。
隣のはぐみちゃん、更に奥に居たこころちゃんと薫さんが嬉しそうに手を振る。
私も手を振ったけれど、上手く笑えていただろうか。
通路の先で待つ真っ白なタキシードを着た男性の顔は、何故か私にはちゃんと見えない。紹介もしてもらった筈なのに、ちゃんと思い出せない。
高校の時から彼女のことが好きだった。
けれど同性ということから勇気が出せないで、結局私の気持ちを伝えることは無かった。でもこの想いは募っていくばかりで、消えてなんかくれなくて。
どうして隣にいるのが私じゃないの。
これから美咲ちゃんの隣で、私よりたくさんの時間を過ごして、私じゃ知り得ない美咲ちゃんを見れる彼が嫉ましくて仕方なくて。
(ごめんね美咲ちゃん、だいすきだよ)
こんなこと思う資格、私にはないのに。
それでも私は、貴女のことが好きで好きで、欲しくて堪らない。
新郎が新婦のヴェールを外す。肩に手を添える。
二人のキスが見たくなくて、私は誰にもバレないようにそっと目を伏せた。